
第一段階:形成期
不安と期待の中で大切な4つのポイント
オハイオ州立大学のタックマン教授が提唱する「小グループ発展の段階再考」という理論をベースに、結成されたチームはどのような段階を経て成長していけば、成果を出せるチームになるのかを見ていきましょう。
例えば、あるプロジェクト遂行のためや、特定商品の販売目的のために、各部署から収集されたチームが結成されたとしましょう。
初めて顔を合わせるメンバーばかりなら、最初は「様子見」状態から始まります。心は開いていませんから、不安と期待が入り混じった探り合いというところでしょう。
そこで、リーダーの役目として、次の4つのポイントを念頭に置いてチームの運営に取り組みます。
1つ目は、このチームは何のため集められたのか(目的)、それをメンバーはきちんと理解しているのか(方向性)を一人ひとりに確認しておく必要があります。
意外とこれがわかっていなくて、「なんで自分はこのチームにいるのだろう?」と思っているメンバーがいるものです。いつまでに何をどうしなければいけないのか。ゴールを明確に伝えます。
2つ目は、チームはどんな役割を担っていて、どんな作業をしなければならないのかを明確にしておきましょう。
3つ目は、ゴールまでどのような過程、プロセスを通っていくのかを把握しておくことです。
4つ目は、プロセス上で起きた問題や予期せぬトラブルが、雑談レベルでも話せる状態にあること。これがとても重要です。不安に思っていたことを黙っていて、後で大ごとになることがないようにしなければなりません。
心を開くためにすることは
この4つのポイントをリーダーだけでなく、メンバーも理解し、各々の仕事に生かして取り組めば、成果は必ずついてくると思います。
でも、大事だとわかっていても「でもね」と思うこともあるでしょう。メンバー同士がわかりあえてないので、どんどん進めていこうにも心がついていけないのです。いわゆる心を開いていない状態では、チームワークを発揮することはできません。
例えば社歴ランクの高い人(リーダーや先輩社員)は、社歴ランクの低い人(若手社員)につい「こんなことがなんでわからないんだ」と言ってしまいます。社歴の浅い社員が知らないのは当たり前だと思って、ランクの高い人は、低い人のところまで降りていかなければ、社歴の浅い社員は心を開きません。
そうしてリーダーは、メンバーの個人的な背景も知っておき、その人らしさが今、このチームで生かされているのかを見ていくのです。
第二段階:混乱期
一番大切な段階で、とことんぶつかり合うこと
各メンバーの個性や特徴、らしさ、そして価値観がわかってきて、いろんな意見が出てくる状態になると、チームは第二段階に入ります。
「それはちょっと違うんじゃないの?」と仕事をめぐって主張し、衝突が起き始めます。実はこの状態がとても大切なのです。チーム内での対立やトラブルはよくないことのように思えますが、チームが成長するための発展段階では不可欠な要素なのです。
不思議に思うかもしれませんが、リーダーは衝突がない状態なら、「うちのチームはまだまだだな」と思わないといけません。逆に衝突が起きたなら、喜んでもいいのです。
どういうことかといいますと、チーム内での対立やトラブルが起きるのは、メンバーが本気を出してきた証拠です。本音を言い合えるのは「チームワークを発揮する」ための大前提といえます。
衝突が起きる状態はもちろん、パフォーマンスは落ちます。けれど、本音を徹底的にぶつけ合わず中途半端のままだと、後に残るのは憎しみだけです。リーダーなら、このぶつかり合う状態を決して止めてはいけません。本音で「それは違う。俺はこう思うんだ」となれば、解決策がメンバー間から出てくるものです。
本気スイッチを探すのもリーダーの役目
40代や50代の方なら「昔は本気でぶつかり合った」という経験をお持ちでしょう。本気で喧嘩した、本気で遊んだというこの世代の方はスイッチがすぐに入るからいいのですが、若い世代はトラブルは嫌だと逃げてしまいます。
ですから、リーダーはメンバーがどうすれば「本気スイッチ」が入るのかを探さなくてはなりません。何か楽しいことがあると入るのか、認めてあげると入るのか、ですね。
そして、パフォーマンスの良いチームでもよくあるのが、一番大切なことを話しだすと誰かが冗談を言って笑ってしまい、本筋からずれてしまうことです。本筋からずれると、同じところをぐるぐる回って、前に進みません。これは無意識でそうなるもので、なかなか抜け出せないのです。
そんな時こそリーダーが気づかなければなりません。何か同じパターンで繰り返しているなと自覚することです。「ハーフ イン・ハーフ アウト」という言葉がありますが、リーダーはあまりにも俯瞰しすぎると冷たいと思われますし、入り込みすぎると現状が読めなくなります。ほどよい俯瞰。まず、このことを心がけようという気持ちが大切です。
そして、リーダーはメンバーの本音に対しては「YES」をどんどん出していきましょう。受容することです。メンバーたちに「こういう意見を出してもいいんだ」という安心感を与えることです。
また、リーダーは、今自分はどんなリーダーなのかを客観視するのに役立つPM理論(図①)も参考にしておくといいでしょう。

【コラム】 過去をひも解く、「年表」を作ってみる
一番大切な第二段階では「会社も自分も過去をひも解く」ことを目的に「年表」を作ることをすすめています。
世界の出来事、日本の出来事、会社の出来事、個人の出来事の年表を作るのです。例えば金融危機が起きた時、日本もその影響を受け、会社も大変な状況になり、そんな時に自分や家族はどうだったのかを見ていくと、つながっているんです。世界の出来事が自分にもリンクしていることがわかります。特に面白いのは会社の年表です。あの時、苦しかったので、今の節約の取り組みがあるんだなと理解できます。その苦しかった時の当事者である先輩社員は、その時の苦労を理解してもらえ、若手はその出来事を知る。つまり、「会社の歴史」を通じてお互いが近づくのです。この「年表作り」は理解を深めるのに一役買うはずです。
第三段階:統一期
暗黙のルールが適材適所を生む

本音がとことん出て、課題に対してオープンな意見交換ができると、次の段階です。第三段階では、チーム内で暗黙のルールが生まれてきます。
こういう計算はAさんが早い、新規のアイデア出しはBさんがうまい、この分野はCさんの得意分野だ、というように、メンバーそれぞれが目標達成に向けての効果的なプロセスや、各人の役割分担を検討するようになるのです。メンバー同士がそれぞれの特性がわかってくると適材適所で動き始めます。
ある会社で3年計画のもと、チームの活性化に取り組んだ時に、2年目でこの第三段階の状態になりました。けれど、皆さん、自分たちがこの段階にまで成長していることに自覚がなく取り組んでいるのです。もちろん、生き生きと取り組み、当然、いいパフォーマンスで成果を上げていきました。
ここまで発達すると、適材適所だけでなく、「Dさんはこういう時に決まってミスをするから」と素早くメンバーがフォローします。こういうチームになるとリーダーは楽になりますね。
第四段階:達成・機能期
全員がリーダーシップを発揮
チーム一丸となって目標達成に向けて集中し始めると、第四段階です。この段階では、メンバーは共通の目的意識を持ち、効果的にコミュニケーションを取って、それぞれの仕事を最終目標に向けて順調に進めていきます。
全員がリーダーシップを発揮している状態ですから、課題に対しても自分たちで乗り越え、確実に成果を出すことでしょう。
塗装業を営む会社の事例です。ある時、お昼の休憩中に、「そうだ。この時間を利用して別件の現場の仕事をやっておこう」「それはいいね。何人か抜けてもここの現場なら、社長にやっておいてもらおう」と、さっさと自分たちで考え行動してしまったのですよと、その会社の社長が驚いていました。私は第四段階に入ったなと感じました。見ていて実に気持ち良く、動いていましたね。
こうして第四段階を経て成果を出せば、チームは解散です。また、別のプロジェクトのチームへと渡り歩いていくでしょうが、成功したチームを経験しておれば、リーダーもメンバーも次のチームでも活躍してくれることでしょう。
アーカイブ: BUSINESS EYE
【2017年9月号】リーダーのための実践ワークPart1 チームが「活性化・一致団結・強くなる」コミュニケーション術
そんなチームの主な原因はコミュニケーションロス、ミスにあると、社長・幹部コーチング実績の豊富なチーム開発コンサルタントの鳥澤謙一郎氏は指摘する。
ではどうすればコミュニケーションはよくなるのか。そのノウハウを伺った。

信頼関係は明るさ、話しやすさ、接点の多さ、コミュニケーション量が質に変わる
例えば、組織に戦略、戦術があり、メンバーそれぞれは能力があり、ロジカルな思考で、効率良く仕事をこなすものの、雰囲気が暗く、会話は必要最低限のみ、そしていまいち士気が高まらない。そんなチームは、リーダーやメンバー間で言いたいことが言えない、リーダーが話を聞いてくれない等コミュニケーションロス、ミスが多いようです。しかも、メンバー間の心理的安心感が低く、信頼関係は希薄です。
このような状況に心当たりのあるリーダーは、先ずメンバーの話を聞き、情報量を増やすことが必要です。メンバーの情報が増えることで、タイムリーで的確な対応ができます。意識してメンバーに好奇心と肯定的な関わりを持ち、心理的な壁を低くすることがスタートです。そこで、私がコンサルティングの現場で導入している簡単に実践できる3つのワークを紹介しましょう。
心理的な壁を低くして、話しやすくするワーク
コミュニケーションを良くするということは、人間関係を良くすることです。前提として戦略、戦術はあるが結果が出ないのは、メンバーの能力に問題があるのでなく、人間関係が機能していないことがほとんどと考えています。
そこでおすすめしたいのが、3つのステップからなる「心理的距離を近づけるワーク」です。これはメンバー各人が自分の考えを開示し、相互理解して心理的距離を近づけ、話しやすくなることを目指します。このワークは、よく知られる「ジョハリの窓」(図①)や、チームの発達の段階を4段階に定義した理論「タックマンモデル」を参考にしています。週1回、朝礼の3分間を6ヵ月間実践してみましょう。

STEP1 グッド&ニュースを共有する
2人1組で、「24時間以内に起きた自分にとって良かった事柄」の話をします。「遅刻せずに出社することができた」「留守が多いユーザーにアポがとれた」といったレベルから始めてみましょう。
STEP1では「良い」ことに意識を向けるということがポイントになります。人は、どういうわけかネガティブな事柄は拾いやすいもの。特に日本人は、欧米との文化的な違いがあるのか、自虐的なことを美徳と受け取りがちです。褒める文化が日本にはあまり見られません。ですから、なおさら意識して「良い」ことを意識するのは、ポジティブな視点を養うのに有効といえます。
そして、その良かった事柄をポストイットに書き出し、相手に渡します。書くことは思考を整理する習慣にも役立ちます。
ここで大切なルールはポストイットを受け取った人はその内容について決して否定、批判したり、非難してはいけないことです。受け取り方、考え方は人それぞれですから、「そういう受け取り方はあるよね」「それは良かったですね」と受け答えするように始める前に伝えておきましょう。
このSTEP1の時間は1人1分弱で構いません。毎日行い、3ヵ月は続けます。
このワークを進めていくと、物事の「良いところを見る」習慣が身につきます。となると、例えば営業活動で新規受注率は通常3~5%と言われていますが、断られてばかりでへこむところを、「なぜお客様に断られたのか」「お客様から学ぶ(良いところを見る)」という習慣が身につけば、その断られた中からも何か得られる事を見つけようとします。それがキャリア、成長することにつながるのです。
STEP2 ポジティブに振り返る自分史作り
4ヵ月目はSTEP2に移り、「夢を語る自分史」というもので、これも2人1組で行います。
このワークの組み立てで参考になったのが「ジョハリの窓」です。人間関係を良くするには2つのポイントがあります。1つ目は、自分だけが知っている事柄を他人に知ってもらうことで、つまり自己開示です。この自己開示には「価値観の自己開示」「事実の自己開示」「感情の自己開示」の3つがあり、これらの情報を知ると相手は安心します。2つ目は、他人からのフィードバックを貰うこと。他人のフィードバックで自分の知らなかった自分に気づけるというわけです。
さて、STEP2ですが、自分史を「子供時代」「学生時代」「社会時代」の3つに分け、その時の夢をポストイットに書き出します。その中で1つだけ自分の事実を入れるのです。
「私は『子供時代』にオランダに旅行したことがあり、パンの美味しさに驚き、帰国後、将来はパン職人になろうと思っていました。『学生時代』には・・・。この中で夢はどれでしょうか。答えは子供時代です」といった感じで実施します。これはポジティブな謎解きのようで、なかなか楽しいもの。しかも3つの時代の話を聞けばその人の考え方、価値観を知り、その人への理解も深まるはずです。
それと同時に、夢を考えることは想像力を鍛え、伝えることでプレゼン力をも養います。週1回、毎回メンバーを替えて、もちろんリーダーも入って行うといいでしょう。
STEP3 自分らしさを探すワーク
5ヵ月目はSTEP3へと移ります。これも同様に2人1組で実施。「自分らしさ」を探すワークです。30秒でポストイットに自分らしさを書き出してみましょう。それを互いに見せ合い、相手らしさを一つ選び、選んだ理由を伝えます。
例えば、自分が「慎重」「計画的」「謙虚」「丁寧」と書いたとします。それらから相手は、「丁寧」を選び、その理由は「この前、ファイルを元に戻すのを頼むと、他のファイルまできちんと順番を揃えていたから」と伝えるのです。
コミュニケーションを良くするには相手に興味、関心を持つことが大切です。それが関係性を築く基本となります。
ワークショップでこのSTEP3を実施することがあるのですが、選んでくれた自分らしさを書いたポストイットは、ほとんどの人が大事に持って帰ります。「自分はそういうふうに見られているのか」は、普段は寡黙に仕事をしている人でも気になるもの。ましてや褒められたことは大事にとっておきたいのでしょう。
メンバーの魅力引き出しワーク

いよいよリーダーが大きな役目を果たすのが「メンバーの魅力引き出しワーク」です。
このワークでは、リーダーがメンバーに行動特徴(強み、弱み)をフィードバックします。メンバーの行動特徴は環境、目標に応じて変化します。ですから、弱みを否定的に捉えることはありません。自己理解を深め、変わり続けることが成果につながります。
このワークのフィードバックとは、メンバーの普段の実績や勤務態度から見つけた肯定的な事柄を伝えます。つまり、褒めるのです。メンバーに気づきを促し、魅力を引き出すのが目的で、「ジョハリの窓」や「タックマンモデル」のほかに、“良い人間関係があるチームは良い思考、良い行動、良い結果を出せる”という「成功の循環モデル」を参考に組み立ててみました。
やり方としては、リーダーは毎週メンバー全員の前で、1人を選び、選んだメンバーが成長した点を心(仕事の前向き姿勢)、技(お客様を喜ばした仕事)、体(勤怠・残業時間)の3つの観点から90秒でフィードバックします。フィードバックを受けたメンバーは感想を1分以内で話します。週1回、時間はわずか会議前の3分間ほどでいいでしょう。
このワークで成果を出すポイントは100%の本気です。メンバーのことを「本気で観ている」という感じが伝わることです。そうすれば、メンバーも心を開いて接しやすくなります。
実際、あるチーム開発先のオーナーは褒めるのは苦手なので、「ありがとう」なら言えそうだということで、それを実施してもらいました。すると1ヵ月後、あるメンバーが「社長はここまで拾い上げてくれるのかと驚いています」と喜んでいました。このオーナーはおそらく本気で、社員をよく観察し、見ていたのでしょう。トップやリーダーが率先することの大切さを感じました。
受け取り力アップワーク
3つ目は、仕事上でのマイナスな出来事を、前向きに受け取り、プラスに展開できる力を身につけるトレーニングとなる「受け取り力アップワーク」です。
「ジョハリの窓」、「成功の循環モデル」に加え、「ABC理論※」も参考にしたワークで、独りで問題を抱えがちな人であっても、リーダーやメンバーにすぐ相談できるような関係性を築き、コミュニケーションを図るものです。
やり方は、10人いれば、2人1組で3組と2組のチームに分け、それぞれリーダーを決めます。会議前の3分間、週1回、3カ月間実施してみましょう。
まず、2人1組で、①マイナスな出来事、②その事実をどう受け取り、③どんなプラスの行動をとったかを伝え合います。例えば、
①マイナスな出来事▼印刷物に間違った数字が載ってしまい、クライアントに迷惑をかけた。
②どう受け取ったか▼誰もが間違いやすいので、お陰でチェック体制を強化できたと受け取った。
③どんなプラスの行動▼誰もが使えるチェックマニュアルを作成し、同じミスが起きなくなった。
といった感じです。
終わったらリーダーにメールで報告。リーダーはパソコンなどで①出来事、②受け取り方、③どんなプラスに行動したかを管理し、各リーダーは良かった内容をメンバーにメール配信して共有するのです。
今回ご紹介したいずれのワークも決して複雑な内容ではありません。リーダーはワークの実施回数や間隔を臨機応変に変えていけばいいのです。コミュニケーションの接点を増やし、明るい話しやすい空気を作り、前向きな人間関係になったチームは必ず前向きな結果が伴います。まずは取り組んでみてください。
※ABC理論(心理学者アリバート・エリス)
困った状況、出来事(Adversity)に直面すると、それについて考え、思い込み(Belief)ができ、思い込みは結果(Consequence)を生む。結果を変えるにはどう受け取り方(思い込み)を変えるかがポイントとした理論。
【2017年7・8月号】難癖をつけてくる社員に振り回されないための解雇トラブル防止マニュアル -後編-

■トラブルを未然に防ぐための6つの対応
対応その1:危ない人物を入社させないこと
採用面接で「経歴も輝かしく映り、受け答えにもそつがない。入社後に社内に上手く溶け込んで活躍してくれるだろう」などといったような「何となく良さそうだ」という感覚だけで採用を決めてしまうのは危険です。
【危ない人物かどうかを見極めるための工夫】
①複数の階層の社員で面接を行う
採用担当者や経営者による面接とは別に、若い社員による面接を行ってみましょう。採用担当者や経営者の前では自分を良く見せようと必死になりますが、採用決定権などあるはずのない若手社員の前では、地や本音をさらけ出す可能性が高いのです。
②面接時の雰囲気を変えてみる
食事をしながらなどリラックスできる環境の中で応募者と話をしてみてはいかがでしょうか。社内での面接は互いに緊張するため、応募者も予め準備をしておいた姿しか出しませんが、リラックスできる環境があれば、応募者は地や本音を出すものです。
③過去の退職理由を正確に確認する
退職に至った経緯の詳細を確認してみましょう。面と向かって聞くのは気が引ける場合は、退職証明書(資料1)を在籍していた会社や団体に提出してもらうという方法もあります。

対応その2:危ない人物を本採用しないこと
多くの会社が形式的に試用期間を設けています。試用期間を終えた人を本採用しないことも解雇に相当。曖昧な理由で本採用を断ると不当解雇だと難癖をつけられることになりかねません。
【本採用を断る時のトラブルを防止するために必要な3つの対応】
①本採用をするか、しないのかの判断基準を予め明確にしておく
どのような要素の有無で本採用を決めるのか。それをどのような視点で判断するのか。そのために本人にどのような業務をどのようなやり方でやらせるのか。といったことを明確にしておきます。
②本採用をするか、しないのかの 判断基準を本人に伝える
本人には明確にした前述の判断基準を伝えておきましょう。本人が、どのようなことを会社にアピールできれば本採用してもらえるかを理解した上で行動をするので、会社はその適性を正確に見極めることができるようになります。つまり、本採用への会社の判断に客観性が生まれるわけです。
また、基準に基づいて適性を見極めるという共通目的によって良好なコミュニケーションが生まれ、本採用した後に早い段階で戦力化することが期待できるようにもなります。
③雇入れから14日が経過するまでの間に一度本採用の可否を判断すること
雇入れから14日以内の解雇は解雇予告が不要(雇入れ日の翌日からカウント)です。短期間で明らかに適性がないと判断したことに関しては、難癖をつける余地は小さくなります。後でトラブっても会社の言い分が通る場合が多いのです。
対応その3:危ない人物を孤立させないこと
解雇時のイチャモンは、何らかの理由で会社に対する不満を抱いていた人が、解雇という引導を渡されたことで、不満が憎しみに変化し、会社を攻撃する行動に出ることで生じます。
会社が何のフォローもしてくれなかったと思うことが会社に対する不満につながっていきます。そうなった場合、本人が社内で孤立してしまっていることが多いようです。
【問題を抱えた社員を孤立させないために必要な2つの対応】
①問題が生じていることに会社がいち早く気づくこと
トラブルに発展しそうな要素に対していち早く手を打ちましょう。定期的に社員と面談することをスケジュール化すると効果的です。
②本人の言い分に十分に耳を傾けること
社員との面談を行う時などに、社員の言葉に対して真摯に耳を傾ける姿勢を持ちます。会社側が一方的に発言したまま面談を終えてしまうと、問題が生じていることに会社が気づけないだけでなく、問題を抱えている社員の会社に対する不満も膨らんでいくものです。
対応その4:正しい労働法の知識を身に付けること
中小企業の経営者や管理職者は、労働法に疎い人が多く、一般の社員は、理論武装している人が多いようです。インターネットやSNSなどで労働者の権利保護に関する情報をつかんでいます。ですから、法を無視した対応を行うと、そもそも違法行為だということで突っ込まれてしまうわけです。(資料2)
【そもそも論から突っ込まれないために必要な2つの対応】
①最低限の知識を身に付ける
マネジメントを行う人が知っておくべき最低限の労働法の知識を理解しましょう。トラブルの火種になりそうな事柄に対して、「もしかしたら当社の対応は危ないのではないだろうか?」と感じることができ、違法行為を未然に防ぐことができます。
②わからないことは即答しない
雇用に関する見解や判断を求められた時は「感覚的に答えない」「知ったかぶりをしない」「自信がない、もしくはわからないのであれば、調べたうえで回答する」を心掛けてください。

対応その5:きちんとした就業規則を作成すること
きちんとした就業規則を作ることだけでトラブルを完全に防止することはできませんが、トラブル発生時のダメージを軽減することは可能です。
それは、就業規則で規定した解雇理由が解雇を行うための根拠として主張できるからです。ただ、インターネット上の雛形や他社の就業規則をそのまま使うことは、実態に則さないことが多く、自らの首を絞めることにつながりかねません。
【きちんとした就業規則を作成するための2つのポイント】
①想定されるリスクとの整合性のある内容を規定する
発生しそうなトラブルの内容やトラブル対応への会社の考え方を反映した規定を作成しましょう。会社ごとに社風や考え方が異なるため、対処の仕方も、会社によってさまざま。あなたの会社の理念や方針、社風を反映させたいものです。
②特定の解釈しか生まれない内容で規定すること
どうにでも解釈できる曖昧な内容の規定は避けましょう。規定の内容がいかようにも解釈できるものである場合、イチャモンをつける側も独自に解釈を広げて反論してきます。(資料3)

対応その6:指導記録を作ること
就業規則に規定した解雇理由が解雇を行うための根拠になりますが、規定した解雇理由に該当するからといって問答無用に解雇できるというものではありません。「会社側も最善を尽くしたけれども、そのような対応をせざるを得なかった」という状況の下で行うことがベストです。イチャモン社員のバックに弁護士などの専門家がついた場合、まずその部分を追及してきます。
【そのようなリスクを避けるために必要な2つの対応】
①会社としてやれることを全てやること
問題社員に対して何も手をつけずに放置した状態で、あるとき堪忍袋の緒が切れて解雇を行うのが、最も多い失敗のパターン。問題社員が存在する場合は、まずは徹底した指導を行います。
能力不足な場合は、能力を習得し発揮させるための指導を行います。
勤務態度が不良な場合は、そのことを咎めた上で、改心を促すための指導を行います。
心身の状態が悪い場合は、仕事の内容や環境を変えるなどの工夫を行います。
②記録に残すこと
言った言わないの展開になることを防ぐためにも指導の記録を残しましょう。トラブルが生じた時の証拠にもなります。(資料4)
いずれも感情的にならず、冷静に、そして毅然とした態度で対応することが大切です。

【2017年6月号】難癖をつけてくる社員に振り回されないための解雇トラブル防止マニュアル -前編-

■トラブル発生の構造
1.解雇が認められる明確な法的基準がない
最近、解雇した社員からのイチャモン、いわゆる難癖や言い掛かりに悩む経営者が増えているという実感が私にはあります。企業自身がトラブル発生のメカニズムを正しく認識した上で、未然に防止し損害を最小化するための対策を、リスク管理という意味合いで備えておく必要があるといえます。
さて、トラブル発生の根本原因は、解雇が認められる明確な法的基準がないことです。
唯一存在するのは、労働契約法第16条の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして無効とする」という考え方のみ。
法を犯した場合など、明らかに就業規則や社則に違反して誰が見ても解雇されて当然だねというような事案でない限り、解雇権の乱用を疑われてしまうのです。
2.こんな理由で解雇した時にイチャモン社員が現れやすい!
難癖をつけられやすい解雇理由として次の4つが考えられます。
①能力不足であることを理由とした解雇
②勤務態度が不良であることを理由とした解雇
③職場の規律を乱したことを理由とした解雇
④精神的に問題があることを理由とした解雇
例えば①の理由で、「君は会社側が期待していた仕事をこなせていない」と主張しても、「一生懸命努力をしているのに、それはないでしょ!」という言い分が返ってきます。②や③にしても「AさんやBさんも同じことをしているのに、ナゼ私だけ?」と主張してくるのです。
3.きちんとしたやり方で解雇をしてもイチャモンはつけられる
解雇トラブルというと昔は、一方的な解雇の言い渡しや「お前なんかクビだ!」と喧嘩腰的な言い渡しで解雇をした時が多かったようですが、今は違います。きちんと予め書面(解雇通知書など)を通じて申し渡し、本人も納得したはずだと思っていても、解雇した後で言い掛かりをつけてきます。それで振り回されるから、厄介なのです。
■どのようなやり方で言い掛かりをつけてくるのか
具体的にどのような形で言い掛かりをつけてくるのでしょうか。最近ではメール(資料1)、内容証明郵便(資料2)、弁護士からの文章(資料3)を送りつけてくるやり方が増えています。特に弁護士からの文章が多いようです。社内に顧問弁護士がいたり、法務部門があるならまだいいですが、いきなり弁護士からこんな文章が届いて、裁判うんぬんなんて書いてあったら驚いてしまいます。厄介なことを避けようと、つい高額な和解金を支払ってしまった――。実はこれがとても多いことを知っておいてください。
■イチャモンをつけてくる目的とは?
イチャモンをつけてくる目的は基本的に次の3つです。「お金が欲しい」、「嫌がらせをしたい」、「辞めたくない」。
最も多い理由は「お金が欲しい」。法的には整備されていませんが、和解という形で会社が解決金を支払うことでトラブルを収束させる事案が増加しています(解決金の支払い事例集)。
「嫌がらせをしたい」の場合は、もともと会社に対して何らかの不満を抱いていた人が解雇されたことを理由に不満を一気に爆発させたり、思い込みの激しいタイプの人が怒りに任せて騒ぎ立てたりします。このケースでは事実と反することを理由に言い掛かりをつけてくることも多いです。
「辞めたくない」場合は、過激な行動を取ることは少ないですが、同僚を巻き込むことがあるので注意してください。同僚に「この人に辞められると困ります……」などと言わせるわけです。

■イチャモン社員が増殖してしまう理由
1.インターネットやSNSの普及
手軽に情報を入手できるインターネットやSNSの普及により、見ず知らずの第三者と交流を図ることができます。インターネット上の情報は、いい加減な内容も多いのですが、解雇に納得のいかない社員は、自分にとって有利で都合のよい情報だけを選りすぐり、会社をやり込めるイメージを膨らませるのです。
2.解決金の魅力に取りつかれた支援者たちの存在
解決金の中から報酬を得ることのできる弁護士や特定社会保険労務士の存在がここのところ目立ちます。法の専門家ですから、あの手この手で企業を追い詰める策をイチャモン社員に授け、煽ります。また、社外の労働組合も無視できません。一人でも自由に加入できる労働組合は実績をアピールして組織率を高めることと、成功報酬を通じて組合の運営資金を確保するという目的で、イチャモン社員と共に、企業に乗り込んで交渉を要求してきます。
3.争うことに関するハードルが下がった
昔は、労働問題を巡る争い事の決着をつける手段としては裁判を起こすしか方法がありませんでした。それが今では、裁判以外にもいくつかの解決方法があります。
例えば「総合労働相談コーナー」です。労働基準局や労働基準監督署内にあり、双方の言い分を聞いた上で、あっせん案を提示(原則一日で終了、費用は不要)してくれます。
もう一つは「労働審判」。地方裁判所が申し立てを受け付け、争いが生じた事情や当事者たちの言い分を確認したうえで、調停案を提示(解決までの期間は2カ月程度、費用は低額)してくれます。
こうしたあっせんや調停で決着しない場合は、裁判へ移行となってしまいます。
■トラブルに振り回されることで生じる損害
1.金銭的な損害
イチャモン社員が弁護士を連れてくれば、企業側も弁護士に頼らざるをえません。となると弁護士費用が発生します。具体的には、30分間で5千円の相談料とか、着手金として数十万円などといった負担です。
解決金だけではなく、未払い賃金を支払うことになるケースもあります。解雇が有効に成立していなかった期間に関して、本来労務を提供することで得られたはずの賃金を得られなかったという主張によるものです。
そして、最大の金銭的な損害は、時間の逸失です。これは意識しないことが多いのですが、経営者や幹部社員がトラブルに対応し、振り回されることでの逸失時間から換算される金銭はばかにできません(資料4)。

2.その他の損害
残された社員に与える影響も考えねばなりません。イチャモン社員が残された社員に対してあることないことを吹き込む場合も多く、不安が生じ、それにより士気が低下したりします。そして、その不安が会社に対する疑問へと変化し、生産性の低下や予期せぬ離職につながることも。これは企業にとって大きな損害といえるでしょう。
さらに会社の信用失墜という損害も見逃せません。インターネットやSNSを通じた情報の拡散で、ブラック企業のイメージが出来上がってしまえば、取引先からの信用低下、採用への弊害にもつながります。
このようなことを認識しておくことは会社を守るためにも大切です。次回はこうしたトラブルを未然に防ぐ予防対策について考えてみたいと思います。

〈解決金の支払い事例集〉
■無断欠勤を理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金360万円を支払った
■顧客とのトラブルを理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金300万円を支払った
■職場の規律を乱したことを理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金250万円を支払った
■能力不足を理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金180万円を支払った
■人事異動に従わないことを理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金150万円を支払った
■ノルマ未達成を理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金130万円を支払った
■協調性に欠けることを理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金50万円を支払った
■セクハラを理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金45万円を支払った
■契約更新を拒否した従業員に対して、会社が解決金30万円を支払った
■いじめを理由に解雇した従業員に対して、会社が解決金25万円を支払った
【2017年5月号】事例で見る成長企業への展望 Part6 元気な企業は、こんなことをしている!
人気シリーズの西村晃氏のフィールドワーク・レポート。市場規模の小さい地方は、大都市圏以上に戦略的な経営展開が求められる。今回は「食」をテーマに、果敢に挑戦する企業の成功事例をお届けしよう。

「食」に見る地方ならではの戦略がある
不況なのではない。
今を不況と言えば、これからずっと良くなることはない。
昨年はオリンピックイヤーだったのに五輪特需という言葉を聞かなかった。カラーテレビ、ビデオデッキ、DVDプレーヤー、大型・液晶テレビなど家電のヒット商品は、4年に1度のオリンピックをきっかけに広まった。近年の家電メーカーの凋落ぶりも併せて考えると時代の節目を感じる。クルマも売れるのは軽自動車とハイブリッドが中心。かつてのように若者の消費意欲を掻き立てることもない。
さらにここにきて衣料品の落ち込みも顕著。
百貨店やスーパーの不振に加えて最近はショッピングセンターも頭打ち。こうした店の利益は、かつては衣料品が稼いでいた。
高齢者が増え、主たる収入が年金という人達はたとえ資産はあっても、日常生活のランニングコストを落とそうとする。
「ハレ」の消費はともかく日常の「ケ」の消費に貯金は崩したくはない。
また「バブルを知らない子供たち」は、クルマはもちろんおしゃれな服で着飾る発想もない。
つまり需要がなくなったのだ。
減税したからと言って需要が増えるというものでもないだろう。
これまでの経済政策の手法の限界を感じる。
そうした中で「食」の分野は、比較的堅調と見られてきたが、高齢時代はやはり新たな切り口で市場開拓が求められる。
今回は地方の「食」を担う企業3社の取り組みを紹介する。
挑戦心を失わない老舗の市場開拓
福岡の名物と言えばまず思い浮かぶ明太子。戦後の混乱期にこの食品を作り出し、あえて特許を取らず地元の水産加工業者共通の製品として広めたのが、「ふくや」創業者の川原俊夫氏である。
その老舗で、このところヒット商品が相次いでいる。
「昨年発売した『めんツナかんかん』は1年で100万缶、累計200万缶を突破しました」
こう語るのは今年就任した4代目の川原武浩社長だ。
「ツナを明太子の調味液で味付けした缶詰です。明太子は生ものですから、外国人旅行者がお土産に持ち帰れません。何とか福岡の味を持ち帰っていただきたいというのが開発動機でしたが、実際にはお年寄りからお子さんまで日本人にもたくさんお買い上げいただいています」(川原さん)
また2013年1月、粒タイプのチューブ入り明太子「tubu tube(ツブチューブ)」を発売したところ初年度の販売数2万本。2015年度には12.5倍の25万本にまで伸び、すっかり定着した。
「ポップなパッケージで若者の旅行客から人気が出ましたが、それ以上に調理になるべく包丁を使いたくないという高齢者に広まっているのがメガヒットの秘密と分析しています」(川原さん)
中元・歳暮の習慣が減ってきていることや、コメの一人当たり年間消費量も年々減少していることなどを考えると、「贈答、ごはんの友」というコンセプトで全国区商品になった明太子も、将来像を描きにくくなっている。
ごはん以外でも食べられるメニュー提案、常温品の開発といった新規分野の開拓にトップ企業「ふくや」は挑戦している。
「昨年から明太子の皮を利用した商品、『醤明太(ひしおめんたい)』を発売したところ年間3万個の計画が発売8か月で4万個を超え、原料が足りなくなる事態になっています。国内市場縮小に向けて海外向けブランド『鱈卵屋』の名で香港・台湾に進出、北米・豪州に向けては缶詰の輸出も計画しています。創業者・川原俊夫氏の『味は守るな、常に顧客に合わせて進化させろ』との教えに従い、時代の変化に合わせて積極的な商品開発を続けていきます」
川原社長はこう結んだ。


コメ離れへの挑戦
「ハナノキ」という企業名を知らない人は多いかもしれない。
ネット通販「楽天」の食品部門で、年間ナンバーワンを何回も取ったことがあるコメショップ「ハーベストシーズン」を運営する愛知県のコメ問屋である。
「中部圏を中心にコメを供給してきましたが、需要の頭打ちの中で何とか販路を切り開けないかと考え、無洗米に特化したネット通販を始めたところ売り上げを伸ばすことに成功しました」
こう語るのは池山真一郎社長だ。
「炊飯前にとぐ必要がない無洗米は、手軽な反面、これまでぬかを取り除く過程できれいに取りきれず残ってしまったり、コメのおいしい部分まではがしてしまい味覚が落ちるといったマイナス面もありました。当社では、愛知県瑞浪市の新工場に、人が手で洗うのと同じ水洗い方式の工程で無洗米を生産する設備を導入しました。コメをとぐ手間がないうえ味覚も白米と変わらない、と家庭の主婦はもちろん、外食産業にも評価されるようになりました」(池山さん)
ハナノキはさらに次の手を考えた。
コメを立方体になるように真空パックで包装した「キューブ米」、同様にシート状に包装しハガキやメール便として送れる「シート米」などを開発した。
「包装の工夫により新しい販路を創ろうと考えました。引き出物や来店記念品などにも提案可能な少量パックをつくることができるようになりました。もともと問屋ですから大袋のコメが当社の常識でした。しかし単身世帯や、高齢者世帯では、少量パックの需要が増えており、それへの対応を考えました」(池山さん)
それに加えてコメをギフトやノベルティ商材として扱おうと需要開拓にハナノキは戦略を練る。
「薄利多売では、価格競争に巻き込まれ消耗してしまいます。バレンタインデーのお返しのホワイトデーにはホワイトライスを、外国人のおみやげに空港の売店でキューブ米を、といったギフト提案にも力を入れていきます」
コメ市場縮小にも「そうは問屋が卸さない」とハナノキの挑戦は続く。

地方メーカー、大手共存で生きる道
梅の本場紀州にある、その名も「プラム食品」という梅専門メーカーの存在もやはり一般の消費者は知らないかもしれない。
しかし大手飲料メーカーや菓子メーカーにとって梅関連商品の黒子役として欠かすことのできない会社なのだ。
「うちは梅干し以外の梅加工食品を専門に扱う唯一のメーカーです。梅ワインに梅ゼリー、梅ジャムに梅ドレッシング、和菓子など自らもたくさんの最終商品をつくっていますが、大手メーカーの企画のお手伝いをすることで、実際は自社の10倍以上の売上げと関わっています」
長井保夫社長はこう説明する。
「独自の缶飲料を作っても、流通コスト、宣伝力、資本力などどうしても地方企業は不利になります。だから大手企業と正面から戦うのではなく、むしろ大手に協力することで共存共栄をはかる道を考えました。うちがつくっている梅加工食品群は、実は『当社はこういうものがつくれますよ』と大手メーカーの開発担当者に伝えるパンフレットのようなものと位置づけています。最終商品よりも加工技術を売るという発想なのです」
プラム食品は、こうして大手酒造メーカーやビール会社などに果汁や果肉の加工技術ノウハウを提供し、梅酒や梅ワインを量産する縁の下の力持ちになった。
ただ、ここにきて少し異変が起きている。
50年前の創業商品、「プラムハニップ」という自社の梅ジュースが売れ始めたのだ。
「パッケージも味も昔のままなんです。近年甘さを抑えた商品が業界の主流だったのですが、昔の甘さを求めるお客さんにかえって新鮮に感じていただけているようなのです」(長井さん)
客層は、やはり昔の味を懐かしむ高齢者ではないか、と長井さんは見る。
「大手企業から依頼を受けて開発している商品も概して好調、甘酒など“昔の味”ほど好調です」
現在の売れ筋を追い求めて広告宣伝費を大量投入、短命のヒットを狙う大手メーカーのコンビニ型ビジネス。
一方それとは一線を画し、あえて昔の味にこだわり50年商品を売り続ける地方企業の「少量確実商法」に縮小経済下での生き残りのヒントが見えてくる。

【2017年4月号】とかく管理職者はつらい?! リーダーのためのメンタルケア・ポイント!

活躍するリーダーは、上司と部下からの板挟みは当たり前!
とかくリーダーは、「上からの命令と下からの突き上げの板挟みになってつらい」というイメージがあるようです。でも、リーダーならば、板挟みの危険性がない人は存在しないのではないでしょうか。
ひと昔前は、上司の要望だけを聞き、あとは部下に丸投げをするという中間管理職がいました。または反対に、部下を守るために、やたらと上司にかみつくという気概のあるリーダーも珍しくなかったと思います。
しかし、今の時代、どちらのタイプも出世はしづらいかもしれません。現代で管理職に就ける人は、会社の方針や上司の意見をくみ取ることができ、さらに部下の教育や心身の状況も把握できる人です。上司か部下、どちらか一方を気にしていればいいという人はそもそもリーダーにはなれないのではないでしょうか。
つまり、すでに管理職の方や、これから管理職になる方は、板挟みの危険性は避けては通れないといえるでしょう。
女性が部長にもなると板挟みも乗り越えている?!
男性と女性のリーダーを比べると、女性のほうが板挟みの率は多いでしょう。男性よりも女性は「リーダーだからこれをしなければいけない」と思い込む傾向が強いように思えますので、その分、上司や部下に気を遣ってストレスを感じます。実際、マネジャー・クラスで男性と比べると、女性のほうがメンタル負担についての相談をよく受けます。
そんな女性が、部長にもなると一転。板挟み状況なんてありません。いえ、板挟みがないというか、乗り越えているようなんですね。まさに「ストレスは人生のスパイス」(※)だと肯定的に向き合ってきた人といえますね。というのは「女性管理職」の中でも、部長職はお飾りではできませんから、真の実力があってのポストです。男性が部長になるよりもかなりハードルは高いので、部長に就くほどの女性は、根回し、周囲への配慮はもちろん、実務能力に優れ、自身の精神コントロールにも長けているのではないでしょうか。
派遣業界などでは男女問わず、「マネジャーを経験していない人は市場価値が下がる」とまで言われています。しんどいポストにありますが、それだけ価値ある存在でもあるのです。
※日常生活に「ストレス」の概念を見いだしたカナダの生理学者ハンス・セリエ の言葉。ストレスには「良いストレス」もあると唱えた。
ストレスの症状、「不眠」
板挟みにあるリーダーに就いた当初は、無理難題を押し付けてくる上司や、自分勝手な部下に対しては、腹が立つ人もいるかもしれません。しかし、ストレスが溜まってくると、やがてその矛先は必ず自分自身に向かいます。
「上司の役に立てない俺」「部下を育てられない私」。そんな自分自身を責め、精神的にも肉体的にも疲れが蓄積されます。ストレスが大きくなってやっかいなのは、自分を嫌いになってしまうことです。他人の悪口や愚痴を言っているあいだはまだいいのです。自分のことを嫌いになってきたら危険信号と思ってください。
やがて、溜まったストレスにより、身体的に現れる症状は、「不眠」です。なかなか寝付けない、夜中に目が覚めると後が眠れないといった症状ですね。ただ、眠れない日が続いても、何日目かでぐっすりと眠って清算できることはあるようですが、それでも不眠そのものは病気です。専門医に診てもらうことをお勧めします。
ストレスは、IQを下げる
不眠の他に、ストレスを過度に感じたり、身体の疲れが重なると、人はIQが下がります。普段ならできることができなくなるのです。リーダーなのに、お手本になるべき人なのにできなくなる。どんなに優秀な人でも、強いストレスを感じている状況下では、仕事の質もスピードも下がってしまいます。生産的な行動がとれなくなるのです。
さらに、周囲の人に相談しようという発想も出てこないので、どんどん独りよがりに陥ってしまい、孤独感も積もってきます。そのような状態では、上司からのあたりはさらに強くなり、部下の不満も増えるでしょう。まさに悪循環です。

予防法&対処法①
「自分自身はどうしたいのか?」を考えること
不眠に対しては専門医に相談して睡眠導入剤を服用したりして、体調を整えましょう。
一方、精神的には普段からの心掛けとしては、常に「自分自身はどうしたいのか?」を考えることです。「トップの方針だから従え」では、実務を担う部下や現場の人たちはたまったものではありません。もちろん、そうせざるを得ない場合もあるでしょうが、まずはその方針を自分はどう思うのか。「おかしいな」と思う部分があるのなら、可能な限り上司へ掛け合うことです。
「そんなことしたら、上司の機嫌を損なうだけだ!」という人がたまにいますが、本当にそうでしょうか? よく「うちの会社はイエスマンが出世する」という声を聞きます。それはその会社にイエスマン以上に優秀な人がいないからなのではないでしょうか。
トップの周りに、自分自身の考えや意見を丁寧に伝えてくれる部下がいないなら、せめて自分の考えに従ってくれるイエスマンを優先するのはトップにすれば当然の行為だといえます。もちろん、意見を言えばいいというものではありません。上司の立場も尊重しながら、建設的な意見を言ってくれる部下は頼りになります。そういう人が周りにいれば、イエスマンより優先されるはずです。
大切なのは、「自分自身はどうしたいのか?」という考えを持ち、同時に相手を動かすための伝え方、つまりコミュニケーション力を身に付けることです。部下も、「トップに言われたからこうして」という上司にはしらけてしまいますが、「私はこうしたいんだ!」という強い信念がある人にはついて行きたくなるものです。
予防法&対処法②
他人からの評価を気にし過ぎないこと
板挟みのストレスを和らげるために、もう一つ心掛けてほしいのは「他人からの評価を気にし過ぎない」ことです。
「こんな風に言ったら生意気に聞こえるかな?」「相手は傷つかないかな?」なんていうことを過度に気にしないことです。
もちろん、伝え方には一定の配慮が必要ですが、相手がどう受け取るかは相手の問題であり、踏み入ることができません。最近話題になっているA・アドラーの『嫌われる勇気』でも言っている、〈課題の分離〉です。あなたが言ったことを聞いて上司や部下がどう感じるかは〈相手の課題〉であってどうすることもできません。
どうにもできない〈相手の課題〉のことを考えるより、誠意ある対応で「できることを精一杯する」という論理性を持つことは、余計なストレスを抱えないためにとても大切なことです。このことに付随して「他人の悩みを自分の悩みにしないこと」もお伝えしておきます。
予防法&対処法③
背筋を伸ばして笑顔をつくる!
先ほど少し触れましたが「ストレスは人生のスパイス」と肯定的に捉えてみましょう。そうして、“背筋を伸ばし、笑顔になること”です。実はこれは最も手軽で人気のあるストレス軽減法。「自分にはストレスがたくさんある!」という人は、例外なく姿勢が悪く、表情が暗いか怖いかのどちらかです。
「大変な仕事をしているのだから当然だ!」という意見もあるかもしれませんが、逆もまた然り。心身相関といって、心と体はつながっています。背筋を伸ばし、頬を緩ますことで、心のストレスも必ず軽減されます。
ですから、鏡を見て、笑顔をつくってみましょう。常に暗い顔や怖い顔をしている上司の元で働く部下と、和やかな表情をしている上司の元で働く部下とでは、どちらのパフォーマンスが高くなるかは想像に難くないと思います。
予防法&対処法④
今この場に集中する!
“今この場に集中する”ということも、ストレス対処法として有効です。よく、「家に帰っても仕事のことが頭から離れない」という人がいます。難しい仕事をしているのですから当然です。ただし、いつも気になるという方は、集中力の問題かもしれません。
家に帰っても仕事が気になって家族との会話に集中できないという方は、案外、仕事中に「家の車の車検、来週あたり出しておこうか」と考えていたりするものです。
当たり前のことですが、職場で集中しなければいけないことは目の前の仕事です。家の車のことや、子どもの進学について心配をする時間ではありません。家庭でも同じです。経営の戦略や次の企画、部下のミスのフォローについて考えるのは、せめて帰宅するまでの電車や車の中で終わらせたいものです。そういう意識を持つだけでも、心身に良い変化が起こります。
エスカイヤニュースの読者の方には、ゴルフをなさる方も多いかと思います。パットの時に、ドライバーでミスしたことを思い出したりはしませんよね? 仮に大きく叩いてしまったホールがあっても、次のホールに着く前までに気持ちを切り替える努力をすると思います。余計なストレスを引き起こさないために、“今この場に集中する”を常に意識することをお勧めいたします。
【2017年3月号】部下のやる気を引き出す!リーダーに必要な「伝える技術」Part2

「部下が動いてくれない」の原因は実はリーダーがつくっていた
「そこまで言わなくても分かっているはず」とリーダーはとかく話を省略してしまいがちです。口頭で話されても書類や図版もなければ、指示内容は頭になかなか入ってこないものです。
次のような事例はよくあることでしょう。
吉田部長は、部門会議で提出する受注見込みのリスト作成をいつものように小林君に頼みました。小林君は確実に受注できそうなAランクとBランクの見込み客をリストにして部長に提出。それを見るなり部長が声を荒げました。
部長「小林君! 見込み客はたったの6件しかないのか? 新規を獲得する気持ちはないのかい?」
小林「そんなことはありません。新規先にも積極的にアプローチしています(急に何だ?)」
部長「どうして6件だけなんだ!(語気鋭く)」
小林「確実な見込み客だけをリストに入れました。Cランクを入れていないだけです」
部長「CランクやDランクも入れるんだよ!」
小林「えっ? いつもAランクとBランクだけでいいとおっしゃっているじゃないですか」
部長「部門会議だぞ。数がいるんだよ。新規にもアプローチしていることもチェックされるんだ。そんなことくらい空気を読んで判断できるだろ?」
いつもの会議資料では小林君は確実に受注が見込まれるAランクとBランクだけのリストを作成していたのです。しかし部長は、今度の部門会議には専務が出席するので、できるだけたくさんの見込み客数をあげて、アピールしておきたかったのです。
それを「空気を読め」と言われても小林君は困ります。部下が動いてくれない、という原因は実はリーダーがつくっているのです。
「分かっているはずだ」と伝える話を省略せず、全体像もきちんと伝える
こうしたことが起きないよう、前回も紹介しました「5W2H」を使って、漏れがないようにするのがいいでしょう。先ほどの正しい伝え方の例です。
「来週3月2日の木曜日(いつ)までに、営業本部の部門会議で(どこで)、専務を含めた参加者全員へ(誰に)報告するために(なぜ)、Cランク以上もリストアップした(どのようにして)見込み客リストを(何を)30部(数量)作成してほしいんだ」
また、慣れた頃合いを見計らって、わざと「How(手段)」を省いて伝えてみましょう。「どうやってやるかは任せるよ」と。部下は自分で考えて取り組むので勉強になりますし、「任せてもらえた」と励みになり、成長にもつながります。
そして、吉田部長が求める「空気を読んでほしい」のなら「全体像」をしっかりと伝えておきましょう。それには指示書が有効です。「5W2H」の「誰に見せるのか」「どんなシーンで使うのか」だけ書いても立派な指示書になります。
全体像は口頭だけではなかなか理解しづらいもので、指示書があると全体像が見えてきます。もちろん指示書は事前にリーダーが用意しておきましょう。指示書を見せながら部下に指示をしている最中に、一人で作成しているときは気付かなかったことがひらめくこともあるのです。

依頼した仕事の完成形を明確にしておく
部下が分かって引き受けたと思っていたのに、違うモノがあがってきたとき、失望や怒り、とまどいはリーダーなら経験はあるでしょう。出来上がってきてからでは、ときすでに遅し。間に合わないこともあります。しかしそれは部下のせいではなく、リーダーの伝え方に問題があるのです。
そうならないためにも、どういう形で仕上げてほしいのかまず「完成形」を伝えておきましょう。資料作成なら、ソフトはパワーポイント、エクセル、またワードがいいのか、サイズはA4でいいのか、縦か横か、ページ数は何ページくらいで、どんな図表や写真を入れるのかなど。依頼時にアウトプットの形をリーダーが決めておきましょう。
優先順位よりも「劣後順位」のほうが大切
部下にいくつもの指示を出すことはよくあることです。それが3つや4つになると、部下はリーダーに言われたことはどれもが優先順位だと思い込んでしまい、どれを先にやればいいのか混乱してしまいます。
こういうときは決まってリーダーは「なるべく早くやっておいて」とか「空いた時間にやっておいて」と言っているものです。これはNGです。
優先順位を付けて指示するのは当たり前ですが、今やらなくてもいい劣後順位の指示のほうが実は大切なのです。
「木曜日アップで頼んでいた会議の報告書は来週の月曜日でいいから、この資料のまとめのほうを先にやってほしいんだ」と。優先順位の高い仕事を1つ頼んだら、劣後順位の高い仕事も1つ作る。複数頼んだ仕事を確実に仕上げたいのなら、劣後順位が大切です。

「分かりました」はあてにならない
部下の「分かりました」はあてにしないことです。部下にすると、リーダーの話で「ここが分かりません」とは言いづらいもの。分からないままでやってしまうと当然指示したものとは違うものがあがってきます。そこで怒鳴ったところで時間もないのでリーダーが自分でやることに。そうなるといつまでたっても部下に任せられないので、部下の成長も止まってしまいます。
大切なのは確認すること。いくら5W2Hや指示書で説明しても部下が分かっていなければなんにもなりません。分かったかどうか、次のようなやり方で確認してみましょう。
◆復唱してもらう
単に「今、伝えたことを復唱して」なら、信用されてないのか、と部下は思ってしまいます。そこで「間違って伝えたかもしれないから復唱してもらえないかな」と言ってみましょう。部下も納得してくれるはずです。
◆こちらから質問する
部下が間違いそうなこと、判断に迷いそうなことはこちらから質問してみましょう。例えば「製造課のG部長がいなかったらどうする?」「横浜エリアの会議室が押さえられなかったらどうする?」とか。
◆まとめてもらう
「今、伝えたことをまとめてくれるかな。10分ほどで戻ってくるから」と、リーダーは一旦席を外すのもいい方法です。これだと、部下はまとめながら質問や分からない点もまとめることができます。
「スモールゴール(中間目標)」「確認時期」「場」を設ける
スパンの長い仕事を部下に頼む場合、ゴールまでモチベーションを保つのは難しいのは当たり前です。そこで、通過点である「スモールゴール(中間目標)」と、進捗に対しての「確認時期」「場」を設定しておくとよいでしょう。
◆スモールゴール(中間目標)の設定方法
例えばある報告書を作成する仕事ならば、第1段階として資料を集める、第2段階は報告書の最初の1章を作成してみる、という感じです。
もう少し具体的な設定例を見てみましょう。
【最終ゴール】 沿線のPR冊子を新しく企画。発行までの3カ月間に30件の協賛広告主を集める。6人チームなので1人5件が目標。
◎スモールゴールの第1段階⇒最初の1週間で各々が50件にアプローチ(電話営業)をする
◎スモールゴールの第2段階⇒2週目は5件の見込み客を訪問する
◎スモールゴールの第3段階⇒3週目は累計10件 の見込み客を訪問し、協賛広告主を1件受注する
◎スモールゴールの第4段階⇒4週目で累計15件の 見込み客を訪問し、協賛広告主を2件受注する
スモールゴールを定めると途中の過程で達成感を味わうことができ、だらけてしまったり、モチベーションの低下を防ぐことができます。
◆確認の時期と場の設定方法
部下にうまく伝えても「確認」を怠ると失敗する可能性が高まります。1週間過ぎても何もやっていなかったとしても、途中の確認があればリカバリーできますし、方向性が違っていれば修正して、目標達成できるよう指導ができます。
また、リーダー自身もその案件が初めてならなおさら確認は大切でしょう。何かトラブルがあってもすぐに対応できます。
「確認時期」と「場」は、例えば毎週水曜日午後 13時からミーティングを開くときちんと決めておきます。そして、困った事、失敗した事を報告してもそれだけでは評価は下げないことをはっきりと言っておきましょう。逆にトラブルやリスクが起きている事を隠すほうが評価は下がると。
また、朝礼の後などに個別に報告してもらう場を設けるのもいいでしょう。メンバーの前で失敗事を話すのは恥ずかしくて報告をためらうことも防げます。
メールで伝えるには注意が必要
メールで部下に仕事を依頼したり、指示したりすることもあるでしょう。メールは便利ですが、デメリットもあるので注意が必要です。
◆件名は見てすぐにわかるように書く
◆本文は5W2Hを意識して簡潔に書く
◆曖昧な言葉や形容詞は使わない
◆CCの人たちはほとんど見ない、と考えておく
◆叱るときには使わない
◆急ぐとき、複雑な案件は送信後に必ず電話か、直接話すようにする
他、たくさんの商品を扱う会社でよくあるのが、生産中止になったり、価格が変更になったりした商品情報を従業員に一斉メールしますが、これは危険です。そもそも相手が読んだことを前提にするのは危ないことなのです。そういう場合は朝礼等で伝えるようにしましょう。
繰り返しますが、叱る内容をメールで送るのは避けましょう。メールは履歴で残りますし、顔が見えないので、言葉は何通りの解釈にもとれます。よけいな想像をしてしまい、部下は多大なストレスを感じるものです。
一方、褒めるのならメールでも問題はなさそうですが、口頭で言われるほうが相手はうれしいものです。リーダーだって気持ちがいいはずですから、せっかくの喜びは共有したいものです。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)
【2017年1・2月合併号】部下のやる気を引き出す!リーダーに必要な「伝える技術」Part1
部下との人間関係は良好となり、ストレスもなくなり、業績もアップ!
セミナーや研修で相談を受けることで多いのが「部下にこちらの意図がうまく伝わらない」という悩みです。
私もかつて同じ思いを抱いたことがありましたが、私の場合は上司の影響が考えられました。その上司の指示がとても分かりにくかったのです。
A事案の対策をどうするのか終わらないうちにいつの間にかB事案の話になって、あちこちに拡散し、いったい私はどうしたらいいのか分からなくなることがよくありました。
そんな上司の影響をもろに受けて、いつの間にか私は部下に、
「おはよう。ちょっとお願いしたいんだけど、まずA社の見積もりを明日までに作成してよ。それから昨日のミーティングの議事録を部長に見せるから今日中に作成しておいてね。あっ、前回と同じ方向性だからすぐにできるでしょう。それと、店長会議があるから、エリア別の売上表を作っておいて。なる早でお願い」
と、まくしたて、できなければ怒鳴りつける。そうするうち、チームの成績は社内で最下位、退職者が何人も出て、とうとう私は降格・異動となってしまいました。
異動先の上司は伝え方が上手な方でした。そのことに気付いた私は伝え方の勉強をするようになったのです。それからというもの営業成績は常にトップ、課長にも再昇格。いろんな部署からチームマネジメントの相談も受けるようになりました。
つまり「伝え方」に気を付けていれば、部下との人間関係は円滑になり、ストレスもなく、しかも業績もアップと、いいことづくし。私が実体験から学んだ「伝える技術」をご紹介しましょう。
「伝えたつもり」は、ほとんど伝わっていない
「伝える」と「伝わる」は違います。「伝える」に「受け取る」がセットになってはじめて、「伝わる」わけです。
つまり、「部下には、きちんと全て伝えたんだが……」という「伝えたつもり」が、ほとんど伝わっていないのは部下が受け取れていないからです。
ではなぜ部下は受け取れなかったのでしょうか。要因の1つに、知識、経験の差があります。リーダーはこんなことは分かるだろうと一方的に「伝えたつもり」になってしまいます。
私がかつて旅行会社に勤めていた時の新人時代、上司から「エアーのリザーブは済んだか? ホテルのアーリーチェックインは可能か?」と聞かれましたが、チンプンカンプンでした。
新人でも分かるように言うと「航空機(エアー)の予約(リザーブ)は済んだか? ホテルのチェックインを早めること(アーリー)は可能か?」になります。新人は専門用語にはまだ慣れていません。先のは部下への配慮に欠けていたのです。
また、リーダーの中には「同じことを言わすな」的な人がいて、質問しづらい、聞き直してはいけないと部下は思い、分からないままになってしまうこともよくあります。
「伝えた」のなら、部下が「受け取る」確認の時間をつくりましょう。本当に分かったのかどうか確認をするわけです。そこで便利なツールとなるのが5W2Hのシート。「食い違うといけないから念のために書いてもらえるかな」と書いてもらい確認し合えば、はじめて「伝わった」ことになるのです。

「やめてほしい伝えた方」をあなたも思い出して
あなたもかつて指示を受ける立場だった時のことを思い出してみてください。「あの人の指示は分かりにくかったな」と。大切なのは部下の視点を考えることです。「やめてほしい伝え方」をいくつか挙げてみましょう。
・たくさん指示されて、どれから取り組めばいいのか分からない。
・圧迫感があり、質問しにくい雰囲気がある(質問すると「前にも言っただろ」と怒鳴られた)。
・抽象的な内容で、2通り以上の解釈ができてしまう。
これらの場合、次のように心掛けてみましょう。
◎大事なポイントに絞って説明し、優先順位を明確に言う。
◎自分の表情に気を付けて、質疑応答を図る。
◎具体的な言葉を使う。
ここで特に気を付けたいのは、形容詞や副詞をあまり使わないようにすることです。「なる早で」「大至急で」「ざっくりやっといて」「適当にやっておいて」「急ぎの案件じゃないんだけど」「来週ぐらいにやっておいて」などはNGです。
「○日の○時までに仕上げてほしい」と日時をはっきりと伝えましょう。
そして、部下に伝える前にリーダーは時間をつくることです。先の5W2Hシートを使って伝える内容を整理してみましょう。思いつきで伝えることは一番避けたいことです。やめてほしい伝え方というのは思いつきが多いものです。

やるべきことをすべて書き出しておく
思いつきで、あれもこれも指示すると部下は必ず混乱してしまいます。ですから、伝えたいことは予めリストアップしてみましょう。準備する事、調達しておくモノ、誰にやってもらうのか等。そのリストを部下に見せながら他に漏れがないか確かめ合いながら、指示を出すのです。例えば新商品の説明会を行うとすればそのタスク(仕事・課題)は、
・会場の手配
・ホワイトボードやプロジェクター、マーカー等の備品が揃っているかの確認
・商品を並べる台(持ち運びできる場合)
・お茶や水、コーヒーの手配
・配布資料のレジュメの作成
・配布資料の印刷
・当日の講師を企画課の○○さんに依頼する
・招待したいお客様のリストアップ
・招待客への連絡(メール、DM)
・スケジュールの作成
・当日の受付スタッフを確保
こうして漏れがないようにすることが大きなポイントです。漏れがあると一からやり直しになったりしますから。
そして次は、分かりやすい伝え方になるように順番の工夫をします。このタスクは社内の○○課に頼んで、このタスクは社外に発注して、という感じです。これをチャンクアップといいます。チャンクとは「かたまり」という意味で、全体像を把握しておくためにも大切なことです。先のタスクをチャンクアップすると下図のようになります。

次は、イレギュラー、やり直し等も想定しておくことです。
そして、どこで進捗確認するかも決めておきましょう。そのためにもタスクのチェックリストを作成しておきます。
部下は、例えば説明会まで3週間あるとまだ時間があるからいいやと思い、2週間ほど過ぎてからやり出すもの。それだともう間に合わないことだってあります。「今日から水曜日と金曜日にチェックリストに沿って進捗確認をしていくから」と言えば、すぐに取りかかるでしょう。
「これは伝えない」という「引き算」も大切
チャンクアップしたのなら、「これはまだ取り組まなくてもいい」というタスクをリーダーは判断しておきましょう。つまり、大切なことだけをまず伝えるようにして、他は省くのです。これを「引き算の発想」と私は呼んでいます。
例えば先の新商品の発表会の準備タスクなら、A君に「招待したいお客様リストの作成を今週中にやってほしいんだけど、作成が終わった時点で報告してくれるかな」と伝えます。これならA君はリスト作成に集中して取り組めます。リーダーはリスト作成が終わった時点で、次の仕事を指示すればいいのです。それをリスト作成の次はこれ、その次はあれをしてと言ってしまうと、A君はやる前から混乱してしまうでしょう。
言葉を増やせば増やすほど、部下には伝わらなくなるのです。「何を伝えるのか」は大切ですが、「何を伝えないか」というのもとても大切だといえます。
そしてNGは、リーダーの感情・気持ちを言ってしまうのは避けましょう。「専務が早くやってくれって言うんだよ。まいったよ」とか。余計なことは言わないようにしましょう。
◎NGな伝え方
「午前中の会議でね、専務の説教が長くて大変だったんだけど。次長からA君の新規獲得数が少ないと言われたんだ。訪問件数も少ない気がするな。見込みの数はどう? どういう風にトークしているの? 売上も低迷しているしね。新規に力を入れてよ」
◎伝わる伝え方の例
「A君、最近新規の数が減っているようだね。訪問件数を1日1件でもいいから増やしてみようか。やってみて、来週の水曜日のミーティングで状況を報告してくれるかな」
シンプルがいいのです。A君も新規訪問を増やせばいいので、すぐに取り組むことでしょう。
曖昧な言葉は避け、数値化して伝える
あと、伝わっていない要因の一つに、「分かりにくい」というのがあります。先ほど、具体的な言葉を使うことと述べたところで、「なる早で」「大至急で」という形容詞や副詞をあまり使わないようにするのと同じです。
例えば「今週は新規開拓を徹底的に取り組んでほしい」の「徹底的」って、どの程度なのかとても曖昧です。こうした曖昧な言葉は、はっきりと数値化すれば、無理なく動けますし、チームで共有することも簡単です。
——————————————-
【曖昧な言葉】
「営業力をアップしよう」
▼
【伝わる伝え方の例】
「売上を前年同月比で10%アップさせる」
【曖昧な言葉】
「積極的に行動すること」
▼
【伝わる伝え方の例】
「今週中に1人1件の企画案を提出すること」
【曖昧な言葉】
「既存顧客に重点を置く」
▼
【伝わる伝え方の例】
「リピートオーダー率を15%アップさせる」
——————————————-
このように行動レベルを数値化すれば、具体的に行動ができるはずなので、ぜひ試してみてください。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)
【2016年12月号】ドラッカー理論を活かして中小企業が生き抜く作戦は、これ! 「小規模で 面倒くさい独自化戦略」
独自化(ニッチ)戦略の基本とは
ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』で、ニッチ戦略には2つの狙いがあると語っています。1つは小さな領域において、実質的な独占を実現することを狙いとすること。2つ目は競争に免疫になろうとする戦略であり、挑戦を受けることさえないようにすることを狙いとしています。
ニッチというと「すき間」を連想する人が多いと思いますが、「独自化」という言葉に置き換えたほうがわかりやすいので、「独自化戦略」を実現する視点で見ていくことにしましょう。
独自化の基本的な考え方としては、下の表をご覧ください。

■A領域は、追随したいし、追随できる状態にありますが、過当競争の領域です。
■B領域は、追随したいけれど、能力的に追随できないので追随しない領域です。
■C領域は、追随できるけれど、面倒くさいし、儲かりそうにないので追随しません。
■D領域は、追随できないし、面倒くさそうだし、儲かりそうにないので追随しません。
特別な能力を持っていない普通の中小企業は、C領域を目指すのが現実的でしょう。というのは、C領域で小規模事業に留めておけば大企業の追随防止策になり、面倒くさい分野なら中小企業も新規参入をためらい、真似される防止策にもなるからです。これを基本に述べていきましょう。
独自化戦略その①
小さな市場でオンリーワンを目指すこと
独自化と差別化は違います。「差別化は競争を前提」にしているからです。
競争のない未開拓市場「ブルー・オーシャン」を狙えといいますが、そういう魅力的な市場は先のA領域になることが多いので、参入防止策を考えないと独自化戦略にはなりません。
ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の中でニッチ戦略を「生態学的地位(エコロジカル・ニッチ)を確保する」という言い方をしています。
いわゆる、動物が天敵から逃れて生き残ることですが、動きの遅いナマケモノが生きながらえているのは、獰猛な動物がやってこない高い樹木の上部にいるからです。これが生態学的にニッチなわけで、こうしたことを意識すると戦略になります。逆に言えば意識しないから儲からないということになります。
例えば小さな制作会社が、いろんなクライアントの社内報をコツコツと作っているとします。社内報って、載せる項目は多いし、こまごまとした取材を毎日のようにしなければならないので面倒くさいですよね。大手の出版社がそれを手がけることはまずないでしょう。そんな領域で、社内報制作のスペシャリストを目指せばいいのです。
つまり、独自化とは小さな市場でオンリーワンになることです。
独自化戦略その②
限定されたニーズに対して自社の強みを活かす
自分たちが目指す理想の企業像を設計してみましょう。大企業になりたいのですか? 規模を広げれば広げるほど競争は激しくなります。そこそこ儲けることができる規模のビジネスモデルを設計することが大事なのではないでしょうか。
独自化戦略その①の小さな市場とは「限定的なニーズ」であり、そこで自社の強みを活かせば、独自化事業となるわけです。
船で例えるとわかりやすいでしょう。石油を運ぶには数十万トンという大きな船が必要ですが、小さな湖なら手こぎボートで十分。どんな小さな企業にも得意な領域があるはずです。よく零細企業の経営者が「うちは大企業ではないので」と言うのを聞きますが、大企業と中小企業を比べても意味はありません。そもそもマンモスタンカーと釣り船では、機能が違うからです。
独自化できる対象市場を絞り込むこと。つまり、大企業と勝負しないですむ小さな市場を、自分たちの舞台とするわけです。
それが独自化戦略であり、独自化ができれば、あらゆる企業にとって目標となる「経常利益率10%」も達成できるはずです。この経常利益率10%はいわば独自化を計る物差しという見方もできます。10%を超えれば設備投資だけでなく、人にも投資ができ、将来に手が打てるようになります。

独自化戦略の事例
①対象市場を徹底的に絞り込む
ここまで述べてきた独自化の考え方を説明するのに、いい事例がありますので紹介しましょう。
陸上競技用品を造る辻谷工業の砲丸は、オリンピックなどの世界の競技大会でトップシェアを誇っています。というのは、辻谷工業が造る砲丸は、重心が完全に球の真ん中にあることから「魔法の砲丸」とまで言われており、真似をしようとしても面倒くさく、しかも市場はとても小さい。誰も追随しようと思わないでしょう。つまり、辻谷工業は独自化ができているんです。
②強者の既存の利益に反することをする
アサヒ飲料の『ワンダーモーニングショット』は朝専用缶コーヒーという独自化で成功しています。缶コーヒーのトップシェアは、コカコーラの『ジョージア』。いつ飲んでもおいしいというのがコンセプト。ところが先の『ワンダーモーニングショット』は朝だけおいしいと言っているので、『ジョージア』は割り込めません。強者の利益に反することで独自化を目指したのです。
マーケティングによると朝コーヒーを飲む人は40%だそうで、『ワンダーモーニングショット』はそこにターゲットを絞ったわけです。先の①にも当てはまります。『エビスビール』にしてもそうでした。以前、価格競争している中で、唯一「ちょっと贅沢なビール」として根強い人気を得ていました。既存の利益に反する独自化の好例です。
③業界では非常識なやり方に取り組む
次は「雨漏り調査」です。業界では普通、無料で雨漏りを調査しますが、雨漏り110番グループは有料で調査(修繕工事は別途提案)をします。もちろん、依頼者のほとんどは5万円~10万円かかると言われると「結構です」と断ります。けれど、中にはそれでも見てほしいと依頼する人もいるのです。それだけの費用をかけるのですから、かなり細密な調査を行います。雨漏りの原因は単純なものではなく、徹底して調査をしないと判明しないそうです。
つまり、お金を払ってでも原因を突き止めてほしい人をターゲットにしているのです。業界から見たらこんな非常識なやり方はありません。けれど他には追随できない独自化で、順調にこの事業を展開しています。
④従来では儲かりそうにない事業に挑む
「俺の株式会社」が展開するのは、腕利きのシェフが作るフレンチやイタリアン等の立ち食い店です。立席にすることで収容人数を高めると同時に回転を速めて低価格を実現。高級料理がリーズナブルな価格で食べられるというコンセプトは、既存の高級料理店は介入できません。ただ、どんどん店を増やしていますから、料理人の確保の問題が出てくるでしょうね。そうなると成長ではなく膨張になります。しかも資金力のあるところが追随してくるかもしれません。冒頭のA領域になれば、新たな舵取りが必要になってくるでしょう。
⑤手間のかかる対応をきっちりする
美容室で使うノンシリコンのオリジナルシャンプーですが、OEM(相手先のブランドを製造)で作るとなると通常のメーカーは3000本以上でないと受けないそうです。ところが名古屋のノースポイントという企業は50本から造ります。わずか50本の製造はとても面倒くさいので、まず大手などのメーカーは参入しないでしょう。ただ、ノンシリコンシャンプーは1本数千円。ですから造る側も面倒くさい分、いい値で受注できるのです。
⑥高度な技術を要する分野に取り組む
東京の岡野工業が開発した痛くない注射針。わずか0.2ミリの高度な金属加工技術は世界屈指のものといいます。当初、この企画を100社以上のメーカーが「できない」と断ったそうで、実現できたのは岡野工業だけでした。市場も小さく、まさに独占ですよね。
こうした事例を組み合わせて取り組んでもいいのです。ドラッカーは、「戦略は組み合わせたほうがいい」と言っています。組み合わせてオリジナル=独自化すればいいのです。

小規模事業で、面倒くさいことで儲けよう
まとめますと、大企業の追随防止策としては、大規模よりも小規模に留めること。広がりだしたら、縮小することです。
一方、同じ中小企業の参入防止・真似の防止策は、ある部分だけは痒い所に手が届くようにする。面倒くさいけれど人の技能・手間をたくさん加えて、機械化させないことです。つまり、中小企業は「手間のかかる面倒くさいことで儲けよう」ということです。
ただ気をつけたいのは、かなりの手間をかけ、他ではやっていないことをやるので、それに見合う料金をもらいましょう。安くすることはありません。下請け根性から抜けだせないところはこうした手間を無料でやってしまうのです。だから儲からない。面倒くさいことに取り組んでいる価値に対する誇りを持ってください。1度値引きをすれば、さらなる値引きを求められます。社長ほど値引きをするものです。下請けではなく、パートナーシップという意識で臨みたいものです。
【2016年11月号】実力を100%出せる認知科学的なイメージトレーニング法
人前であがらない方法はないのだろうか? と思ったことが誰しもあるはず。本番でも実力が出せるという認知科学を活かした今、注目のトレーニング法で指導する山本教夫氏にうかがった。
人工知能の開発分野でもある認知科学を活かしたメソッド
絶対に失敗したくないときに、緊張することなくいつも通り、練習通りの力が出せたらどんなに良い結果が得られるだろうと、誰しも考えたことがあるでしょう。
その解決法のひとつが、認知科学を基にした目標達成メソッドであり、大脳生理学による脳の中で起きている現象と、認知科学の観点からアウェーでもホームのように振る舞えるイメージトレーニング法なのです。
認知科学とは、「心はどのように働くのか」といったように、人間の知覚・記憶・思考・推理などの高度な情報処理機構の解明やコンピューターでこれらの機能を実現する総合科学。例えば、人の心を機械が理解できるようにして人工知能を作ったりする分野です。
以前の心理学などでは心の仕組みの中身はわかりようのないブラック・ボックス(以下B・B)としていました。そのB・Bに、こういう入力(刺激)をすれば、こういう出力(反応)がでる。入口と出口ばかりのデータをとっていたのです。
そのB・Bをしっかり研究していこう、数式化していこうというのが認知科学といえます。今回ご提案するプレゼンテーション(以下プレゼン)であがらないイメージトレーニングは、そうした認知科学の考え方を基にした、どなたでも簡単に取り組めるものです。
アウェーで緊張するのは誰もが本能として持っていること
さて、そもそもなぜ人は、人前に出るとあがるのでしょうか。そこからお話していきましょう。
サッカーの試合でよく使う「ホーム&アウェー」という言葉があります。ホームでは落ち着いて実力を発揮できますが、アウェーでは緊張して思うように働けないということがよくあります。そのことは大昔、狩猟時代にまで遡って、人間の本能に組み込まれてきたことなのです。
狩りに出掛けるときは身体能力を上げなければうまく狩りはできません。いわゆる興奮物質のアドレナリンなどをたくさん出して、視覚を集中させて獲物を見つけ、薮の中から動く音を聞き分ける聴力を研ぎすませる。五感の感度を上げなければ、普段より身体能力を上げて走ったり、打ったり、投げたりできません。
つまり、ホームから、狩りのためにアウェーのフィールドに出れば、五感を鋭くさせるために緊張することは、人の本能に備わっていること。普段と違うところに行けば緊張する。これはごく当たり前のことなのです。

イメージトレーニング①
プレゼンする相手は予定より多く想定する
こうして見てくると緊張というのは、元々生命維持のためのものであって、何も悪いことではありません。それをうまく活かすのが、これからお話するイメージトレーニングなのです。
得意先でプレゼンをするという場合を想定して見ていきましょう。人前で話す時、緊張するかしないかの境目は、「人数」である場合が多いようです。昔は「人と思うな、カボチャだと思え」と言われたりしましたがそんなのは無理な話です。
もし相手が10人ぐらいだというのが分かっていれば、イメージトレーニングとしては30人、40人もいると想定してみましょう。イメージトレーニングはハードルを高くしておくのがポイント。すると、本番では「なんだ、10人しかいないのか。思っていたより少ないから気楽に話せるな」と思えるようにするわけです。
イメージトレーニング②
プレゼン場所を実際に見ておく
先ほど話しました、緊張させる心のB・Bが何でできているかといえば、それはこれまで見聞きして経験した事が溶け合っているというか、絡まり合ったものでできているのです。それが今のあなたの心のB・Bといえます。
そこへ、今まで会ったこともない人の前で、経験した事のないたくさんの人数の前で、プレゼンをやるというのは、そのことに対応できる経験値を持ってないわけですから、あがって当たり前。完全にアウェーです。
ならば、そのB・B内を書き換えればいいのです。B・Bは経験でできていますから、例えば、プレゼンの場所がわかっていれば、可能なら実際にその場所に出向き、見ておくのです。それが一つの経験となってあなたのB・Bに組み込まれます。
イメージトレーニング③
セミナーやミーティングで雰囲気をつかむ
会議室のような場所で行われる数十人程度のセミナーやイベントがあれば、参加してみましょう。どういう雰囲気があるのかを五感で感じ取るのです。部屋の大きさ、明るさ、マイクの響き具合、窓の配置、人の雰囲気といった経験の材料を仕入れるのです。
また、自社の朝礼や会議などでたくさんの人が集まる機会でも構いません。ほんの数秒でいいので、前に出てその場にいるみんなの顔を見ておきます。
先のセミナーならわざと少し遅れて、壇上近くのドアから入ってみてください。一斉にあなたを見るかもしれません。でもそれが、数秒のことでも「人前に出る」という経験の材料になります。
つまり、五感でリアルに感じたことをイメージで再現できる材料をなるべくたくさん仕入れましょう。材料があればそれだけイメージしやすくなります。

イメージトレーニング④
朝起きたところからイメージをスタート
イメージトレーニングを行うには、集中できて、なおかつリラックスできるような場所が望ましいです。ソファやイスなど、ゆったりと腰をかけて、身体がリラックスできる姿勢を作ります。
軽く目を閉じます。そして、朝起きたところからイメージしてみましょう。顔を洗い、美味しい朝食を食べ、勝負服を着て、元気よく出勤します。そして取引先へうかがい、会議室に通されます。そこにはたくさんの人が座っていて、あなたは颯爽と壇上に立ち、考えてきた企画の素晴らしさを淀みなく説明するのです。聴衆の誰もがあなたに関心の目を向けています。想定する質問にも的確に答え、あなたは大きな手応えを得て、壇上を降りていくのです。
こうしたイメージトレーニングを繰り返すことで、B・Bが変わってきます。B・Bを構成する大きな要素の一つが「無意識」と呼ぶ領域なのですが、実は騙されやすいという面もあります。リアルなイメージトレーニングを何度も何度も繰り返すと、実際にそうしてきたんだと勘違いしてしまうのです。イメージトレーニングというのはその勘違いを利用するという側面もあります。
イメージトレーニング⑤
イメージする絵に自分の姿があってはダメ
男女の違いは、これは私の主観ですが、男性のほうがあがりやすいでしょうね。
最初に言いましたように、男性はホームから外へ出て狩りをしに行きましたが、女性はずっとホームにいます。女性は狩りのためにアドレナリンを出す必要がないので、緊張することがあまりなかったでしょうね。
ここで一つ注意点があります。イメージする絵の中にあなた自身がいてはだめです。あなたが壇上でプレゼンしている姿を思い浮かべてはいけません。実際のあなたは鏡でも見ないかぎり、自分の姿は見えませんよね。壇上で話すあなたに見えているのは、あなたのことを見ているたくさんのクライアントたちの顔のはずです。
フィギアスケートで3回転ジャンプのイメージトレーニングでも、自分が回転している姿をイメージするのではなく、自分を中心に周りの景色が回転している絵となるはずです。
ですから、会議室で後ろから見ている光景をイメージするのではなく、壇上から人の顔を見ているという絵にしなければイメージトレーニングになりません。
実際のプレゼンで…①
楽しそうに聞いてくれる人を探す
とはいえ、実際のプレゼンとなると、あんなにイメージトレーニングしてきたのに、現場で予想外のことがあって一気に緊張のスイッチが入ってしまう。当然、そういうこともあるでしょう。
そういうときはよくやってしまうのが、つい面白くなさそうにしている人を見てしまうことです。そうなると意識はその人のことばかりが気になって、「私のプレゼンはつまらないんだ」とネガティブな感情が起こり、あがってしまって、実力が出せないことになってしまいます。
そういう場合は、楽しそうにしている人、聞いてくれそうな人、よく頷いてくれている人を探すのです。そして、意識してその人に向けてプレゼンするといいでしょう。肯定的な雰囲気の中に自分を置くと気分は安らぎ、元気も出てきます。
実際のプレゼンで…②
目的を明確にし、熱意で臨む
そもそもですが、大切なのは、なんのためのプレゼンか、ということです。プレゼンの目的をしっかりととらえておくことが大切です。やらされている感があってはうまくいきません。
何を伝えたいのか。私はこの商品やサービスのこういうところに惚れ込み、これを最大限に活かす素晴らしいアイデアを考えてきた。このアイデアは御社にとって必ず利益をもたらす、という熱意を伝えること。それがプレゼンではなによりも必要となってきます。
目的に向かう熱意がないと、いくら材料を仕入れてきてもうまくいきません。あくまでもプレゼンは目的に近づくための手段の一つ。熱意があれば、プレゼンそのものも変わってきます。イメージトレーニングも熱意があればよりうまくいくでしょう。

