【2015年7・8月号】 部下がやる気を出す! 魔法の言葉 part3 【褒め方編】

部下のやる気は、上司のちょっとした言葉に左右されるものです。
そこで今回は「褒め方」を取り上げてみました。
どんな褒め方をすれば、よりやる気が出るようになるのでしょうか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。

 

質問しながら褒める「質問話法」

 褒める場合、以前よりも変わったところ、変化した点を褒めるのが前提です。でも、闇雲に「君は変わったね」と言えばいいというものではありません。年上の部下だったり、自信に溢れている部下だったりすると、褒めても【いまさら褒めるの?】と素直に聞けない人もいて、却って関係を悪くしてしまうこともあります。
 特にあなたが他の部署から異動してきたばかりで、すでにその部署やチームにエース級の部下がいる場合など、その部下を褒めても【移ってきたばかりのあなたに何が分かるんだ?】と逆効果になってしまいます。
 この場合は上から目線にならないように、一目置くように「教えてもらいたい」ことが伝わるように言ってみましょう。
 私の実体験ですが、年上の部下にプレゼン資料を作るのがうまい人がいました。「資料を作るのがうまいですね」と褒めても「そうですか・・・」のひと言だけで、そこから会話は続きませんでした。そこで「どうしたらあなたのようにうまくまとめることができるのか教えてもらえませんか?」と訊くと、私はこのようにやっているのですが…とアドバイスを話し始めたのです。私はその時「これだ!」と気付きました。
 「どうしたら・・・教えてください」と質問しながら褒める「質問話法」は、相手も【自分のことを認めてもらえている】と感じ、褒められて「そんなことはないです」と謙遜する人でも何らかの答えを出そうとして会話が続きます。
 また、同行営業の後にでも「あのように話をするといいですね。勉強になりました」と言えば、部下は「褒められた」と素直にうれしく思うのではないでしょうか。
 こうした「褒める」には2つの目的があります。
 1つは部下のプライドをくすぐりやる気を引き出すためです。「君のことを認めていますよ」と、上司としての意志表示となります。
 2つ目は、その部下が持つスキルを部署やチームのメンバーで共有するためです。「教えてください」とミーティング時にレクチャーしてもらうといいでしょう。教えることで、部下のリーダーシップ力を育てることにもつながり、上司の後継者を育てるという意味合いも出てきます。

 

褒めるなら人前で褒める

 「他の人の前で褒める」というのも効果的です。これは対外的というか部下を第三者に紹介するタイミングで、特に新しく担当する部下を連れてクライアントに出向いた際に使うといいでしょう。 例えば、
「この吉田は、パソコンやネット環境に詳しくて、私もよく教えてもらうんですよ」
 「この吉田は、弊社でも3本の指に入る営業マンです。安心してお任せください」
 後者は実際に私が言われたことがある言葉でした。内心は【えっ? 自分は3本の指には入らないと思うけど…】とビックリ。当時の私はたぶん7位か8位あたりだったので、上司はかなり盛って私を紹介したのですが、「本当に3位に入らないといけないかも」と奮起したものです。
 もし実績が何も無い場合は「吉田は対応が迅速で、しかも丁寧だとクライアントの皆様からよくお褒めの言葉をいただいております」と言うのもいいでしょう。
 逆に気を付けていただきたいのは、上司が謙遜し過ぎて「吉田はまだまだ未熟なもので…」とつい言ってしまいがちですがこれはダメです。部下は自尊心を傷つけられ、クライアントも【未熟な人に任せるのかよ】と不安になります。
 さらに「何かあったら私がフォローしますので」もNG。【だったら最初からあんたがやってくれよ】とクライアントは思うでしょうし、部下は信頼されていないとやる気を失くしてしまうかもしれません。特に女性はこの言葉に反感を持つ場合が多いようなので気を付けたいです。また、成長意欲の低い部下なら【上司が助けてくれるのなら、自分は言われたことだけにしよう】となり、やる気なんて出てきません。フォローは黙ってするものなので、「何かあったら私が…」は口にしないほうがいいでしょう。

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ますますやる気が出る「レッテル褒め」

 部下に自信をつけさせ、部下の実績や能力に気付いていることを伝えるのが「レッテル褒め」です。
 以前、私が勤めていた旅行会社で「リゾートのことなら吉田に聞け」と言われたことがありました。たまたまリゾートホテルで過ごす企画が受注になっただけで、リゾートに詳しい人は他にもっといるはずと思いました。でも、これからさらに頑張らないといけないとプレッシャーを感じましたが、認めてもらえた喜びもありました。
 「この企画ならA君だ」
 「この業務ならBさんだ」
 と、オーソライズ(権威づけ)すると、部下もその分野のスキルをより磨こうとします。
 それからミーティングなどで、レッテルを貼った分野についての「講師」をさせてみましょう。これは社歴の浅い、若年層の部下に自信をつけさせるにはもってこいの方法。もちろん自信をつけるという意味では、ベテランでも、昇進が遅れている人や自信を失くしている人などにも「レッテル褒め」と「講師」は効果的です。
 といっても赴任したばかりでしたら、まだわからないので、部下をよく観察することです。それも、「彼のストロングポイントはなんだろう?」と強みをまず見つけることで、その次に弱みを見つければいいのです。弱みはすぐに見つかるものですが、強みはなかなか見つけにくいもの。それが、この「レッテル褒め」をしていると、部下の強みを見つけるのがうまくなるものなのです。

 

第三者を使った「トライアングル褒め」

 「トライアングル褒め」の2つ目の使い方として、「その場に居ない人を褒める」のもいいでしょう。特に褒めるのが苦手な上司は、褒める対象の部下がその場に居ないので、照れずに言えるはずです。
 普通、「その場に居ない人」というのは悪口の対象になるものです。私が見てきた業績が悪いチームでは常に誰かが誰かの悪口を言っています。悪者がいるんです。
 私はそうならないためにも意識して居ない人を褒めるようにしました。すると必ず誰かが居なかった人に「君、褒められていたよ」と伝えてくれて、これはいい効果を発揮しました。
 直接業績には関わらない事務員だとか業務を評価しにくい部署の人、アシスタント的な仕事をしている人、契約や派遣社員に使うといいようです。こういう人たちはやって当たり前と思われているので、失敗すれば注意されても、やって当たり前なので褒められることが少ないからです。
 例えば「営業のBさんが急いで資料を作ってくれて助かったと言っていたよ」「君の電話応対がとても爽やかでお客さんに評判だと聞いたよ」とか、当たり前のことを「トライアングル褒め」を使えば、モチベーションも上がることでしょう。

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その場に居ない人を褒めるのも「トライアングル褒め」

 叱っても叱っても変わらない部下がいます。「この前も言ったじゃないか」はNGです。結局変わらないのは得てしてやり方がわからないことが多いようです。
 こんな時に、よく「自分で考えろ」と言ったりしそうですが、これは上司の勝手な言い草です。上司にすれば、自分で考えて答えを見つけたほうが早く成長すると思うでしょう。けれど、自分で考えてできるのなら、叱られることもなく、とっくにいい結果を出しているはずですから。
 そんな時は、「具体的に何をやったらいいと思う?」と質問してみましょう。これで何か方策があるのかないのかがわかります。部下に方策が無ければ、具体的なアドバイスや指示をすればいいのです。
 また、例えば提案書を持ってきたとします。前回と何も変わっていなかったり、前回と同じところが間違っていたとしても、どこか前回と違う点はないか、良くなっているところはないかを探しましょう。
 同じミスを繰り返すのなら解決策を「一緒に考えよう」と言えば、部下は安心します。どの段階でミスが起きたのか、時系列でたどったり、チャート図にしてみたり。指示待ちタイプの部下なら、2〜3の改善案を提示して、どれを選ぶかを考えさせるのです。

 

若い部下や落ち込みやすい部下には、やる気を出す「サ行のつぶやき褒め」

 昔、「さすが」とか「すごい」が口癖の上司がいました。思わず口から出てしまったという「つぶやき」のような感じなので、私はわざとらしいとは思わず、素直にうれしかったものです。
 部下を持つようになった私はこれを「つぶやき褒め」と称して真似て、経験の浅い人や、落ち込みやすいけれど褒められると勢いがつくムードメーカータイプには意識して使うようにしました。
 さらに他のつぶやきを追加し、「サ行のつぶやき褒め」として改良したのです。
 「さすが」⇒成績のいい部下に使います。あまり成績のよくない部下には皮肉に聞こえてしまいます。
 「知らなかった」⇒知らないことは上司として恥ずかしいことではありません。知らなかったと言えば、部下はさらにより詳しく報告するものです。
 「すごい」⇒頑張ったことが成果に出た時が効果的。以前、営業不振の部下が、連続して契約を取ってきた時に、「すごい」と言ったらさらにやる気を出して成績を伸ばしたことがありました。
 「せっかくだから教えて」⇒部下の意見や提案に興味をもった場合はもちろん、わかりづらい時にも使ってみましょう。結局その提案が採用されなくても部下は納得し、次も提案してみようと思います。
 「そうくるか」⇒上司が思っていた事と反対の事を言われると、つい「でも」「だけどさ」「そんなはずはないだろう」と言ってしまいそうですがこれはNG。そう否定されると次の機会に部下は【どうせ言ってもな…】と何も言わなくなってしまいます。その時は「そうくるか」「そうきたか」とまずは否定せずに受け止めるつぶやきを使いましょう。また、サ行ではありませんが「確かにね」もいいでしょう。

 

【2015年6月号】 元気な企業は、 こんなことを している!

~時代適応力~
「時代を見抜く」ことは経営に必須の条件だが、これが簡単ではない。今回紹介する3社は私が最近取材した中でも「時代適応力」に秀でている企業である。

 

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消費者の「本物志向」に応える

私が住む横浜の住宅街。
街道筋から一本折れた小道に「その店」はある。駐車場スペースはかなり広く、車の出入りも多い。店の中に入ると商品を専用カゴに入れた人がレジ前に列を作っている。

お菓子屋のレジに行列?
この人気店こそ「シャトレーゼ」だ。「郊外のロードサイド立地がうちの基本です。店舗数は現在457店。北は北海道から南は鹿児島まで、地方店舗が多く、山手線内には出店していません」

齊藤誠社長はこう説明する。
「シャトレーゼ」は山梨県に本社を置く菓子の製造小売業である。

 

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「ナマのケーキにバウムクーヘンといった洋菓子、大福に饅頭、せんべいなどの和菓子、アイスクリームにパンまで自ら製造して販売しています」(齊藤社長)

店内を見ると確かにさまざまな菓子が並ぶ。和洋菓子を折衷で並べているから客層も多彩だ。

人気の一つに価格の安さがある。ショートケーキで280円、どらやきなら1個108円だ。

「卵や牛乳などを契約農家から直接仕入れ、自社工場で製品化、卸を介さない販売の結果です。東京に本社を置く会社が銀座の価格帯で全国販売するのとは違い、ふだんから親しんでいただける価格帯で販売しています」(齊藤誠社長)

齊藤社長には今日の経営の原点になった「ある経験」がある。

「30年ほど前、週末にロールケーキの増産に追われました。それまで冷凍の液卵を仕入れて使用していましたが、間に合わず近くの市場から卵を購入して手作業で割ってスポンジケーキを作ったのです。すると、いつもとスポンジのふくらみ方が全く違う。食べてみるといつものケーキより明らかにおいしい、と感じました。新鮮な卵を使うと安定剤や添加物を加えなくても味がいいし、口どけが違うことを実感しました。以来契約農場から仕入れた卵を自社工場内で割って使用しています」

この「卵の経験」がきっかけとなり、同社では素材を直接契約農家などから仕入れる体制つくりが始まった。

「清里高原でストレスのない育て方をしている牧場にこだわって搾乳をお願いしています。ここの牛乳は乳脂肪率が高く菓子つくりに最適です。小豆やイチゴなどあらゆる素材をこうした観点で仕入れています」

最大のこだわりは「水」と齊藤社長は言う。

「白州の名水を求めこの地に工場を建てました。ここの水は軟水で雑味がなく素材の味を引き立てますし、小豆を炊き上げても型崩れせずふっくらと炊き上がります。アイスクリームやゼリー、羊羹などにとって透明感のあるおいしい水は最高の素材です」

「山梨のシャトレーゼ」だからこそ菓子つくりの原料を地元で調達できるという最高の経営条件を持つ。山梨県の3カ所の工場で1500人が働く。

地元の農産物を素材に本物志向の消費者の評価に耐えうる品質をめざし、大きな雇用も生み出す。

地方発、日本の新産業のヒントが見えてくる。

 

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本物はいつも新しい

東京芝大門にある「大島椿」の本社で歓喜の声が上がった。

女性に大きな影響力を持つ化粧品美容のポータルサイト「アットコスメ(@cosme)」で2014年にもっともクチコミが多いと表彰が決まった瞬間だった。同時にフリーペーパー、シティリビング編集部が選ぶヘアケア部門のベストコスメにも同社のヘアオイル「大島椿」が選ばれた。

「化粧品会社にとって大変嬉しいことです。二つの受賞とも20代から40代を中心にした若い女性の評価によるものです。販売90年のロングセラー商品にこうした年齢の女性が興味を持ってくださるのはサイトの口コミによるものです。椿油という天然素材の商品を自分に合った使い方をしているという情報を広げていただいています」と岡田一郎社長。

「ヤブツバキという木の種を工場で圧搾して油を抽出しますが、1本の木から60mlの製品が1本か2本しかできません。しかし椿油はヒトの皮脂と同じ成分を多く含むため肌になじみやすく刺激が少ないことが評価されています」(岡田社長)

 

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昭和2年。岡田社長の祖父で創業者の岡田春一氏は、大学の卒論のテーマを探そうと全国を旅した。たまたま訪れた伊豆大島で女性の髪が一様につややかなことに気が付く。島民が地元の椿の種から採れる油を髪につけていることを知り、これを全国に販売しようと会社を設立した。まだテレビもない時代に「あんこさん」のキャラバン隊を組み、全国に大島の椿油をピーアールして歩いた。

「あんことは地元の言葉であねこ(姐こ)さん、女性の敬称です。絣の着物に帯の代わりの前垂れ、そして頭には手拭いを独特の形に巻いた女性たちは全国に知られるようになりました」(岡田社長)

こうして伊豆大島の椿油とともに「大島椿」は全国に知れ渡る。その後髪油だけでなくシャンプーやヘアケア用品、スキンケア用品など商品アイテムを増やしていくが、いずれも椿油を原料にしてきた。現在は東京八王子に新設した最新鋭の工場で生産しているが、天然の椿油を原料にしていることは昔と変わらない。

岡田社長はいま新しい事業展開に乗り出そうとしている。

それは食用油としての椿油の販売だ。

「これまで食用に使われてこなかったのは、一般の天ぷら油との間に大きな価格差があったからです。椿油はざっと10倍近い価格なんです」

しかし、それでもプロの料理人は椿油で天ぷらを揚げるとカラッとしておいしいと評価する。

「今年はイタリアでミラノ万博があります。日本館のレストランの天ぷらを私たちの会社の『椿てんぷら油』で揚げる話が決まりました。一般への普及はともかく超一流と言われるプロが椿油を選んでくれることがまず大切です」(岡田社長)

日本食が海外で注目される中、椿油がどう評価されるか注目したい。

 

時代の流れに先回りする

タキシードや礼服のメーカーとして知られる「カインドウェア」は明治27年創業、2014年で120周年となった。

「創業者は秋田藩の御典医でしたが東京に出てきて古着商を始めました。古着といっても着古した中古品ではなく既製服のなかった当時は、上流階級が着用した衣料品が民間に払い下げられていました。これからは洋服の時代と考え、その先駆けをなしたのです」

こう語るのは創業家4代目の渡邊喜雄会長だ。

「3代目は戦後、これからは庶民も礼節を重んじる必要があると略礼服を世界に先駆けて開発しました」(渡邊会長)

結婚式にも葬式にもネクタイを替えるだけで来ていける紳士用のダブルの略礼服は一世を風靡する。

 

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「ベビーブーム世代の結婚ラッシュ、その時必要なものとしてフォーマルウェアが大ヒットしたのです。テレビCMにこの世代に大人気だった田中邦衛さんを起用、大きな話題となりました」(渡邊会長)

いまこの世代が中高年となり同社はクルーズ用のタキシードやドレスアップスーツを提案している。

ところで「カインドウェア」には、もう一つの顔がある。

「それは介護用品です。現在は年商の20%くらいですが、5年以内に被服部門の売り上げを上回ることを目標にしています」と渡邊会長。

「創業95周年の時から5年かけて次の100年をどんな会社にするかと、グランドデザインを社内で考えました。いくつかの事業目標が上がりましたが、その中で焦点を絞ったのが『シルバー』でした。当時私自身が親の介護をしていましたが、介護用品に魅力的なものが少ない。早く高齢者になってあんな素敵なものを使ってみたいと思ってくれるような魅力的な介護用品の先駆者になろうと決めました」

 

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中でも主力商品はステッキだ。カラフルな柄物や折りたたみ式など豊富な品ぞろえを誇る。そしてボタン一つで折りたためるステッキも開発中だ。

「高齢者だけでなく、2020年パラリンピックまでに整備される情報インフラを取り込み、IT技術を込めたモバイルメディアステッキの開発を目指します」(渡邊会長)

藩の医者から洋服を先取り、礼服やクルーズ用ウエアを提案、そして介護用品……。

時代に合わせて本業さえ変えていく、その柔軟発想を見習いたい。

【2015年5号】 女性を活躍させるための メンタルケアのポイント!

アベノミクスの成長戦略の一つとして掲げられている「女性の活用」。
読者の職場でも女性ならではの感性や能力、特性を
活かすことを考えていらっしゃることでしょう。
ところが女性をどう扱っていいのか分からないという声もよく耳にします。
そこで、メンタルな部分でどのような点に注意していけばいいのか。
ビジネスマン向けのメンタルケア、メンタルヘルスのコンサルティングで
多くの実績を持つ田村綾子氏にうかがいました。

 

「女性の活用」って本気ですか?

 かつては女性社員というと、高校や短大を出て「入社して数年したら寿退社する」ことが一般的で、多くの人が望む幸せの形でもありました。
 それが、女性の大学への進学率が上がり、1986年に男女雇用機会均等法が施行されてからは、女性も男性と同じように総合職や専門職を選択できるようになりました。
 そしてここ数年では、女性の管理職への登用が注目されています。「能力とやる気さえあれば、女性も男性と同じように昇進させるべきだ」「女性を活用できない企業は繁栄しない」といった類の言葉を日常的に耳にするようにもなりました。しかし、これら言葉は必ずしも事実とは言えない気がします。
 私は以前、講演先の大手企業に勤める女性たちから、こんな本音を聞きました。「産休を取って復帰しても居場所がない」「産休をフルに取ったら、今の自分の席がなくなる」と。実はこのような話は、いろいろな企業で聞きます。出産休暇や育児休暇が制度としてあっても、実際には女性が望むような機能は果たしていないのが現状のようです。
 「女性の管理職者はお飾りに過ぎない」という考えや言葉は好きではないのですが、現状がそのような状況であることは否めません。ある勉強会でお会いした女性から、「私はこれ以上、出世できないんです」と聞かされたことがあります。その方は大手企業で一つの部門の長をされている方でした。すぐに役員にもなりそうな方だったので「なぜですか?」と尋ねると、「未婚で子供のいない女性が役員になっても、会社のイメージにはつながりませんから」とおっしゃいました。食事の席でしたので、すべてが真実ではないと思います。ただ、ニュースなどでも働く女性がクローズアップされる場合、家庭と仕事の両立が謳われていたり、またはシングルマザーで頑張っているなど、「家庭のある人」が少なからず条件のような感じがします。
 管理職になったとしても、部長職以上になる女性は少ないように感じます。また、営業部などの最前線の部門での管理職の登用はあまり聞きません。管理部門での登用というと一見聞こえはいいですが、経営に対する影響力はさほど大きくないように感じます。
 このような状況を見ていると、「本気で女性を出世させようと思っている経営者がどのくらいいるのでしょうか?」と問い掛けたくなるのです。

 

リーダーを望まない女性たち上司も女性も「覚悟」が必要

 一方、女性側はどうなのでしょうか。
 接客業などに代表されるサービス業など、女性の活躍なしでは語れない仕事はもちろんのこと、今やあらゆる職場で収益を上げるには女性の活用は無視できません。
 そこで本気で女性の活用を考え、環境を整えることに力を注いでいる方もいらっしゃいます。しかし私の元には「女性を活用したいのはやまやまだけど、当の女性たちが出世を望んでいない」という声がたくさん届いていることも事実。現状に不満はなく、リーダーになってしんどい思いをするのは避けたいのです。仮に女の子的な扱いであってもそれに満足してしまっています。
 さらに女性のメンタリティにも問題があるような気がします。「仕事へのやる気は男性に負けません」という思いが強いがために、自分が果たすべき仕事以外まで率先して引き受け過ぎて体を壊してしまったり、「なぜ、こんなに頑張っているのに評価されないのだろう?」と悩んだり。
 さらに女性の中には、「上司といえども、納得がいかない指示には従いません」と公言するなど、「組織で働く」ということを理解していない人もいるようです。これは女性に限ったことではありませんが、男性に比べて、やはり女性が圧倒的に多いように思えます。
 古来、男性の活躍の場であった「職場」へ女性が参画することは容易なことではありません。まして、そこで活躍をしよう、活躍をさせようと思うのなら、男女双方にやはり覚悟が必要です。そこで、せっかく「女性の活用」をするならば、少しでも良い環境になるように、これから述べるポイントは押さえておきましょう。

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指示へのリアクションで、反論し続けることが多い女性
 男性の管理者から、「男性の部下は問題はないけれど、女性の部下は苦手なんです」という相談を受けることが多々あります。女性の部下を男性の部下と同じように扱うのが「平等」だと考える上司がいれば、その方は、間違いなく苦労されるでしょう。
 男性が、女性の部下を苦手だと思う理由はさまざまですが、よく耳にするのが、指示に対する反応の違いです。上司からの指示が自分の考えと異なった場合、男性の部下も女性の部下も自分の意見は上司へ伝えます。ただ、すでに上司が決断したことに対しては男性の部下は黙って従います。悔しい気持ちがあっても、「決断に至っては自分に開示されていない情報もあるのだろう。まあ、仕方ないか」とあきらめ、必要以上に傷ついたりはしません。
 女性の部下の場合、特に仕事ができる女性は「それはおかしい!」と反論意見を述べ続ける場面が多いようです。またその意見が正しいものだから、なおややこしい! 
 つまり正論をぶつけてくるのです。そして引き下がらない。これには男性の上司は面食らってしまうでしょう。それも次の理由を知れば納得できるはずです。

 

幼い頃からチームプレーに慣れていない女性

 男性と女性の反応や感性の違いは、子どもの頃の遊びの習慣の違いが原因の一つといわれています。男性は子どもの頃から野球やサッカーなど、チームプレーに慣れています。例えばサッカーの場合、いくら優れたストライカーであっても、監督の指示に従わなければレギュラーではいられません。監督の考えが正しいからとか、尊敬しているから従うのではなく、そういう仕組みだから従うということに慣れています。
 しかし、女性はチームプレーに慣れている人は多くありません。そのため、理不尽だと思う指示にはつい口をとがらせ反論をしたり、時に自分の意見が採用されなかったと、ひどく傷ついたりしてしまうことがあります。
 子どもの頃の遊びの違いは、他の場面でも見られます。昇進したての真面目な女性に多いケースですが、本来、自分が果たすべき仕事以外のことに手を出し、オーバーワークから体を壊すことがあります。役割以外の雑務を率先して引き受けることが職場への貢献だと感じているのでしょう。
 また、「こんなに頑張っているのだから、必ず評価されるだろう」と期待を持つものの思うような評価がもらえない場合、ひどく傷つきます。チームプレーに慣れている男性はそんなことはありません。例えば野球の場合、一番バッターの役割は出塁することであり、ホームランを狙うのではないことを知っています。ソロホームランを一本打ったところで、後に続かないのであれば、一番バッターとして評価はされません。
 さらに、男性から「女性の部下はすぐ感情的になるから苦手」と言うぼやきを聞きますが、これは単にその女性が組織で働く(=チームプレー)の意味を理解していないことが原因のように思います。感情的になる女性が苦手という男性は、まず女性の部下には「組織の仕組み」を伝えることから始めてはいかがでしょうか。

 

女性リーダーは徐々に育てることがポイント

 男性の場合はいきなり「今日から君がマネジャーだ」と伝えれば、多くの男性は喜び勇んで行動します。普段からそばで見ている上司を手本に、自分なりにリーダーとして取り組み始めるでしょう。
 ところが、女性はリーダーとしての素質があるものの、それを望んでいない場合が多いことは先ほども触れました。いきなり「今日から君だ」と言われても対応できません。AKB48の元メンバーで〝絶対的エース〟と呼ばれた前田敦子さんですら、プロデューサーに指名をされてセンターに抜擢された時は、一人だけ目立つのは嫌だと言って大泣きしたそうです。
 女性リーダーを育てる場合のポイントは「徐々に」がおすすめです。
 最初は、限定的なマネジメント業務を任せます。例えば、1人か2人のスタッフの指導を頼みます。その場合は「君がリーダーだ」とは言わずに「ちょっとお願いね」と。そしてうまくできたのなら人数を徐々に増やし、それもうまくこなせるようになって初めて「今日から正式にリーダーをお願いするよ」と伝えるのが効果的です

 

女性は「いつまでもあると思うな、温かい言葉と期待」を覚悟せよ

 企業で働く男性と女性の関係を私はよく日本人と外国人の関係に例えます。日本へ旅行で訪れた外国人に対しては、たいていの日本人は親切です。しかし、住むとなったら話は別。住居や職業の規制から始まり、目に見えない習慣まで日本のルールをかなり一方的に押し付けます。つまり、女性は昇進争いや決定権を持たない立場の時は優しくされますが、そうでなくなった時点で周りの態度は一変するという覚悟を持つ必要があります。
 もちろん、昇進直後は、「頑張れよ」「期待しているよ」「これからは女性の時代だからな」など、温かい言葉を掛けてもらえるでしょうが、いつまでもそのような状況は続きません。これは、レギュラー争いをしているライバルのチームメートにいつまでも「頑張れ」と応援する選手がいないのと同じことです。
 周りにいつまでも優しく接してもらいたいと思う女性は、レギュラー争いに参加せず、チアリーダーでいたらいいと思います。ただ、チアリーダーとして需要のある年数は、そう長くはありません。だからといって男性は、若くないチアリーダーに心無い言葉を掛けたら、即退場となります。レッドカードと違って、一試合休めばいい程度のペナルティーにはならないので、ビジネスパーソンは周囲への配慮と品格を常に保ちたいものです。

 

女性管理職者は意外、服装で悩む!?

 組織の仕組みなど、とうに理解し、上手く立ち回り、活躍をしている女性を目にする機会も増えてきました。年下の男性部下がいるという女性管理職者も増えてきたことでしょう。
 昨今は、再雇用制度の充実もあり、親子ほど年が離れた男性部下を持つ女性管理職者も私の周りにはたくさんいます。また、60歳を過ぎても会社から必要とされる有能な男性社員もたくさん知っています。女性の管理職者と年上の男性部下という関係は、周囲からするといびつに見えるようで、当事者たちはよく「苦労しないか?」と心配されるそうです。私も最初はそう思いましたが、杞憂に終わりました。考えてみれば、つまらない見栄や意地がある人は管理職者に抜擢されませんし、再雇用もされませんので、問題はないようです。
 ただ、女性が昇進すると、服装に困るようで、よく相談を受けます。どのような服装が好ましいかは、職種や環境にもよりますが、共通のルールはあります。いかにも女の子気分の服装では馬鹿にされてしまいますし、だからと言って男性のようなダークスーツで、化粧も施していない女性の意見は男性社会では積極的には取り入れてもらえないでしょう。
 あまり難しく考えず、服装は信頼できるお店のスタッフに選んでもらうことをお勧めいたします。よほどセンスに自信のある人は別ですが、お店のスタッフは流行だけではなく、働く女性の好ましい服装をよく心得ています。同様に、お化粧も自己流でなく、定期的に百貨店の美容カウンターに通い、アドバイスを受けながら決めると外れがありません。どちらも無料で行えるものなので、ぜひ試していただきたいです。

 

女性の隠れた才能を見出すには

 ビジネスの中心は男性ですが、消費者の中心は女性です。旦那様の収入額にかかわらず、財布を握っているのは奥様というご家庭は珍しくありません。旦那様が運転する車を購入する場合でも、奥様の意見が反映されないケースは稀だと思います。自宅や別荘、ゴルフ会員権に至るまで、奥様の意向を完全に無視して購入できるものは意外と少ないのではないでしょうか。
 自社内の女性の意見を聞くということは、「お金を使うプロ」の意見を聞くことと同じことだと考えてください。自社内の女性の意見をうまく吸い上げ、取り入れることができれば、企業の繁栄にもつながります。もちろん、始めのうちはうまくいかないことも多いかと思います。女性社員に意見を聞いたものの、「感性でモノを言われてもなぁ」とか、「それだと利益が出ないんだよなぁ」など、すんなり意見は採用できないかもしれません。
 女性側も、いきなり「女性の意見を聞きたい」と言われても、戸惑う女性社員は多いはずです。まずは、ブレーンストーミングのように、話がまとまることを求めずに意見を言ってもらう場を作ることから始めてみましょう。女性社員を「女の子」扱いしていては、その女性はいつまでも「女の子気分」が抜けませんが、「信頼できる社員」として接すれば、その女性は必ず期待に応えてくれるはずです。

 

【2015年4月号】 部下がやる気を出す! 魔法の言葉 part2 【しかり方編】

部下のやる気は、上司のちょっとした言葉に左右されるものです。
特に「叱り方」は上司のリーダーとしての資質さえ問われることも。
どんな叱り方をすれば、前向きに行動できるようになるのでしょうか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。

 

まずは最初の声の掛け方が大切「クッションフレーズ」を使おう

Part1でも触れましたが、叱る前にはイライラしないよう自分の心の感情をコントロールしようと意識しましょう。それには、部下の長所を思い浮かべたり、過去のいい成績を思い出したりすると、感情的になるのを抑えるのに役立ちます。また、感情的になりやすい時間帯は避けるようにしましょう。例えば昼前はお腹が空いて怒りやすくなるとか、上司はそういう自分のクセや傾向も考慮しておくことです。
 そうして部下に声を掛けるわけですが、「ちょっと、いいか」とか「話があるんだ」とかは唐突過ぎて、「ちょっとってなんだろう?」「話ってなんだ?」と部下は緊張し、妄想的にいろんなことを拡大解釈して強いストレスを感じます。そこで「クッションフレーズ」という部下にも心の準備ができる言い方を使ってみましょう。例えば、
 「ちょっと嫌なことを話すけどいいかな?」
 「話しにくいことなんだけど、聞いてくれる?」
 これだと部下も「あまりいい話ではないな」と心の準備ができます。敏感な部下なら上司も言いにくいんだなと、上司の気配りを感じてくれることでしょう。

 

「クッションフレーズ」で叱る点をはっきりと告げる

 「クッションフレーズ」は、叱る点を明確にするとさらに効果的です。例えば「この前のミスで、あそこを直せば良くなることに気付いたんだけれどいいかな?」。こう言われれば部下も前向きに訊こうと思うはずです。
 また、以前と同じようなミスをして、前にも叱ったかもしれない場合、つい「たしか、この前も言ったよな!」と言ってしまいがちですがこれはNGです。もし実際は伝えていなかったとしたら部下は今初めて訊くことになり、「なんだこの上司は。自分が誰に話したかということも覚えていないのか」と上司としての資質を疑うのはもちろん、モチベーションも下がります。こんな場合は「私の記憶違いかもしれないけれど」とか「私の伝え方がうまくいかなかったかもしれないから、もう一度言うね」がいいでしょう。
 「前から気になっていたんだけど」もNGです。気になったという時間はなるべく短いほうがよく、「ふと思ったんだけど」「今、思った事だけれど」と言いたいですね。気になった時間が長いと「なんで今まで指摘しなかったのだろう?」と変に拡大解釈してしまい、不安感を増長させてしまいます。すると「早く終わんないかな」「嫌だな」となり、その感情が態度に出てしまいます。それを見て取った上司は「お前、人の話を訊いていないだろ!」と、ついに怒ってしまうことになりかねません。

 

褒め言葉を挟む叱り方褒める+叱る+褒める
 叱ることの目的は、次のアクションにやる気を出して取り組んでもらうことです。指摘して終わりではありません。
 例えば、営業成績はいいのに、書類に間違いがよくあるとか、提出が遅いとか、多部署からのクレームが頻繁にあるという部下は、叱っても内心は「売上をあげているのになんで叱られるんだ?」と思うものです。そこで効果的なのが、叱る事案の前後に「褒め言葉」を挟む叱り方です。
×【良くない例】
上司「小林君。君ね、書類を出すのがいつも遅いんだよ」(いきなり叱る)
小林「すみません(成績がいい分、帰りが遅くなるから仕方ないだろ)」(納得していない)
上司「きちんと守れよ。いくら成績がよくたってこんなことじゃチーフになれないよ」
小林「わかりました」(急速にやる気がしぼむ)
 叱って終わるよりは、褒める言葉や期待する言い回しで締めくくるほうが、部下のモチベーションも上がるはずです。
 【おすすめ例】
上司「小林君、今月も順調に売上をあげているね」(まず褒める)
小林「ありがとうございます」
上司「ところで、1つ気になる点があるんだ。書類の提出が遅れ気味なんできちんと守ってほしいんだよ」(改善すべきところを指摘)
小林「あっ、すみません」(素直に謝罪)
上司「ここのところずっと成績が良くて、昇格も見えてきているんだからもったいないよ。君には期待しているんだから、引き続きがんばって」(未来への期待感でモチベーションを上げる)
小林「はい、わかりました。申し訳ありませんでした」(さらなるやる気が出てくると共に深く反省)
 せっかく褒めてもらっているのに、上司に悪いことをしてしまったと反省すれば、その部下は一段とがんばって成績をあげることでしょう。
 さらに、その部下が優秀だったり、社内のトップセールスマンだった場合は、褒めるよりも「いつも助かっているよ」とか、「ねぎらいの言葉」がいいですね。

 

反発する部下にはオウム返しで
 先ほどの営業成績がいいのに叱られたりすると、「どうしてですか」「そんなのできないですよ」と反発される場合も想定しておきましょう。
 そんな時、つい「ちょっと黙って!」とか「なんか文句あるのか!」とか「口答えするな!」と怒鳴ってしまいがちです。もちろんこれはNG。そんな言葉を発したら上司自身の感情が突っ走ってしまいます。怒鳴った自分の声が意外と大きくて、怒鳴った自分が驚いて興奮してしまうからです。そんな場合、「納得できないようだね。君の意見を訊かせてくれないか」が無難でしょう。
 また、「〜と君は思うんだね」「〜と君は考えているんだね」というようなオウム返しも、部下は自分の意見を訊いてくれた、わかってくれたんだと満足し、そして「たしかにそうかもしれないけれど、私はこう思うんだ」と言えば、反発心を和らげて上司の言葉を訊くはずです。
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叱っても変わらないのは、やり方がわからないことが多い

 叱っても叱っても変わらない部下がいます。「この前も言ったじゃないか」はNGです。結局変わらないのは得てしてやり方がわからないことが多いようです。
 こんな時に、よく「自分で考えろ」と言ったりしそうですが、これは上司の勝手な言い草です。上司にすれば、自分で考えて答えを見つけたほうが早く成長すると思うでしょう。けれど、自分で考えてできるのなら、叱られることもなく、とっくにいい結果を出しているはずですから。
 そんな時は、「具体的に何をやったらいいと思う?」と質問してみましょう。これで何か方策があるのかないのかがわかります。部下に方策が無ければ、具体的なアドバイスや指示をすればいいのです。
 また、例えば提案書を持ってきたとします。前回と何も変わっていなかったり、前回と同じところが間違っていたとしても、どこか前回と違う点はないか、良くなっているところはないかを探しましょう。
 同じミスを繰り返すのなら解決策を「一緒に考えよう」と言えば、部下は安心します。どの段階でミスが起きたのか、時系列でたどったり、チャート図にしてみたり。指示待ちタイプの部下なら、2〜3の改善案を提示して、どれを選ぶかを考えさせるのです。

 

落ち込みやすい部下への叱り方

 最近の若者、ゆとり世代と呼ばれる若者たちの特徴として「打たれ弱い」とよく耳にします。そんなにきつく叱ったつもりはなくとも、酷く落ち込んでしまうのです。そういう落ち込みやすいタイプへの叱り方は前回も取り上げましたが、セミナーでも本当によく相談を受けます。
 まず「叱る時は、1つのことだけにする」ことです。誰でもそうですが、2つも3つも言われると、どうしたらいいのか混乱してしまいます。1つだけならその事に集中して取り組めるので、早く改善できることでしょう。
 次は前回もお話した「アメとムシ(無視)」です。「昨日の報告書だけど、累計数だけ直しておいて。随分良くなったよ」と褒めてアメを与え、小さなミスや一過性のミスはスルーします。あまり重要でない細かいミスばかりに目を向けていると、部下も何度も叱られるのは嫌なので、無難なことしかしなくなります。重要なことだけ叱るようにしたいものです。
 さらに「叱る基準を明確に」しておきましょう。打たれ弱い人は叱られることにいつも怯えています。どのようなことをしたら叱られるかをはっきりさせておくのです。少々のミスはスルーするけれど、それを隠すと叱るというようにです。

 

繰り返すミスにはアメとムシ(無視)

 誰もが経験していると思いますが、ミスを繰り返してしまう場合があります。そういう時は、常にミスを犯しているのではないだろうかと不安が心を支配してしまいます。気持ちはそこばかりに向いてしまって、本来の仕事に集中できません。そんな時は「そこは俺が見るから」と手離れさせてあげましょう。
 また、ミスを繰り返して萎縮していると、また同じところでミスをしてしまうもの。「また間違っているだろ!」と怒鳴るとさらに落ち込んで、またミスをしてしまい、どんどんぬかるみにはまってしまいます。ミスは同じ事案で繰り返すことが多いですから、その悪循環を断ち切るためにも時には「ここは直しておいたから」とか「この部分はB君に回したから」とアメを与え、小さいミスはムシ(無視)をする。まさにアメとムシです。
 そうすると甘やかして成長しないのではと思われそうですが、やがて責任ある立場になった時には自覚するようになります。長い目で育成することが肝心。欠点を打ち消すことで長所まで一緒に打ち消さないことです。

 

叱り過ぎてしまった場合

 打たれ弱い部下を叱った後、うなだれている姿を見て「さっきはすまなかった」などとは決して言ってはいけません。相手の反応からちょっと叱り過ぎたかなと感じても、謝ってしまうと叱った内容を否定してしまうことになります。部下も「なんだ。それほど深刻に受け止める必要はなかったのか」と勝手に解釈をしてしまいます。
 叱り過ぎたかなと感じた場合、「少し感情的になり過ぎたけれど」「言葉が足りなかったかもしれないね。納得できない部分があったかな?」と言うのはOKです。叱ったことを取り消すのではなく、感情的になったことを詫びるのは構いません。
 ただ、叱った後に気をそらすために家族や趣味の話をするのは無理矢理感がありますし、「一杯呑みに行こうか」も、いかがなものでしょうか。部下はしばらく上司と距離を置きたいでしょうし、呑み屋の席でまた叱られるのではないかと、ただストレスに感じるだけです。
 この場合、叱られて落ち込む部下の気持ちを楽にしてあげるコツとして私の経験では、叱った後はまったく別の仕事の話をするのです。「ところで、今度の展示会の打ち合わせだけど、いつにする?」とか、「そういえばB社への納品だけど手配は済んでいる?」とか。叱った話の仕事とは関係のない、まったく違う仕事の話をされると「まだ自分は必要とされている」「次はミスをしないようがんばろう」と思うものなのです。
 これらの言葉や言い方は部下だけでなく、同僚やクライアント、家族にも使えます。相手が気持ち良くなる言葉でコミュニケーションがうまくいけば、成果や信頼関係となっていいものがたくさん生まれてくるはず。まずは実践してみてください。

 

【2015年3月号】 部下がやる気を出す! 魔法の言葉 part1

上司のちょっとした言葉で
部下はやる気をなくしてしまうこともあれば、
前向きになって自発的に動くようになることもあります。
どんな言い回し、言葉でコミュニケーションを図ればいいのか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。

 

ちょっとした言い回しでコミュニケーションが円滑になる

もしあなたが取引先でミスし、契約を逃したとします。それを報告した時の上司のリアクションです。
A「何をやっているんだ! なんでそうなったのか、詳しく聞かせてくれないか」
B「なかなか大変だったようだね。報告をありがとう。詳しく聞かせてくれないか」
 あなたが部下ならどちらの言い方ならいい反応をするでしょうか。聞くまでもなくBでしょう。ほんの少しの言い方の違いなのですが、Aは問い詰めており、こんな言い方をされると、うまく報告ができなくなるかもしれません。それに対して、Bは報告してきたことをねぎらっており、素直に反省しながら報告できそうです。
 このようにちょっとした言い回しへの気遣いで、部下への伝わり方や反応は大きく変わります。上手な言い回しや言葉が使えるようになれば、コミュニケーションも円滑になり、部下のやる気を引き出すことにつながるのです。

 

イライラしない、笑顔を意識するそして5W2Hシートを活用しよう

報告は、部下とのコミュニケーションの大事な機会となります。
 まず大切なことはイライラしないこと。上司自身が落ち着いて訊くことです。さらに、柔らかな「笑顔」を見せることを意識して報告会に臨んでください。真面目な顔って怒っているような印象を与えますから。意識し笑顔を作ることが大切です。
 といっても訊いているうちにやはりイライラしてしまうもの。その理由は明白で、部下の報告が要領を得ないからです。するとつい「君の報告は何を言っているのかさっぱりわからない!」なんて言ってしまうのは絶対にNG。さらに要領の得ないことになってしまいます。
 そこで、報告の前に「5W2Hシート」を部下に書いてもらうよう私は提案しています。
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 このシートがあれば、要領を得ないことはある程度解消されるのでイライラせずに訊くことができるでしょう。
 

「相槌」一つでコミュニケーションが変わる

 そうして、部下の報告が始まったら、部下が話すスピードに合わせて「相槌」を打ちましょう。この相槌は、うまく使えば、部下に安心感を与える大きなツールになります。部下とのコミュニケーションや信頼関係を築くのに安心感はとても大切です。
 最初はゆっくりとした相槌を心掛けます。上級テクニックとして、話をする相手の顎の動きに合わせた相槌というのもあります。
 相槌は相手が話すのを促すものですが、承認ワードと非承認ワードというのがあります。
 承認ワードは意識して使う言葉です。「それで、それで」「それから」など、部下の話をさらに引き出したい時に使うといいでしょう。部下からの“報連相”で話す割合は部下8:上司2ぐらいが理想的。「はい、はい、はい」と3回以上の相槌は否定の意味となり、「早く話を終わらせたい」と受け取られますので注意してください。
 話を受け止める相槌は「たしかに」「なるほど」があり、これなど口癖にしてしまうのもいいかもしれません。同感を表す相槌「おもしろいね」「興味深い話だね」「そのとおりだね」などは、部下は自分の話を肯定してもらったと思い、口も滑らかになるものです。
 さらに、いたわりの相槌も大切。愚痴を聞く時、部下に非があっても「(気持ちは)よくわかるよ」と言ってもらえれば部下の気分も晴れます。悩みを相談された時には「それは困ったね」と受け止めてもらえれば、部下は「この上司は味方だ」と信頼を寄せてくるはずです。
 失敗やミス、コンペで負けた時などは「それは残念だったね」「がっかりだね」という部下の気持ちに寄り添うような相槌なら、部下も早く立ち直ってくれることでしょう。

 

部下のやる気を奪うダメなNGワード
非承認ワードは絶対に使わないようにしたい言葉です。これは部下が話し辛くなってしまう言葉。代表的なのが「でも」「どうせ」「だからさあ」です。例えば逆説となる「でも、まだ実績がないよね」とか、「どうせ、無理だろ」、「だからさあ、それは前もってダメだと言ってたでしょ」。これらは「部下のやる気を奪う3D(ダメ)ワード」と私は呼んでいます。
 その他、部下が予想外の内容や真逆の結論を話したりした時に「そんなはずはないだろう」とか、「君の言っていることは間違っている」「何を言っているのかわからない」とよく言ってしまいがちですが、これは人を認めていない完全否定の言葉なので、部下は何も言えなくなってしまいます。
 部下の話の内容や価値観が自分と違うと思った時など、非承認ワードを使ってしまいがちです。賛成はできずともあからさまに反対するのも差し障りがある、そんな時は「なるほど」という相槌が効果的です。
 ただ、「本当かよ」「何バカなことを言ってんだよ」と否定的な言葉でも、そこに笑顔があればまだ否定にはなりません。上司の言葉が少々乱暴でも笑顔で受け答えしてくれれば、部下は下を向かないで“報連相”ができるものなのです。

 

自信のない部下にやる気を出させる言葉

部下の成長につながるので仕事を任せたくとも、「自信がありません」と言う消極的な場面もよくあると思います。私も以前「そんなことを言っていたら、いつまでたっても成長できないぞ」と言ったことがありました。このようなことを言われてもやる気など出てきません。
 部下の心理としては「失敗したら叱られるんじゃないだろうか」「失敗したら評価が下がるんじゃないだろうか」というのがあります。ですから最初に「失敗しても大丈夫。俺が責任を持つから、やってごらんよ」と言ってあげます。
 また、「自信がない」と言う部下に「なんでだ?」「なぜだ?」という受け答えは避けましょう。「なぜだ?」は相手を責める印象を与えます。ここでは「何が心配なんだ?」とか「どの辺に自信がないんだ?」と訊きます。「なぜ?」ではなく「何が?」がポイントです。
 「なぜ、なぜ」を繰り返して原因究明や問題解決を図る手法があります。部下に対する指導でも、その「なぜ」の繰り返し手法を使っている人が意外と多いのですが、これは間違いです。責めている以外のなにものでもありません。この場合も「何が」に置き換えてみましょう。「なぜミスをしてしまったんだ?」ではなく「何がミスの原因になったと思う?」と言ってみることです。

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落ち込む部下には「一緒に考えよう」と「失敗談」

 今度はミスをして落ち込んでいる部下への言葉を考えてみましょう。先ほどと同じで「なんで、ミスをしたんだ?」はNGです。「なぜだ?」と訊かれても理由なんてわかりません。なぜと繰り返されるうちに、隠蔽し報告してこなくなるという問題にもつながります。どんなささいなことでも報告するようにと言われているので、ほんの小さな事でも全て報告していると「またか!」と怒鳴られる。その矛盾が隠蔽につながりますので気をつけてください。
 そこで、ミスをして落ち込んでいる場合は「ミスを防ぐにはどうしたらいいのか、一緒に考えてみようか?」と言ってみましょう。こう言われると部下は安心するようです。安心すれば「原因はここにあるようです。自分にも注意が足らなかったので、このようにしたらどうでしょうか」と反省しながら解決策を考えるようになります。
 もうひとつは、「俺も昔、同じようなミスをしたことがあるわ」と、上司が過去の失敗談を話し、失敗の自己開示をするといいでしょう。
 でもそう言うと、部下になめられるのではないかと心配する人がいます。部下が上司をバカにするかしないかの基準とは、大事な局面で「判断できる人かどうか」です。そしてそれをクライアントや自社のトップにきちんと進言できるか。それができるのであれば、たとえどんな失敗談を聞かされても上司をバカにしたりはしません。

 

繰り返すミスにはアメとムシ(無視)

 誰もが経験していると思いますが、ミスを繰り返してしまう場合があります。そういう時は、常にミスを犯しているのではないだろうかと不安が心を支配してしまいます。気持ちはそこばかりに向いてしまって、本来の仕事に集中できません。そんな時は「そこは俺が見るから」と手離れさせてあげましょう。
 また、ミスを繰り返して萎縮していると、また同じところでミスをしてしまうもの。「また間違っているだろ!」と怒鳴るとさらに落ち込んで、またミスをしてしまい、どんどんぬかるみにはまってしまいます。ミスは同じ事案で繰り返すことが多いですから、その悪循環を断ち切るためにも時には「ここは直しておいたから」とか「この部分はB君に回したから」とアメを与え、小さいミスはムシ(無視)をする。まさにアメとムシです。
 そうすると甘やかして成長しないのではと思われそうですが、やがて責任ある立場になった時には自覚するようになります。長い目で育成することが肝心。欠点を打ち消すことで長所まで一緒に打ち消さないことです。

 

打たれ弱い若者には叱り方がある

 「今の若者は叱られたことがないから打たれ弱い」とよく聞きます。叱るのと怒るのは違うということは随分と言われていますが、改めて言うと叱る基準を明確にすることです。「これをしたら俺は叱るよ」と常に言っておくことです。
 また、積極的に取り組んだけれどミスをした場合は叱らない。「あんなことをやるから失敗するんだよ」なんて言われると何もやりたくなくなります。そして叱る項目は一つに絞りましょう。「そういえば、この前は、こういうことをやっただろ」と過去のことも加算して叱るのはNGです。
 打たれ弱い部下にはアメとムシ手法で、例えば「あのミスだけど、こうしたら良くなるんじゃないか」と改善点を提示してあげたり、良かった点を褒めることです。長所を褒めて伸ばすやり方がいいでしょう。

 

【2015年1・2月号】 ドラッカーを活用して 売り込まなくても 売れる仕組みに変える方法

消費税の増税やGDPの落ち込みなど、厳しい経済状況が続く中でも、ドラッカー理論を活かせば「売り込まなくても売れる」と話す藤屋伸二さんにその仕組みと方法をうかがいました。

 

お客様に、「当社の何がいいのですか?」と訊くことから始めよう

ドラッカーは、「マーケティングとはセールスを無くすことだ」と述べています。これは「売り込まなくてはならないのは、仕組みができていない」ことを言っています。「お客様が欲しいというモノを、欲しい形にして、欲しい売り方にする仕組み」にすれば、売り込まなくてもお客様は買ってくださるという発想です。現実的には営業や販売活動がなくなることはないのですが、ただあまりにも多くの企業が自分の視点で商品を作り、自分の視点で売っています。お客様に訊かずに、自分でこういうのを作って売ればいいと思い込んでいるだけ。「何故、当社の商品を買っていただいたのですか?」と訊くことはほとんどありません。

だからお客様と噛み合わないのです。買っていただいた理由がわかれば、その理由の言葉をそのままセールスに使えばいいのです。得意先に、ああだ、こうだと説明する必要はありません。「こういうところがいいから、と当社の商品を買っていただいています」と、同じものを求めているお客様なら「そういうことをやってくれるのなら、ウチもお願いしようかな」と。これが売れる仕組みと言えます。それではもう少し詳しく説明していきましょう。

 

市場(顧客・競合状況)を知る

◎対象市場(ニーズ、顧客層)を特定する

まず、市場や競合状況を知ることです。お客様が何を求めているのか、競合状況はどうなのかを、とかく噂話はしても分析はしていません。自社が強いのはどんな顧客層に対してなのか、どんなニーズに強いのかを知ることです。

といっても、あれもこれも知ることはできないので、対象とする市場や顧客を特定しましょう。ここの部分ならよくわかる、よく知っているというところを特定するのです。例えば広告業といってもテレビやラジオでのコマーシャルから、新聞・雑誌の広告、読み物記事、交通広告、チラシ、DM、パンフレット、看板、そしてインターネット広告等々、いろんな種類があります。それらの中で「WEBのバナー広告ならよく知っている」というように特定すれば、自社の特徴も出てくるわけです。

◎競合企業(商品)との位置関係(ポジショニング)を知る

大手企業と比べるとどうしてもブランドでは負けてしまいます。自社の得意な部分、例えば短納期、柔軟な対応、徹底したアフターサービスなど、その得意なことでどのように勝負していくか。お客様にとっての自社商品の位置付けはどこにあるのかということです。そういう発想が中小企業には必要かと思います。そうすればどこに力を入れていけばいいのか、どこを攻めればいいのかが見えてきます。

 

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◎競合要因(顧客にとっての魅力や、顧客の選択基準)を知る

お客様にはどういうところに魅力を感じていただいているのか。贔屓にしていただいている理由ですね。価格なのか、品質なのか。納期なのか、種類の多さなのか。他に、デザイン、サービス、接客、柔軟性、希少性、安全性など、さまざまな事柄を訊いてみましょう。

ところがこの「お客様に訊く」ことがなかなかできないのです。自分たちで考えようとします。それでは意味がありません。アンケートに書いてもらう方法もありますが、「はい」や「いいえ」だけではその背後に潜むお客様の思いなどのニュアンスがわかりません。それに書面に書くとなると構えてしまって本音が出てこないこともあります。それでも文字に残すなら、方言で話されたらそのまま書きましょう。大阪の人が標準語で書いたって、ニュアンスは伝わらないのではありませんか。

一番いいのは「雑談」です。相手は構えませんから本音を話しやすい。「そういえば、あれはどんなところが良かったんですかねぇ?」とフランクに訊けばいいのです。

◎満足だけでなく不満も訊く

できれば、買わなかった商品についても訊きたいものです。「Aは買ったのに、なぜBは買わなかったのですか?」と。さらに「C社の商品をお買いになっていますが、それはどうしてですか?」と突っ込んで訊いてみましょう。すると「C社はすぐに持って来てくれるんだよ」とか「安かったから」と教えてくれればベスト。後は自社でそれに対応できるかどうかを考えればいいのです。対応できるのなら、次回買ってもらえる確率が高くなり、できなければ、あきらめるしかありません。得意ではないのですから。ただし、お客様が望んでいることが何もできなければ、商売にはなりませんが。

このようにお客様が「物足りないと感じていることは何だろう?」という視点から攻めていくことも大切です。逆に、お客様の不満を知ろうとせずに放っていると、そこを他社が攻めてくることもあるのですから。

いずれにせよ何に満足しているのか、何に不満を感じているのかを「お客様に訊く」こと。ドラッカーは「机の上では何もわからない。外に出て、よく観て、よく訊き、よく質問しなさい」と言っています。現場の情報にこそヒントが潜んでいるのです。

 

事業や商品の特徴を知る

◎顧客にとって自社(商品)は主役か? 脇役か?

対象市場がわかったのなら、自社の事業や商品の特徴を知らなければなりません。というのも、そんなこと当たり前だと思われるでしょうが、自社商品は誰だって「主役」だと思っています。けれど、お客様から見たらどうでしょうか? 例えば刺身と醤油なら、刺身が主役で醤油は脇役です。それが醤油と山葵なら、醤油が主役で山葵は脇役。つまり、お客様の状況やニーズによって、主役は違ってきます。

お茶っ葉でも売る側はお茶を飲むために買っていただいていると思っているでしょうが、本当にただ飲むだけなのでしょうか? おやつの和菓子と一緒に飲むのかもしれませんし、お茶漬け用に買ったのかもしれません。ならば、飲む温度も濃さも同じでは美味しくいただけないでしょうから、和菓子用、お茶漬け用のお茶っ葉があればお客様も喜ぶはず。そうした商品の提案に特徴が表れるのです。

◎主力商品と補助商品にわける

例えばコピー機が主力商品なら、消耗品のトナーやプリント用紙は補助商品です。消耗品を主力商品として売るのなら逆になります。補助商品は、主力商品にとって販促の役割があるのです。

タバコの自動販売機を見ても、たくさんの銘柄がありますが、売れ筋は数種類しかないそうです。それならば、その数種類だけを売ればいいと思うのですが、そうするとその中でも売れ筋とそうでない銘柄ができてしまうとか。つまり、主力商品を売るための販売促進の役割が補助商品にあるわけで、自社商品は主力なのか、補助なのか。さらに自社商品の中にも主力と補助にわけることが、特徴を知ることになります。

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◎魅力を創り出している自社の強みを特定する

例えば短納期が強みなら、なぜ短納期ができるのか。どんなノウハウがあるから納期を短くできるのかを特定しましょう。というのも「御社の強みは?」と訊いても「わからない」という返事が実に多いのです。何故かというと、ごく当たり前にこなしているから気付かないのでしょう。

経営セミナー『藤屋伸二の創客塾』に参加する、陶磁器用の釉薬や粘土を販売している塾生は、自分の強みがよくわかりませんでした。ですが、よくよく訊いてみると、釉薬や粘土によって焼成温度が違ってくるとかで、そのさじ加減がわかるノウハウ(強み)を持つ人はそうはいないことがわかりました。ベテランならいざ知らず、試行錯誤を繰り返す若い作家には、是が非でも欲しいノウハウです。何しろ、そのノウハウがあれば失敗も少なくて済みます。つまり、歩留まりを高めることができるので、その強み(ノウハウ)を特定することは利益率が上がることにもつながるのです。

ただ、たとえ個人が優れた技術やノウハウを持っていても、感覚でやっていれば共有や伝承はできません。その場合の「強みを特定する」とは、その人の何が凄いのかを探り、どんな技術なのかを徹底的に分析して、みんなで共有することでもあり、共有できれば会社の強みになります。

 

差別化のためのコンセプトをつくる

◎当社は「誰に」「何を」「どのように売る」ビジネスなのか?

こうして自社の商品の特徴、強みがわかってくれば、次は差別化のためのコンセプトづくりですが、ここまでくれば「誰に」「何を」「売っていくのか」が明確になっているはずです。

例えば札幌で世界の壁紙を売るお店があるのですが、5,000種類ほど取り揃えています。日本では一度貼ったらあまり替えませんが、海外の壁紙は自分で貼って剥がせる。子どもが幼稚園、小学校、中学校と、成長するにしたがい替えていけます。簡単なので春夏秋冬で替えることも。つまり、住まいを手軽に安くイメージチェンジできるわけです。店に来るお客様は3時間も4時間もかけて壁紙を吟味しています。楽しいから時間がかかっても苦にならない。誰に、何を、どのように売っているかが明確にできている好例といえます。

誰に、何を、どのように売るかが明確になれば、それでビジネスモデルが出来上がります。つまり、コンセプトを作るということは、ビジネスモデルを作ることでもあるのです。

◎キャッチコピーをつくる

例えばニトリのコンセプトは、「欧米並みの住まいの豊かさをリーズナブルな価格で売ること」です。だからそのキャッチコピーが「お、ねだん以上。ニトリ」となるんですね。吉野家の「うまい、やすい、はやい」はコンセプトでもあります。「お口の恋人ロッテ」「自然を、おいしく、楽しく。KAGOME」「100人乗っても大丈夫(イナバ物置)」「ココロも満タンに(コスモ石油)」など。自社の特徴や強みがわかれば、キャッチコピーも決まってきます。

◎3つの魅力を打ち出す

先の吉野家の「うまい、やすい、はやい」は、食事に時間を使いたくない人にとって、まさに3つの魅力です。

3つの魅力を打ち出す際、「どんなお客様に好かれているのか」のみならず、「どんなお客様に嫌われたいのか」まで考えれば、ターゲットも明確になります。ここまでくれば、しゃかりきになって売り込まなくても、売れる仕組みが出来上がってくるのではないでしょうか。

【2014年12月号】 「朝礼」で 元気な会社に しよう

多くの会社で当たり前のように、行われている朝礼。
いつの間にか社員が下を向いてしまっているような朝礼になっていませんか?
社員がイキイキとし、組織が活性化するような「朝礼」があるのです。
朝礼改善指導を通じた組織活性化で実績をあげる朝礼コンサルタント・城田真吾氏にアドバイスいただきました。

 

朝礼の本来の目的は、企業のあるべき姿へ向かわせること

あなたの会社の朝礼は、社員が前向きに仕事に取り組むようになり、モチベーションがアップするような朝礼でしょうか? そんな朝礼を実現させるために必要なのは、まず朝礼を何のためにやるのか、という目的が明確であることです。その目的とは、端的に言えば「企業のあるべき姿を達成すること」です。企業の全ての活動はあるべき姿の達成にあり、サポート機能として、朝礼があるといえます。つまり、企業のあるべき姿を達成するためには、どのような朝礼にすればいいのか。「逆算した朝礼」、「あるべき姿と現状の差を埋める朝礼」を私は提唱しています。

例えば飲食業界で「居酒屋てっぺん」さんの朝礼は有名です。スタッフ一人ひとりが自分の夢を大声で語ります。こういうスタイルになったのは、目的がありました。居酒屋というのはサラリーマンたちが愚痴を言う場であることが多い。それを、愚痴ではなく「居酒屋を、夢を語る場にしたい」、そして「居酒屋から日本を元気にしたい」という願いがあったのです。だからこそ、お客様に夢を語ってほしいのなら「まず自分たちが夢を語ろう」、日本を元気にしたいのなら「まず自分たちが誰よりも元気になろう」というところから、あの元気満点の朝礼のスタイルが形作られたのです。

みなさんの会社では、「朝礼“を”やる」ことが目的ではなく、「朝礼“で”あるべき姿を達成」のイメージを持った朝礼をやっていますか? 私が問い掛けたい点は常にこれなのです。

では、どんな企業、職場でも「てっぺん」さんのようなスタイルがいいのでしょうか。極端ですが葬儀会社の職場で「自分の夢は・・・」「いらっしゃいませ!」なんて絶叫できません。それは企業としてあるべき姿が違うからです。それぞれの企業、職場に合った「らしさ」があります。朝礼にはその「らしさ」も大切なのです。

 

たかが朝礼、されど朝礼こんな朝礼が社員をダメにする

よくない朝礼というのをみていきましょう。
まずは管理するための朝礼というのは避けたいものです。よくあるのが「もう下旬なのにこのままだと今月の目標達成は難しいぞ」といった営業活動の進捗状況を詰め寄る管理型朝礼です。上司としてはいろいろ言いたいでしょうが、それは会議やミーティングで行うことだといえます。また、やたらと社長の話が長いのも良くありません。いずれも社員たちは次第に下を向き、「早く終わらないかな…」と思ってしまう朝礼はいけません。
さらに、発表スタイルの朝礼の場合、マイナスの後ろ向きの内容も避けましょう。例えば「昨日、お客様からこんなクレームがありました」とか。先ほどの営業活動の管理型もそうですが、どうしても言っておきたいのなら、夕礼でするほうがいいでしょう。
こうした朝礼では、エネルギーが出ません。「今日一日頑張るゾ!」というエンジンがかからないのです。
ある自動車整備工場の事例です。毎朝ラジオ体操をするのですが、覇気がなく、動きもバラバラ。そこで声を出し、動作も揃え、真剣に体操するようアドバイスしました。朝の体操はそれなりの意味があります。工場ですから安全第一が大切。
動きが緩慢になるのは事故のもとですから、よく動けるよう身体をほぐし、さらに体操で自分の身体の調子も点検できるはずです。
体操に限らず、声や動作を合わせることも大切なポイント。少年野球などを見ていると、掛け声を合わせ、円陣の動作なんかも合わせます。声や動作をシンクロさせれば、一体感が生まれます。すると職場では部下たちの調子の良い悪いなどの変化に気付きやすくなるのです。ということは指導やアドバイスも的確に行うことができるというわけです。

 

良い朝礼とは――ビジョンや理念を唱和しよう

次に良い朝礼ですが、最初に申しました「あるべき姿」である、ビジョンなり、理念なりを浸透させることです。その方法として、「唱和」することで潜在意識に刷り込ませます。呪文のようになろうと繰り返し唱和することです。組織のベクトルが次第に合ってきます。そのうち、例えば居酒屋で同僚たちと飲んでいて「君の考え方はうちの理念に合ってるな」と、ポロッと無意識に言ったりするものです。そうなるくらいに唱和しましょう。
そうして次の段階としては、唱和する内容に対して具体的な取り組みを、朝礼で発表してもらうようにします。唱和したビジョンが、具体的な行動に表せているかが大切なのです。でないと唱和がお題目になってしまい、あるべき姿へ向かう活力へつながっていきません。
さらに、潜在意識に刷り込まれると、次第に自分たちの次の行動を考えるようになります。あるべき姿を実現するためには、何をしなければならないのか、と目的に向かって皆の意識が集中し、自主性が生まれるのです。この自主性が出てくるような朝礼こそ理想といえるかもしれません。
また、唱和することで、実は会社を辞める社員が出てきます。これは「この会社の目指すべき姿は、自分が望んでいたものとは違う」ことに気付くからです。会社は万人受けするカジュアルなモノを作っていきたいようだが、自分はもっと消費者一人ひとりにとって特別なモノを作りたい、とか。これは決して悪いことではありません。社員が辞めることはマイナスなことですが、永い目で見ればお互いにとってプラスになるはずです。これも刷り込まれた結果、自主性が出てきた証拠といえるでしょう。

 

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良い朝礼とは――「感謝」を語ろう
人はとかくマイナス的な事に関心を強く持つようです。インターネットのニュースでも、悲しい事件や著名人のスキャンダルはどんどんクリックして深追いしてしまいます。逆の良い事はどうでしょうか。以前朝礼で「最近気になった良いニュースはありませんか?」という問い掛けに、誰も手を上げなかった経験がありました。
普段から良い事を見る癖をつけたいものです。おススメしているのは「Good&New」というものです。これは24時間以内の良かった出来事、新しく気付いた事を発表します。
これに加え、私が提案しているのが、毎日テーマを変えて、この1週間で「感謝した事」や「感謝した相手」等を発表してもらう朝礼です。「Aさんのおかげで仕事がはかどりました。ありがとうございます」とか「今日も電車がいつも通りに運行してくれて無事に通勤できて有り難いです」など。この「有り難い」という言葉は、「有るのが難しい、あり得ない事」ですよね。反対語は「当たり前」です。「世の中は何事も当たり前ではない」ということに気付き始めると、いろんな事が感謝の対象になってきます。不平不満からは何も生まれません。感謝すると仕事にもプラスの作用が生まれるのです。また、「Good&New」で互いを知ることができるので、仕事のカバー率が高まってきます。

 

感謝」はミスを減らし、仕事の効率を高める

感謝の気持ちが作用する効果としては、たとえお客様から理不尽なクレームがあったとしても「クレームをもらえるだけ有り難い。理不尽だけれども、この要求には我々が改善できる点があるはずだ」と前向きに捉えられます。自分たちの改善点を探そうとするのです。感謝の視点がなければ、「何を言うか! あのお客が悪いのだ」とくさるだけ。次に起こすアクションには雲泥の差が出てくるでしょう。
 私がコンサルティングした事例ですが、総務や経理の事務方というとお客様からあまり感謝される存在ではありません。営業は偉いけれど総務や経理は裏方だと。けれど、裏方の支えがなければ表では戦えません。そこで週に1度、事務方の朝礼に営業マンを連れて来て、総務や経理への感謝を述べてもらいました。すると変化が起きたのです。事務方のミスは軽減し、書類作りのスピードがアップしたといいます。もちろん、営業マンも総務や経理の存在を再認識できました。感謝されると、人はモチベーションを高めるのです。
 中小企業にとっての大きな課題は「いかに人を育てるか」だと思います。朝礼はたかだか10分としても、1年間合計すると約40時間。結構な時間があることになり、一つの教育研修と考えてもいいのではないでしょうか。モチベーションをアップさせ、感謝の気持ちを持ち、前向きに仕事に取り組むようになる。そんな朝礼に変えてみたいと思いませんか?