【2016年7・8月合併号】 仕事のデキる人間は、 デキる理由から考える

【経営者編】

ビジネスの現場では日々、「デキるか、デキないか」の選択に迫られます。
「デキる」人はどんな理由や考え方、発想で取り組んでいるのでしょうか。
事例を通して経営コンサルタントの大庭真一郎氏にうかがいました。

 
 
経験が邪魔をする「デキない理由」

実際のビジネスの現場では、「デキる」よりも「デキない」と考える人が多いように思えます。
デキない理由を並べ立てて前に進めない状況を作り上げ、自分の可能性に「デキない」枠を自分ではめてしまうのです。
これはどう考えても損をしているとしか思えません。
 
「デキない理由」から損な結果を生じさせてしまうメカニズムとしては、人は経験を積むことで知恵やノウハウが蓄積され、同じ過ちを繰り返さない、リスクを回避する術を身に付けるのですが、無意識のうちに変化に対して守りに入ろうとする気持ちが生まれてしまうことで「やっぱり止めておくか」と考えるようになるのです。
 
そのような時、人は経験により得た知識をフル回転させて、いくつものデキない理由を思い浮かびあがらせます。
取り組んだ先に待ち構えている「難」がいろいろと見えてしまう気がするんですね。
そうなると確実に損をします。

なぜなら、変化の先にある成功を自分のものにする可能性をゼロにしてしまっているからです。
 
 
周囲に対しても損をさせてしまう

変化を望まない人がいると、周囲に対しても損をさせてしまいます。
誰かが新しいことにチャレンジしようと口にしたときに、デキない理由を並べて、変化のない方向へ引っ張ろうとするからです。

どのようなやり方で挑戦していくのかを決めるための会議が、いつの間にかデキない理由を拾っていく会議に変化してしまう。
そんな会議を繰り返していると、会社や組織は環境変化の波にのまれて衰退の道をたどっていくことになりかねません。
 
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デキる理由から考える人の発想「五段階思考法」

コンサルティングを通じていろんな方と出会ってきましたが、「デキる理由」から考える人は、共通して左のような思考回路を持っていることに気付きました。
 
❶デキたときの姿、成功イメージを思い浮かべている

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべている

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えている

❹考え付いたプロセスの実現性を検証している

❺実現性のあるプロセスをプラン化している
 
 
私はこれを「五段階思考法」と名付けています。
取り組んだ事がうまくいかなかった企業に、この思考法で再チャレンジしてもらい、見事成功した事例を紹介しましょう。
 
 

事例テーマ❶
 
取引先からの無理な要求に対応することができるか

部品製造会社のD社長。売上の30%を占めるA社が値下げを要求してきました。
 
〔デキない理由から出発したD社長の思考〕

・A社以外との取引で売上の30%をカバーする見込みは立たない。
・そのことをわかっているA社は強気な態度で出てくるはずだ。
・A社の責任者は妥協しない人だから押し通すだろう。
・要求は拒めない。
 
〔デキない理由で取り組んだ結果〕

・メーンバンクに融資をしてもらい運転資金を確保したが、経営の立て直しは思ったようには進まなかった。
・メーンバンクに再融資を断られ、リストラを断行せざるを得なくなった。
 
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて再チャレンジしたD社長の思考〕

❶デキたときの姿を思い浮かべてみる

・長年取引が続いているということは、A社が自社の部品に信頼を置いていることは明らか。
・A社にとっても、いまさら他社の部品にシフトすることはリスクがあるはずだ。
・WIN―WINの関係が実現するような提案を行えば、値下げを撤回してくれるかもしれない。

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる

・値下げ要求を口にした責任者のメンツにも配慮したうえで、双方の取引関係を強化することに関して合意を結んだという形で話をまとめるのがよいのではないだろうか。

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる

こちら側の考えをまとめた提案書を早急に作成し、責任者に対して意見する場を作ろう。

❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる

・双方で情報を共有し合い、受注の時期や数量を盛り込んだ生産計画の精度を高めることで、納期の短縮と在庫コストの削減、生産ロスの低減という面でWIN―WINの関係になれる実現性があるので はないだろうか。
・自社の技術力を高めることで、A社が作る完成品の性能が高まり、A社の市場競争力が強化され、A社からの部品発注量が増加し、自社の売上も増 すという形でWIN―WINの関係になれる実現性があるのではないだろうか。

❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる

・双方の情報共有化や自社の技術開発に関する実施計画を立ててみた。
 
〔デキる理由から考えて再チャレンジした結果〕

・A社の責任者が、提案に賛同。正式に値下げを撤回した。
 
 
◎ポイント

取引先からの要求に対して、断ると取引を打ち切られることが怖くて、深く考えることなく無条件に要求をのんでしまいがちになる。
・不利な要求は収益の減少に直結するため、経営者は、全知全能を注いで、要求を拒むことがデキる理由を考えつくす必要がある。

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幹部社員と「想い」を一つにすることができるか
IT会社のF社長。幹部社員が経営感覚を持ち、率先して行動してほしいのですが、その「想い」がなかなか伝わりません。
 

〔デキない理由から考えてしまったF社長の思考〕

・幹部社員といえども、しょせんは雇われの身であり、会社の存在が自分の人生そのものだという感覚などあるはずもない。
・自分が抱えている悩みや感じている想いは、同じように会社のトップにいる人間にしかわからないだろう。
・想いを一つにすることはあきらめて、彼らの尻を叩き続けることにしよう。
 
〔デキない理由で取り組んだ結果〕

・会議の場でも、社長が一方的に檄を飛ばすだけで、幹部社員たちはほとんど発言しない状態になった。
・会社がジリ貧状態に陥った。
 
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて取り組んだF社長の思考〕

❶デキたときの姿を思い浮かべてみる

・自分の想いを伝えるだけでなく、彼らの想いにも耳を傾ければ、想いを一つにできるのではないだろうか。
・互いに語り合うことで想いを一つにできるイメージが湧いてきた。

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる

・彼らの想いに耳を傾け、共感できることを口にして、互いの距離を詰めていけばよいのではないだろうか。
・そうすることで、彼らも自分の言葉に耳を傾け、やがて互いの想いが一つになり、会社をどう立て直すのかについて建設的な議論が行えるようになるのではないだろうか。

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる

そのような状況を実現するためには、自分と彼らが一堂に会して本音で語り合う場を作る必要がある。
・彼らにお願いして、金曜日の業務終了後に、どこかのホテルで一晩語りつくしてみよう。

❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる

そうしたうえで彼らに会社を再生させるための事 業計画を作らせて、その後自分も加わって何をどのように進めていけばよいのかを明らかにしていけば、彼らも行動に移すのではないだろうか。
・計画書の雛形を与えて全員で協力して中身を考えてみてくれと言えば、事業計画を作った経験のない彼らでもやれるのではないだろうか。

❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる

彼らと事業計画を作り上げるまでのプロセスを明らかにした行動計画を立ててみた。
 
〔デキる理由から考えて取り組んだ結果〕

・幹部社員たちが、経営的な視点で率先して行動してくれるようになった。
・F社長が、会社を再生することについて確信を持てるようになった。
 
◎ポイント

社長と幹部社員が想いを一つにできれば、社長の立てた方針が即行動に移せる強い会社になるが、現実は、情熱や価値観の違いなどから想いを一つにできずにいる会社が多い。
・この状況を打開するためには、社長自らが想いを一つにデキる理由を考えたうえで、根気よく幹部社員に働きかけるしかない。

新卒者を採用することができるか

建設会社のE社長。総務部長から中小企業向けの新卒者採用支援サービスを利用してみないかと提案されました。
 
〔デキない理由を思い浮かべたE社長の思考〕

・うちのような小さな会社に、はたして新卒者が来 てくれるのだろうか。
・今の若い人は安定志向が強いから、賃金が高く福利厚生も充実した大企業に行きたがるのは当然だ。
・興味を持つ学生がいたとしても、親が反対をするのではないだろうか。
・採用支援サービスの利用料金は、失敗した場合に簡単に諦めがつく金額ではない。
・利用するのは、時期尚早だ。
 
〔デキない理由で何もしなかった結果〕

・後日、同規模の会社でサービスを利用して新卒者の採用に成功したことを知り、後悔の念が広がった。
 
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて利用に踏み切ったE社長の思考〕

❶デキたときの姿を思い浮かべてみる

・専用サイト上に紹介されたサービスを利用した中小企業が新卒者の採用に成功した事例を見てみよう。
・新卒者を採用できそうだというイメージが湧いてきた。

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる

成功事例に共通しているのは、学生の目線で自社の魅力をアピールしていることと企業側から積極的にコミュニケーションを取っていることだ。
・大企業に勤務していては得られない魅力を学生の目線で伝えることができれば、新卒者を採用できそうだ。

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる

・サービスツールを使って、こまめに学生とコミュニケーションを取り、自社の魅力を発信し続けていけばよいのではないか。

❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる

・若い社員たちに協力してもらえば、ツールの媒体で あるWEBやSNSを上手に使いこなせるし、自社の魅力を伝えることに関しても、実際に彼らが魅力だと感じていることを発信すれば、学生たちにも伝わるはずだ。

・若い社員たちを参加させることにより、彼らに責 任感が芽生え、実際に新卒者が入社してきたときの世話もきちんと見てくれるようになるのではないだろうか。

❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる

・総務部長に相談して、若い社員を巻き込んで、サービスを利用して採用活動を行う構想を練ってみた。
 
〔デキる理由から考えて利用した結果〕

・2人の新卒者採用に成功した。
・社内に活気がみなぎった。

 

【2016年6月号】 これからのインバウンド 戦略とGS世代向け戦略

[事例で見る成長企業への展望]――Part 5   元気な企業は、こんなことをしている!
 
日本の消費をけん引してきたインバウンドとGS世代(ゴールデンシックスティーズ=「黄金の60代」)向けに、元気な企業は次の一手を打って出ている。
そんな企業、3社を紹介しよう。

 

インバウンドで活況の化粧品業界
日本ならではの対応力で海外戦略を練る

いま日本の化粧品メーカーは、毎月販売先から上がってくるデータにくぎ付けになっている。
「とくに東京都心の百貨店やドラッグストアでの売り上げの急伸にびっくりしています。外国人観光客のまとめ買いです。
一人で数万円単位で買ってゆくというケースもあります」
こう話すのはコーセーの長浜清人常務取締役だ。
 
東京銀座のマツモトキヨシ。
特に二階の化粧品売り場に上がるとびっくりする。売る方も買う方も日本人はほとんど見当たらない。ここはどこの国かと一瞬わからなくなるくらいの光景だ。

「中でも最も売れているのが、わが社の『雪肌精(せっきせい)』です。国内では30年前から販売しているロングセラーシリーズで、化粧水の価格が5000円くらいです。アジア各国の百貨店でも販売していますが、とくに漢字3文字のネーミングが受けて中国では人気でした。現地の百貨店で買えば6000円前後しますが、これが円安効果もあって日本のドラッグストアでは3500円くらいで手に入るということで、インバウンドのまとめ買いの対象になっています」(長浜さん)

コーセーとセブンイレブンが共同開発・販売している関連商品「雪肌粋(せっきすい)」は価格が安いこともあって、一人で100個単位で買ってゆく人も多く、空港や都心のセブンイレブンでは売り場に並べるそばから商品が消えてゆく状態だという。
コーセーの場合、化粧品の売り上げ構成は日本国内での販売が85%、そして全体の2%は外国人が日本で買うと推定してきたが、これがこの1、2年で倍増したと長浜さんはみる。

「今後国内の日本人市場が大きく拡大するとは考えにくいので、インバウンド需要はありがたいとは思いますが、こちらが主体的に仕掛けるというものではなく、あくまでも現地国で日常的にブランド価値を高める努力をしておくことが、日本旅行の際の購買意欲に反映されると思います」(長浜さん)
 
コーセーが初めて海外に進出したのは1968年の香港だった。
いまでは25の国と地域に展開している。
早い時期に海外売上比率を全売り上げの~30%程度へ拡大することが当面の目標だ。

「特にアジアでは日本の化粧品は高価格帯ですから、やはり百貨店の店頭で美容部員がカウンセリングをして販売する必要があります。
現地で雇用した美容部員を日本で研修したり、日本人のスタッフが現地を巡回指導するなど『日本のサービス水準』を徹底するように努めています」。
 
長浜さんは、こう説明する。

東京王子にあるコーセー研究所は、販売する商品およそ3000品目すべてに関与している。
「最近は国内だけでなく輸出やインバウンド需要をにらみ、海外の気候や風土に合わせた研究も増えました」。

日本と比べて極度に高温や低温、あるいは乾燥地帯でどんな化粧品が求められるかなど研究テーマが増えているという。
国によって気候や習慣に差があり、ひと口に化粧品と言っても売れ筋が異なる場合もある。
国により重点商品をきめ細かく変えながらも日本商品の品質とカウンセリング力で国境をまたいでゆく戦略が求められている。
国内市場閉塞の中で、日本市場の成長期待は外国人客。こうした動きはもう後戻りはないとみるべきだ。

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爆買いも一段落したアパレル業界
「上質の日本製」でいかに常連客に育てるか

そのインバウンド関連で注目すべき企業がもう一つある。

東京銀座。
行き交う人のかなりの割合が外国人。買い物袋を山ほど抱えている人も少なくない。
高級婦人服メーカー「銀座マギー」はその名のとおり銀座が発祥なだけに、外国人をターゲットにしたインバウンド対策にも先手を打ってきた。

「かなり早い時期から中国人の販売員を雇用し、POPなども中国語を用意してきました。また日本人よりも明るくはっきりした色合いを好むお客様が多いので、それを意識した商品の取り揃えも行っています」

 
本店長の山野直樹さんはこう話す。
本店の外国人売上比率はすでに2割近いという。

「いわゆる爆買いは一段落した感じはありますが、もう外国人のお客様がいらっしゃるのは当たり前の風景です。上海や香港などの女性エグゼクティブの方が年に何回もご来店されます。人前に出るときに着るスーツなどを何着も買って行かれます」(山野さん)

こうしたお客さんは、もともと生地販売からスタートした「銀座マギー」に、品質を求めてやってくるという。
「メイド イン ジャパンですか、と確認する外国人客が多いです。日本製の品質の良さで買い求める感覚は日本人ともはや変わりません」(山野さん)
 
「銀座マギー」はエレガントさを求める上質顧客をターゲットにし、女優や国会議員などにも上得意客が多い。
そうしたグレード感を求めて海を越えて顧客が来るということは、日本のアパレル産業の再生にも大きなヒントを示している。

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三世代住宅や増改築需要に注目
GS世代が納得感を抱くアプローチが鍵

近年インバウンドと車の両輪で消費をけん引してきた「GS世代※」の消費がここにきて低迷気味だ。
退職記念旅行などの需要が一巡、資産は持っているとはいえ年金支給額は現役当時の収入と比べれば相当減るし、後期高齢者年齢も近づいてきて老人ホームなどに入る備えなども気になれば消費は保守的にならざるを得ない。
だいたい歳を取ればそれほど買いたいものもなくなってくる。
 
そうした中で消費税の再引き上げを睨んで今一番注目されるのが、三世代が住む住宅取得や増改築需要だ。
「当社の住宅は床下がないんです」
戸建て住宅メーカー「ユニバーサルホーム」の菅野淳夫マーケティング部次長は、いきなりこう切り出した。
実はここに、同社の付加価値戦略が隠されているという。

 
住宅メーカーのセールスポイントは、いかに他社商品と比べて特徴的か、価格以上のお得感があるかにある。
「これまでの基礎工法と違い、当社では地面と床下の間に砂利を敷き詰めコンクリートで密閉してしまう工法を標準仕様として採用しています。砂利層が振動や騒音を吸収・分散するクッションの役割を果たすうえ、床下浸水もなく、従来のように通気口から湿気が入ったり、シロアリ発生の心配もなくなりました」(菅野さん)

しかし、砂利を敷き詰めるとそれだけコストもかかることにならないか?
「基礎部分を考えると従来工法より2割くらいコストが増えます。また上に建物を建てるためには水平に床面を仕上げる技術力も求められます。しかし地熱床システムは高い評価を受け、商品力は大きく向上しました」(菅野さん)

東日本大震災で津波を受けた地域でも、ユニバーサルホームの住宅が倒壊を免れた事例が多く報告されている。
また近年多発するゲリラ豪雨で床下浸水が各地で報告されているが、密閉して軒下がない住宅ではそうしたリスクは軽減される。

そして「地熱床システム」と呼ぶこの工法のもう一つの特徴は、夏はひんやり、冬は暖かいという井戸水と同様の効果があることだ。
さらにそのうえ、砂利を敷いたあと鉄筋を施工する段階で1階全体に温水パイプを張り巡らせて床暖房も標準装備している。

「オプションで床暖房装置を作るのではありませんから費用負担も少なく、しかも部屋だけでなくトイレや洗面所など1階部分すべてが対象となります。急な温度変化は高齢者の身体に負担をかけることになりますから、『GS世代』同居の住宅として大きな優位性をアピールできます」
菅野さんは、こう強調した。

 
見かけ上の価格競争ではなく、いかに商品の価値を高め、この品質でこの価格ならば割安感があります、と訴えてゆく。
一生の買い物だけに、安全性と快適性も重要な購買条件になることは言うまでもない。
今後日本の消費力は、「GS世代」が後期高齢者に向かうために一気に落ちてゆく。
そうした中でシルバー層にどう納得いく商品提案を行うかが、企業戦略の大きなカギになる。
またインバウンド向けには「日本人の暮らし」をどう商品提案するかという発想も忘れてはならない。

※GS世代/ゴールデンシックスティーズ=「黄金の60代」

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【2016年5月号】 女性が活躍できる企業になるための条件 Part2

4月、「女性活躍推進法」が施行されたこともあり、Part1では女性の活躍を推進していくうえで経営者に求められることをまとめた。
Part2の今回は現場で、実際に女性たちを管理・指導するリーダーとしての心構えをワーク・ライフバランスコンサルタントの二瓶美紀子氏に伺った。

 

男性リーダーに求められる女性活用のマネジメントポイント
 

女性とのコミュニケーションにおける男性リーダーに多い「誤解」とは

男性リーダー(管理職者)から「女性の部下とうまくコミュニケーションがとれない」「どこまで踏み込んでいいのかわからない」という相談をよく受けます。特に結婚・出産となると、どのように配慮すればいいのかわからないようです。わからないから、本人のためを思って配慮しているつもりが、配慮し過ぎて逆に女性の成長を阻んでしまうことも起こっています。
 その根底には女性に対して抱く「誤解」によるものが多いようです。その「誤解」とは?

 

女性は結婚・出産のタイミングでモチベーションダウンするのでは!?

女性は結婚や出産をするとモチベーションが下がると思い込む男性リーダーは多いようです。実際はそんなことはなく、下がっているように見えるとしたら、それは模範となるロールモデルがいないからです。
 入社3〜5年で社内を見回すと、結婚・出産した女性のキャリアが横ばいになっている現実を知ってしまうのです。
出産後、短い勤務時間でも成果をあげ、それをきちんと評価してもらえるとわかれば、モチベーションダウンすることはありません。

 

女性は管理職になりたくないのでは!?

管理職というと、遅くまで働いて、残業代はつかず、すべての責任を負わされ、家庭は崩壊しているというイメージを持ってしまっています。女性が管理職になりたくないというのは、今、自分の目の前にいる管理職者のようにはなりたくないと言っているだけで、上昇志向がないわけではないのです。ですから後ほど述べる「新しいリーダー(管理職)像」を伝えていくことが重要です。

 

女性特有の「詐欺師症候群」

男性リーダーは、女性特有の「詐欺師症候群」についてもぜひ知っておいてください。
 これはフェイスブックCEOのシェリル・サンドバーグ氏も著書の中で書いていますが、女性の中にはほめられても「自分はそんな評価をされるような人間ではない」と思い、「自分は周囲に対して詐欺行為を働いているのではないか」と罪悪感を覚える人がいます。
十分な実力がありながら理由もなく自信を持てずに悩む症状で、そのうち化けの皮が剥がれると思い込むのだそうです。
 すると、大きな仕事に自分から手を挙げることができなかったり、自信がなさそうに見えるので、上司の側からも大きな仕事を任せられないことにもなります。
女性に多いこのような特質を理解しておき、「私なんかとてもそんなことは」と言う女性には「詐欺師症候群」のことを教えてあげてください。女性自身は今まで気付かなかったでしょうが、そのことを知るだけで行動を変えていくきっかけになります。

 

女性には賞賛ではなく、承認するほめ方が有効

「詐欺師症候群」に陥っている女性には、「ほめる」ことで自信をつけさせることが大切ですが、ほめ方にも注意が必要です。
「ほめる」には2種類あります。

「新しいことにチャレンジしてすばらしい」
「あなたの意見は的確でいいね」

 これらは話している人の主観が入っている「賞賛」のほめ方です。自分に自信のない人がこう言われても「そんなことはないのに」と思って素直に受け取れないことが多いのです。
これに対して、客観的な事実を認めて伝えてあげるのが「承認」のほめ方です。

「○○にチャレンジしているんだね」
「この議論に欠かせない視点だね」

 こう言うと、言われたほうも事実なので受け止めやすいのです。「そうか、私は○○が出来ていたんだ」という気付きになり、さらにモチベーションをあげて仕事に取り組むようになります。

 

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普段からよく観察し、「変化」を感じ取ること

ただ、この「承認」はすぐにできるかというと結構難しく、普段からよく観察していないとなかなか言葉が出てこないものです。 
 特に「変化」を観察することが大切です。過去と比べて現在はどのように変わったのか。以前はこうだったけど、今はこのように変わったと伝えます。事実の変化を伝えると、「私のことをよく見てくれているんだ」と信頼感も増すことでしょう。

 具体的には、次のような点で観察することが大切です。
 ■何に困っているのか
 ■得意分野、苦手分野は何か
  ■どんな性格・特性を持っているのか
 ■仕事の進め方の特徴は何か
 ■何にやりがいを感じているのか
 ■チームの場合、メンバー同士が深いつながりを持っ ているのか
 ■何に不満を持っているか
 ■仕事に追われていないか

 これらの中でも、部下の得意分野・苦手分野を把握していれば、各々の能力を最大限に活かせるのではないでしょうか。
また、部下に新しい仕事を任せるときは、その人の過去の成功体験を知っていれば、そこに結びつけて伝えると、本人もチャレンジしやすくなります。
 また、「どんな性格か」をつかんでいれば、部下との接し方もスムーズにいくはず。ほめれば突き進むタイプなのか、「こういう課題があるね」と問題提起をしてあげるとそれに一生懸命取り組むタイプなのか。
〝飲みニケーション〟だけでなく、普段から「意識して観察する」ことを心がけて、時には「面談」という形でそれを伝えてあげると良いでしょう。

 

男性リーダーとしての評価も上げる実践プログラム

ここまで見てきたように、女性への「誤解」の認識、観察や接し方は、女性の活躍を推進していく大切なマネジメントポイントです。
また、リーダーに求められるのは、自分のチームを成長させ、メンバーの中から次代のリーダーを育てていくことです。
それを段階的に取り組む実践プログラムをご紹介しましょう。

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 STEP❶ 現状を把握する

 部下の強みや現状を把握するために個人カルテ(表①参照)を作成します。どれだけ部下のことがわかっているのかをみるのです。
まずは、自分でできる限り書き込んでみましょう。意外と部下のことを知らなかったなと思われるのではないでしょうか。
その後、それを部下と一緒に確認してみるのです。おそらくかなりの認識のギャップがあるはず。
そのギャップをしっかりと見つめることが現状の把握になります。
 そして次は、部下の具体的なスキルを知るためのスキルマップ(表②参照)を作成してみましょう。
業務に必要なスキルを全て書き出します。
次にそれぞれのスキルについて、人に教えることができる◎、誰かに聞きながらならできる○、まったくできない×という3つのレベルに分けて各自の評価を書き込みます。
 このスキルマップはリーダーが主体となってチーム全員で作成するほうが良いでしょう。
スキルは具体化しないと何を伸ばして良いのかわかりません。スキルマップを作ることによって、メンバー1人ひとりが今必要としているスキルがわかり、メンバーの成長を促進します。また、メンバー同士でのスキルを共有・継承していく仕組みにもなります。

 

 STEP❷ 将来像を共有する

長期的な視点でワーク面とライフ面の部下のなりたい姿を知ることです。現在、6カ月後、1年後、3年後、5年後までのキャリアプランを考えてみましょう。
 特に育休に入る女性はその前に面談しておきたいもの。育休に入る前の女性は、1年後に復帰したときのことがなかなか想像できずに、育休をキャリア上のマイナスと考えてしまいがちです。長期的なキャリアプランを一緒に考えることによって、育休をブランクと考えるのではなく、なりたい自分へのブラッシュアップ期間と考えることができるようになります。
 また、モチベーションが落ちている部下、私生活の時間に自己研鑽できていない部下、目の前のことで精一杯になっているような部下にも有効です。

 

 STEP❸ 成功体験を積ませる

STEP2で将来像を描きましたが、それを実現するには職場にはどんな課題があるのか。その課題を解決するために、私たちが提案しているのが働き方を見直していくための「カエル会議」です。もう少し具体的に言いますと、

 ■育児・介護などを抱えた社員も実力を発揮でき る環境づくり
 ■決められた時間内で最大の成果を出せる生産性 の高い職場づくり

これらを実現するためにチーム全員が主体的に話し合う会議のことです。
 カエル会議は、こうした職場の課題や不満に対して、周りを巻き込んでリーダーシップを発揮して改善していく成功体験を積ませることが大切な目的です。
 会議というとどうしても男性が仕切ってしまうことが多いので、女性にファシリテーター(議論のまとめ役)を任せていきましょう。
成功体験と同時に、会議での発言・提案の場数を踏んで、ファシリテーターとしての成長を促し、やりがいを感じてもらうのです。
 小さな事でも成功体験を積み、ファシリテーターとしての経験も重ねれば、クライアントにも自信を持ってプレゼンテーションできるようになるでしょう。

 
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 STEP❹ 成長を承認する

成功体験を承認すれば、本人もうれしいですし、新しい仕事にも積極的にチャレンジしていく自信がつきます。また、その女性が次期リーダーに向かって成長していくことは、ロールモデルとして、周りのモチベーションも高めていきます。

 

今、求められる新しいリーダー像とは?

このように見てくると、「今、求められるリーダー像」が浮かび上がってきます。

 ■部下を信頼して任せ、チーム力向上に取り組む。
 ■メンバーの発言に耳を傾け、安易に否定はしない。
 ■育児・介護者のモチベーションを高め、時間内で最 大限の活躍をしてもらう。
 ■部下をよく知る。ワーク&ライフを相談できる関係へ努力・工夫をしている。
 ■メンバーに期待すること・認めていることを日常的に言葉にして伝えている。
 ■チームへの貢献を評価する。

スーパーマンのような「すごいリーダー」ではなく、「このリーダーといると自分が最も成長できる」部下が思えるような人物こそ、目指すべきリーダーの理想像といえます。つまりいあ、求められているのは、部下をぐいぐい引っ張っていくリーダーではなく、部下たちが自主的に動けるように下から支えるフォローするリーダーなのです。
 実は、このリーダー像は、女性のほうが向いているのかもしれません。ぜひあなたの職場の女性にも、このようなリーダー像を伝えて、そんなリーダーとして期待していることを伝えてあげてください。
 女性が活躍するポイントはコミュニケーションです。ぜひ取り組んでみてください。

 

【2016年4月号】 女性が活躍できる企業になるための条件

4月より「女性活躍推進法」が施行される。この法律により、国・地方公共団体および従業員300人以上の企業は、女性を活用するための行動計画書や情報の公表等を行わなければならない。女性の活用は、日本経済の復興だけでなく、少子・高齢化による社会問題等の解決策にもつながるという。その背景や現状を知ることはこれからの企業経営にも大切だと話す、ワーク・ライフバランスコンサルタントの二瓶美紀子氏に伺った。

 

日本の潜在能力は「女性」!女性が働くと子どもが増える!?

少子・高齢化による労働力不足への対応は、日本社会にとっても企業にとっても緊急課題となっています。このため、女性の活躍に期待が高まり、成立したのが、女性活躍推進法です。
少子化による人口減少で労働力不足を解決するためには、出生率を向上させることが真っ先に思い浮かぶと思います。古くから日本社会には、女性が社会進出をしたから出生率が低下したという誤解があり、政府は配偶者控除など、性的役割分業を助長する政策を進めてきました。
ところが、実際はその逆だったのです。グラフ①「女性(25~34歳)の労働力率と出生率の国際比較」を見ても、女性の労働力率が上がるほど出生率も上がっています。フランスや北欧で出生率が近年上がっているのは、女性の就業率が高いからだということはよく知られています。
今の日本では、30代男性一人の収入では子ども1.3人分の養育費しか賄えないというデータがあり、女性の就業率が低いと、経済的理由で2人目の出産をひかえてしまう現状があります。夫一人が働いて家族を養う「片働きモデル」は経済的に成り立たなくなってきています。
このため、日本政府は女性活用と少子化対策を両輪で進めようとしており、今こそ日本の潜在能力である女性を活かさなければ、日本はこのままどんどん疲弊していってしまいかねません。

 

女性が活躍すれば、日本はGDP16%もアップする!
さらに興味深い統計資料があります。グラフ②をご覧ください。HDI(Human Development Index)というのは人間開発指数※1 を表し、日本は他の先進国と同じレベルにあることがわかります。そしてHDIが高ければ、女性の社会進出の度合いを示すGEM(Gender Empowerment Measure:ジェンダー・エンパワーメント指数)も通常は相関的に高いはずが、日本だけがとても低いのです。
これは日本の女性は高い教育を受けているのに社会に参画していない、活かされていないことを表しています。仕事か育児かの二者択一を迫られてきたのですが、別の視点から見ると、高い能力を持ったグラフ②の赤丸の中の女性こそが、今日本が活用すべき潜在労働力なのです。
ヒラリー・クリントン氏は、日本は女性の労働力率を男性と同程度に引き上げればGDPが16%も上がるという試算を紹介しており、これが、安倍政権が「女性活躍推進」を進める後押しになったともいわれています。
企業にしても、労働力人口が縮小していく中で、これまでのように男性を中心に採用していては優秀な人材が確保できなくなっています。女性の採用を積極的に実施すれば、より優秀な人材が確保できる確率は倍になるのです。
※1 保健、教育、所得という人間開発の3つの側面に関して、その国における平均達成度を測るための指標

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子どもが増えるヨーロッパに見る働き方

経済を「人口」という側面から見ると、いろいろわかってくることがあります。
社会を支える働き手である生産年齢の人口が多く、高齢者が少ない状態を「人口ボーナス期」と言いますが、この人口ボーナス期には社会保障費の負担が少ないため経済成長するのがあたりまえです。ただし、人口ボーナス期は1つの国に1度しか訪れません。社会が豊かになると親は子供の教育に投資するようになり、人件費が上昇し、より人件費の安い他国に仕事が流れていくからです。日本は90年代半ばで終わっており、中国はまもなく終了し、インドは2040年まで続くと試算されています。
逆に働く人よりも支えられる人が多くなる状況は「人口オーナス期」と言い、社会保障費の負担が急増し、経済成長は停滞します。日本は世界でもっとも早くオーナス期に突入してしまいました。それは少子化対策の失敗が要因です。長時間労働を是正できず、待機児童対策に真剣に取り組まなかったからです。
ヨーロッパでは、フランスの週35時間労働や勤務間インターバル規制※2 など、労働時間を規制することで、共働きでも夫婦で子育てできる時間ができます。しかも女性が働くことで経済的なゆとりが生まれて家計は安定。ヨーロッパではこうしたことが功を奏して出生率が上がっているのです。
※2 前日の終業から翌日の始業まで一定の休息時間を設ける規制で、例えば、EUでは原則11時間のインターバル規制がある。

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今の学生は、仕事と生活が両立できる企業を望んでいる

女性活躍を推進することは、今、企業にとっても大きなメリットがあります。
日本では、2008年のリーマンショックが団塊世代の一斉退職と重なり、多くの企業が新卒の採用を抑えることで社員を減らしてきました。ところが、業績が回復し優秀な若い人材を確保したいと計画しても、今や新卒は売り手市場。中小企業では募集しても応募がない場合もあります。しかも学生は、終身雇用が常識だった頃の就職観とは違い、1つの会社で一生働くとは考えておらず、仕事だけでなく生活も充実させられる企業に人気が集中しています。今、学生が企業を選ぶ視点で6年連続1位になっているのは「仕事と生活を両立できる企業かどうか」なのです。
「女性活躍推進法」に先駆けること10年前に「次世代育成支援対策推進法」が制定されています。この法律により、仕事と子育ての両立を図る職場環境があると認められた企業は厚生労働省から「くるみんマーク」がもらえます。就活する学生たちは、今、このくるみんマークのある企業にかなり注視しており、今後、優秀な人材を確保したければ、「女性活躍推進法」で認定マークを持っていることが、必須事項になることは間違いないでしょう。
つまり、女性が働きやすく、女性が活躍できる「ワーク・ライフ・バランス」が整っていない企業は、男性も含め優秀な人材を確保できない状況になっていることを企業のトップは知っておかなければなりません。

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女性が活躍できない職場とは?

①長時間労働
長時間残業が恒常化すると何が起きるかというと、例えば重要な会議が夜8時から開かれたりします。すると子育てをする女性社員は参加できずに、重要な意思決定に参画できなくなります。
他にも、出張、転勤、残業が出世の条件となって、それを断る女性は評価されないということが女性活躍の障害になっているケースがあります。長時間残業を前提とする働き方そのものが是正されなければ、女性の活用は難しいのです。
「マネージメントの意識」とは、どのように人を評価するかということです。これまでは、短い時間内に効率よく生産性を上げている人よりも、だらだらと働いて遅くまで残業して成果を出している人を評価してしまうことがよくあったと思われます。
成果主義にしても、期間あたりの仕事を質と量の掛け合わせで評価していると、残業をたくさんしている人が評価されて、時短の女性は評価されませんでした。一定時間内にどれだけ生産性の高い仕事をしたかが評価されれば、時短勤務の女性もモチベーションを高くして働き続けることができます。
マネージメントの意識を変えるには、まずは評価制度の見直しです。本来の成果主義である「時間当たりの生産性」を評価すること。遅くまで働いたことを「がんばったね」と評価するのではなく、仕事そのもの、時間当たりの成果を評価すれば、女性も働きやすくなります。

②ロールモデルの不在
さらに、女性が活躍できない職場の特徴を挙げると、それはロールモデル(模範・手本)の不在です。例えば入社10年の女性先輩社員というと、出産後も残ってはいるもののあまり評価されずに割り切って働いている女性と、結婚も子どもも諦めてなんとか頑張っている管理職の女性、という女性像をイメージしてしまいがちです。
きちんと家庭を持ちながら仕事でも活躍しているロールモデルがいれば、仕事の壁にぶつかったときでも、成長した後の将来像を心に描いて頑張れるもの。
政府は2020年までに女性管理職を30%にする目標がありますが、企業もこのロールモデルが育つように、女性社員の育成を意識して、若いうちから長期的キャリアを考えられるような支援することが重要です。

 

 

女性が活躍できるよう、企業として取り組みたいこと

消費者の嗜好はますます多様化していて、消費行動の中心には女性がいます。果たして商品やサービスを提供する側が男性ばかりで本当に大丈夫なのでしょうか。
ここで重要なのは、女性が社内にいるだけではダメで、意思決定層に複数の女性がいることです。男性が居並ぶ会議に一人だけ女性を加えても、本当の意味での経営参画には至りません。
女性の活躍がめざましい企業では、管理職に昇格する女性が複数になった時点で一気に彼女たちを幹部に登用し、経営会議に参加してもらうなどの工夫をしています。女性の活躍は経営戦略の一環だと考える企業は、今、とても伸びています。
これをダイバーシティ&インクルージョン(Diversity&Inclusion)と言います。ダイバーシティだけではただ多様な人たちがいるだけです。その多様な人たちそれぞれが自分の持ち味を発揮し、きちんと組織に貢献し成果を出せる戦略がダイバーシティ&インクルージョンです。
最後に、経営戦略として女性活躍を推進していく企業のトップとして、今、取り組まなければならないことをまとめます。
■長時間労働の是正/短時間で生産性を上げる仕組みづくり、時間当たりの生産性を正当に評価する仕組みづくりをすること。
■女子学生に選ばれるブランディング/くるみんマーク、女性活躍推進法の認定を受けること。
■社内ロールモデルの構築/複数の女性を幹部に登用してみること。若い女性が「あの人を目指して頑張ってみよう」と思える先輩女性社員を育てること。
女性活躍推進法の施行を一つのきっかけとして、本当に女性が活躍できる組織作りにぜひ取り組んでいただきたいです。

 

【2016年3月号】 できるビジネスマンはここが違う!「すぐできる」脳にする10の習慣

部下のやる気は、上司のちょっとした言葉に左右されるものです。
そこで今回はどういう言い方をすれば、
部下は気持ち良く行動できるように変わるのでしょうか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。

 

事務女性に「お茶出し」を頼むとき

 来客時に事務女性にお茶を頼むことは日常茶飯事のことと思います。
 「小林さん、A会議室のお客さんにお茶を出しておいて」なんて言ってないでしょうか。こう言うのは部下を駒のように思っているのかもしれません。上司と部下は上下関係ではなく、役割が違うだけ。そこを勘違いしていると、部下はそのうち、やる気がなくなり、最低限の仕事をこなしていればいいやと、質の低い仕事しかしなくなります。「私だって忙しいのに……」なのです。
 「お茶出し」は雑務ではありません。大事な商談なら、好印象を与える大切な機会にもなり、今でもそうした対応にうるさい人はいるものです。
「小林さん。大切な商談なので、小林さんにお願いしたいんだ」
「小林さん。いつもありがとう。前回の対応が良かったと先方がおっしゃっていたから、小林さんなら安心だ」
 「小林さんだから頼みたいんだ」というのがポイント。そしてお茶出し一つにしてもねぎらいの言葉があれば、本人もやる気を出すこと請け合いです。
 ただここで注意してほしいのは、小林さんばかりに偏らないようにしましょう。私は頼んだ仕事だけでなく、食事や飲み会など、部下ごとの回数を記録しておきました。「なぜ、小林さんばかり」といったジェラシーはチームワークにはよくありません。

 

急ぎの仕事を頼むとき
 急な仕事が入ってきてどうしても部下に頼まなくてはならないこともよくあるでしょう。
 「急ぎの仕事なんだけれど、頼んだぞ」という命令口調的な言い方だと、「なぜ私なんだ?」「空いている人なら誰でもいいのか?」「この仕事を急いでやることにどんな意味があるのだ?」と反発するかもしれません。
 まず模範例を示すとしたら、
「急ぎの仕事が入ってきたんだけれど、時間がないので一緒にやってもらえないかな」
 「一緒にやってほしい」と頼まれると「丸投げ感」「やらされ感」は出ません。逆に上司を「助けている感」が出て、躊躇することなく動いてくれるのではないでしょうか。
 急ぎの理由を明確に伝えるのも大切です。優先してやるにはそれ相当の理由がないと人は動きません。「もし決まれば大きな取引となり、その決定会議が来週にせまっているから」というのであれば、部下も優先して動いてくれるでしょう。「なる早」ではダメです。
 さらにここで重要なのはなぜその人に頼むのか、という理由です。「いいから手伝ってくれ」では、私でなくてもいいのでは? と積極的にはなれません。「君は正確だから」「君の発想力が頼りなんだ」と、相手の自尊心をくすぐるのがポイントです。

 

プロジェクトを特命したいとき

 特定の部下にプロジェクトを任せたいときは、前述の理由のように、なぜ君に任せたいのかを明確に伝える必要があります。
 ただ、プロジェクトとなると仕事としては大きいので、単に自尊心を満たすだけではなく、いろんなアレンジが必要です。いくつかのタイプにわけて考えてみましょう。
■キャリアップ志向の部下
 昇進・昇級を重視するタイプなら、「ポジションが上がる可能性もあり、他の人には任せられない」と言えば、俄然やる気が出てくるはず。
 また、チャレンジ精神旺盛な部下なら「業界初」「難関」といった刺激的な言葉を選んで、まだ誰もやったことのない感を投げかけると元気に取り組んでくれるでしょう。
■リスク回避志向の部下
 安定を求め、リスクを避け、失敗するのは嫌だという部下。このタイプはプロジェクトを受けた後のリスクを考えますので、リスクが小さいことの安心材料を提示してあげましょう。「関連部署への根回しはしてあるから」「以前経験したメンバーにも入ってもらうよう声を掛けてあるから」とか。
 そして、「何かあっても私も責任を負うから」と、部下だけが責任を負うのではないことを伝えて安心感を与えるのです。
■自由志向の部下
 束縛を嫌う部下もいると思います。そういうタイプの場合、自分の裁量でできるかどうかでやる気が変わってきます。ですから、本人が思うように仕事を進められるようにしてあげることがポイントです。ただし、自由にさせてとんでもない方向に行かないよう「これとこのポイントは押さえてくれたら、あとは君の自由な発想でやってほしい」と言えば、張り切ってやってくれることでしょう。

 

成績の悪い部下を変える言葉

 ここまではさまざまな仕事を任せる時のケースを見てきました。次は仕事を任せた後を見てみましょう。
 まずは成績がよくないケースです。
 「やる気あんのか?」「いつになったらよくなるんだ?」はNGです。成績がふるわない時はつい注意してしまいがち。部下も上司に近づきたくありません。成績が悪いときは報連相も途絶えがちなので、部下が相談しやすい雰囲気をつくることが必要です。
 部下と相対したとき、まずは少しでもいいところを探す。つまりなんでもいいので褒めます。
「君はいつも期日どおりに報告書を出すよね」
「君の提案書はわかりやすくていいよ」
「この前、同行したときのことだけど、導入部分は丁寧で良かったよ。後はクロージングだね」
 実はいい部分を探すのって結構大変です。私が指導する研修やセミナーで、部下の欠点をあげてもらうとスラスラ出てくるのですが、長所はというと、なかなか出てきません。部下のことをよく観察して、知ることが大切です。
 そして、前回のことは言わないようにしましょう。成績の悪いのを指摘したりすると、つい前回のことを持ち出して言ってしまいがち。「あのときもそうだった」「この前と同じミスじゃないか。この前は……」と。
 成績が上がらないのは原因があるからで、それを追求することです。「何故」ではなく、「何が」のほうがいいでしょう。「何故」になると自分に原因があると考えてしまい、「何が」だと事柄を追求していくことになるので客観的に原因をつかめます。
上司「お疲れ様。小林君の提案書、わかりやすくてよかったよ」(まずは褒めてリラックスさせる)
部下「ありがとうございます」
上司「さて、来月で今期も終わるけど、数字的には厳しそうだね」(事実を話す)
部下「はい。申し訳ありません」
上司「謝らなくていいんだよ。頑張っているのはわかっているから」(信頼していること、きちんと見ていることを伝える。もしサボっているのならその部下はここで反省するはず)
部下「はい」
上司「営業活動の中で何か困ったことはある?」(成績を責めるのではなく、原因を探ろうとしている)
部下「新規契約がなかなかとれません。訪問はできるようになったのですが、クロージングには至らないんです」
上司「訪問できるようになったんだ。それは良かった。どんなふうに話を進めているのかな? 話の進め方とか提案の仕方を一緒に考えてみようか」(成長を認める)
 まずは褒めて、リラックスさせれば、相談しやすい雰囲気ができます。やみくもに叱っても逆効果。成績の上がらない原因や問題点を見つけて解決を図るのが理想的です。

 

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期日までに仕上げられない部下

 「今朝までに」と頼んでいた仕事が仕上がってない。よくあることだと思います。イライラしてつい「なんで、間に合わないんだ!」とか、「君はいつもだな!この前も遅れたよな。いい加減にしろ!」と怒鳴ってしまう。部下は「すみません」と繰り返すばかり……。その場で否定するのは絶対にNG。必ず遅れた理由があるはずです。
 よく遅れる部下は、往々にしてスタートが悪いようです。月曜日に「今週の金曜日15時には欲しいんだ」と頼んだら、期日の金曜日の朝からやり始めたりします。上司は、任せる仕事がどのくらいの時間で処理できるのか見積もって、時間配分をアドバイスしたり、進捗状況をチェックしたりする必要があるでしょう。
 また、上司が例えば4時間と見積もったけれど、部下はその作成ソフトに慣れてなくて8時間かかることだってあります。さらに別件の仕事を抱えているのかもしれません。
 ではこの場合、どのように話をもっていけばいいのか。好例を紹介しましょう。
部下「まだ、できていません」
上司「遅れている要因は何かな?」(「何」に焦点を置いているので本人への責任追及とは感じさせない)
部下「あれから見積り作成の依頼が2件も入ってきたものですから」
上司「そういうときはすぐに報告してよ。対応を考えるから」(部下の言い分を受け止める)
部下「わかりました。次回からそうします」
上司「では、いつ仕上がりそうかな?まだ他に急ぎの案件はある?」(他に抱えている仕事の確認)
部下「正午までに資料リストの作成が1件あります」
上司「では、明日の正午までで大丈夫かな?この件でわからないこととかあるかな?」(段取りの確認)
部下「はい、大丈夫です。疑問点もありません」

 

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口先ばかりで動かない部下

 意見はいいことを言うけれど、いざ、頼むと尻込みし、引き受けようとしない部下。いわゆる行動が伴わない部下も、やっかいです。「口だけでなく行動してもらわないと困るよ」と言ってしまうと、それは押しつけになり、部下は言い訳をして逃げようとするでしょう。
口先だけの部下には、なんとか行動する大切さを学ばせたいものです。まずは心理的に考えると、おそらく「自信がない」のでしょう。また、その仕事分野が苦手なのか、ミスをおかしたくないのか、責任を負いたくないのだと思われます。
 そんな部下なら、こう言うのはどうでしょうか。「小林君がいい意見を出してくれたので、小林君中心に一緒にやってみようよ」と。この「一緒に」がポイントです。上司も一緒に責任を負ってくれる、フォローしてくれる、と安心感を与えることです。行動の一歩が踏み出せないタイプならなおさらこの「一緒に」と言われると、「やってみよう」と動き出すと思います。
※会話文の例は、吉田幸弘氏著『部下のやる気を引き出す上 司のちょっとした言い回し』(ダイヤモンド社)より抜粋・編 集しています

 

【2016年1・2月号】 できるビジネスマンはここが違う!「すぐできる」脳にする10の習慣

ビジネスの現場は、セオリーどおりにはいかない事の連続です。
予想外の出来事が起きても素早く対応できる、
いわゆる「頭の切り替えが早い」脳にするためには、
普段からどんな習慣を心掛けていればいいのでしょうか。
神経内科の医師であり、テレビや多数の著書でおなじみの
米山公啓医学博士に寄稿いただきました。

 

 私たちの脳はどうも同じことを好むようで、日常を考えても同じ時間に起き、駅のホームの同じ場所に立って、同じ電車に乗っています。しかし、仕事で要求されるのは、オリジナリティであり、大きな変革と素早い判断です。
 となってくれば、日常生活の中で脳の切り替えを早くしたり、いわゆるできる脳にしておくために、努力する必要があります。 

 

①だれよりも新しい物を早く手に入れる

 ネット通販が主流になってきても、限定商品などは、ショップに行かないと手に入らなかったり、実際に並ばないと購入できないこともあります。
 欲しいと思ったとき、それを迷わず買ってしまう習慣と判断力をつけておくことが重要です。お金を支払うというリスクに対して、迷わず行動できることは、自分の判断に自信がないとできないものです。無駄な物だから買うのをためらうとか、実際に物を見てからにしようでは遅いのです。新しい物の情報を手にしたら、その情報だけで購入する判断力は、仕事にきっと役立ちます。
 そのためにも、やはり実際に購入する努力をすべきです。

 

②短い時間の気分転換テクニックを持つ

気分転換テクニックを持つ
 脳はずっと考え続けることはできません。どこかで休ませる必要があります。そのためには、3分でも5分でも短い気分転換を、自分なりの方法を持つことが重要です。
 机から立ち上がり、コーヒーを飲むというのも無意識に行っている気分転換ですし、ちょっとチョコレートを食べるということでもいいでしょう。
 もう少しで終わるから頑張ろうではなく、思い切って休憩を取ることが、脳を常に活性化させておく秘訣です。
同じ刺激には次第に反応しなくなってくるのが脳の基本的な反応です。
 休む時にはできるだけまったく関係のないことを考えたり、行動すべきです。
 席を立って、気分転換できる環境にいないなら、iPadにペン入力で絵を描いてみるなど、右脳的な刺激のほうがいいでしょう。

 

③すぐに目の前の仕事を辞める勇気を持つ

目の前に仕事があれば、これをやらなくては帰れないとか、午後7時から宴会があるのに、あと30分頑張れば終わると言って、結局仲間との宴会に間に合わない、ということになります。
 そういうタイプの人は常に時間に遅れてしまうものです。その時間に遅れるということが、仕事の約束にも出てしまうことがあります。自分の時間コントロールができなければ、脳の切り替えもうまくいかないでしょう。
 そのためにはまず、時間前にさっと仕事を中断できる勇気が必要です。あとからその仕事をしても、最後までやれるという自信が必要です。
 目の前の仕事を中断しても、なんとも思わないということは、自分の仕事能力に自信がある人です。
 最後までやりきらないと落ち着かないでは、脳の切り替えはできません。
 1分前まで仕事に追われていても、1分後には、カラオケで大声で歌える脳の切り替えの素早さこそ、能力のある証拠です。
 いまにこだわらず、先のことを優先できる勇気を持ちましょう。

 

④とにかく歩いてくる

 イライラしたり、仕事がうまくいかない、アイデアが出てこないとき、机の前で悩むのではなく、思い切って外に出て歩いてみましょう。
 歩くことで、実際に記憶力もアップしますし、脳を前向きにする脳内物質であるセロトニンの分泌も高まります。
 仕事に行き詰まったと感じたら、外を歩いてみましょう。脳のリセットにもなりますし、全く別な外の風景を見ている間に、思わぬアイデアが生まれることも多いものです。
 同じ思考回路に陥ってしまえば、そうそういい考えは出てきません。
 迷うことなく、外を10分でもいいので歩いてみましょう。

 

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⑤新幹線の中で読書に集中する

 集中力がもっとあればと思うことが多いかもしれません。しかし、人間の集中力はそうそう持続しないのが普通です。
 スポーツではゾーンに入るという言い方があります。ほとんど無意識で最高のパフォーマンスができる状態です。ビジネスマンであれば、最高に集中している状態と同じでしょう。
 その最高に集中した時間を経験すると、その快感が忘れられなくなり、集中することが楽しくなってくるものです。
 集中するためには、どこか不便で限られた空間がいいのです。それには新幹線のような列車の空間と、移動する2時間はそこから逃れようがないという設定も重要です。
 まったく自由な空間で時間もたっぷりあるという環境では集中力は上がってこないものです。
 新幹線に乗るときは、本でも雑誌でも少し高度な一冊を持って、完全に読み切る努力をしましょう。時間を有効に使えたという喜びと、何かを学んだという気持ちが、集中力の意味を実感できるはずです。時間を忘れてしまった、それこそが集中できた結果です。

 

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⑥持論を語れる相手を持つ

 脳の中で考えていることと、自分が口にすることではまったく意味が違ってきます。言ったことには責任が生じてきますし、他人への影響力を持ってきます。そこが重要です。自分の考えを人に語ることで責任感を感じるようになり、行動にも変化が起こるからです。語ることで、判断の素早さ、結論を出す勇気なども生まれ、素早い思考回路を作れるようになるからです。
 悩んでいるだけでは駄目です。それを誰かに語ることが大切です。そのためには利害関係のない友人がいるかどうかでしょう。

 

⑦迷ったら寝る

 睡眠は脳を休ませるのではなく、脳を非常に活性化します。寝て起きたらいい考えが浮かぶというのは、寝る前の様々な情報の整理を行った結果なのです。
 日中は長く寝るわけにはいかないかもしれませんが、10分でもいいので、ちょっと寝てみましょう。寝ている間に脳内の血流量と脳を刺激する神経栄養因子も増えます。
 バラバラになっていた情報の整理ができて、想像もしていなかった結果を出すかもしれないのです。
 重要なところは、考えながら寝ていくことです。休むのではなく、悩みながら寝ることで起きたときに解決案が思い浮かぶのです。
 決断ができないとき、思い切って寝てしまいましょう。

 

⑧1知って10の結果を予測する

 情報がとにかく多い時代です。ネットで調べればかなりの情報が手に入ります。しかし、情報が多いから素早い判断ができるわけではありません。むしろ情報が多いために、迷いも増えてしまいます。
 少ない情報から、相手を読んだり、直感的な決断をしてしまうということは重要でしょう。直感的な判断はいい加減ではなく、たぶんそれが正しいことが多いのです。それは訓練をされた脳であればあるほど、正しい決断のことが多いものです。
 仕事ができる人は、多くの情報を得なくとも、自分の予測や想像力で正しい判断を下していきます。少ない情報で結論を出す訓練は直感的な判断力をもたらしてくれます。

 

⑨食事は抜かない

 脳のエネルギーは基本的にはブドウ糖だけです。ブドウ糖の元は炭水化物、つまりご飯、麺類、パンなどの主食から、からだの中で作られます。
 ブドウ糖はからだの中に貯蔵しておける量はわずかなので、補充していく必要があります。朝食を抜くことは、やはり脳へのブドウ糖供給が減ることになるので、きちんと朝食を食べるのは、ビジネスマンの基本です。
 もちろん昼食、さらには午後2時か3時のおやつ、夕食なども、時間通りに摂っていきましょう。
 脳へのエネルギー補給は基本中の基本です。

 

⑩瞑想する時間を持つ

 とにかく日中は様々な情報が脳に入ってきて、むしろ判断力を鈍らせてしまいます。もちろん夜寝ることでリセットはできますが、日中でも一度、脳のリセットをする必要があります。 
 できる限り五感を刺激しない状態が大切です。つまり目をつむり、力を抜いて楽に椅子に座って、頭の前に温かい太陽のような丸いものをイメージします。
 そんな時間を5分でもいいので作ってみましょう。リセットされた脳は再び活気を取り戻すはずです。素早い判断能力もよみがえってきます。

 脳を刺激したり、休ませたりする日常での工夫は、慣れてくれば意識しないでできるようになるはずです。そうなれば、素早い判断力が身についた証拠です。

 

【2015年12月号】 中小企業は、 ニッチで差別化! ニッチに多角化!「ドラッカーの ニッチ戦略」

中小企業や零細企業にも生き残り方、戦い方がある――。
ドラッカー理論を活かして、 大企業にも手の出せない
「ニッチ」を考えることだと話す、藤屋伸二さんにうかがいました。

 

ニッチ戦略という発想

 中小企業が、勝ち残っていくには「ニッチ」がキーワードになります。ニッチで差別化を図り、ニッチで黒字化を図るのですが、それには限定的なニッチ市場でNo.1になり、儲かる複数のニッチ事業を持つ多角化が勝ち抜いていく戦略となります。
 戦略を立てるには「細分化」と「位置づけ」を行うこと。つまり、戦う場所を決めるのです。そして何で戦うのか、自分たちのセールスポイント、武器を見定めること。勝てる市場で勝てる武器で戦う。ドラッカーのニッチ戦略は実にシンプルです

 

競合の少ない市場を狙え

 ドラッカーはニッチを「Ecological niche=生態学的ニッチ」だと言っています。つまり棲み分けること。例えばナマケモノという動物。動きは遅く、力もなく弱いですが、木の上なら食べる物もあってしっかりと生きていけます。それと同じです。
 ニッチというと隙間とか、小さく閉じたイメージがありますが、そうではありません。フェラーリ社は、年間7千台造って年商は3千億円。1台当たりの営業利益は5百万円を超えており、ベンツで80万円、トヨタでも20数万円。最近、ニューヨーク市場に上場した際の時価総額は1兆2千億円。年間僅か7千台しか造らないのに。これがニッチなんです。競争しない市場だから儲かるのです。中小企業のお手本といえます。

 

ニッチ戦略の極意の一つ、それは「競合しない」こと

 日本でも例があります。[図❶]の5位ワッツという100円ショップ企業の戦略が面白いのです。
 アクセスのよくないスーパーなどの一角に居抜き出店というスタイル。小規模、内装にも金をかけません。毎年100店出しても、半分は閉店します。いつでも速やかに退店できるようにしており、敷金の返還も家主ときちんと取り決めているそうです。
 なぜそんなことをするのかというと、ダイソーが来たらすぐに逃げるため。競合しても勝てないのはわかっています。逃げるが勝ち。さっさと逃げて、別の街に新しい店舗を探す。それでいて上場もしていますし、400億円を超える年商がある。これも優れたニッチ戦略といえます。

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そのニッチ市場とは

■強者の既存の利益に反する市場
 ビール業界の歴史を見ると、キリンはラガーで黄金期を築きましたが、アサヒがスーパードライで逆転しました。悔しくてもキリンはラガーの熱処理型で、スーパードライの非熱処理型には挑めません。コンセプトが違うので、ラガーの存在を否定することになるからです。それでスーパードライは一人勝ちとなった。そして今度は発泡酒が出てきて、キリンは淡麗で勝ちました。熱処理、非熱処理、発泡酒と、ビール業界は、既存市場の強者に反する戦略で挑むモノがNo.1を勝ち取っている歴史があるのです。
■差別化できるまで絞り込んだ市場
 スマホは、たくさんの機能を揃えた総合化という流れの中で、シニア向けのボタンは3つだけのシンプルなもの。あれだけ絞り込むと、市場が小さ過ぎて総合化の市場は参入できません。実は60代、70代の人たちは子どもや孫とコミュニケーションができるからメールが大好きです。電話や訪問だけでないコミュニケーション手段としてのメール。これに特化して成功している企業もあり、まさにニッチ戦略です。
■今までのやり方では儲かりそうにない市場
 「俺のイタリアン」なんてまさにこれ。立ち食いさせて、飲み物で稼ぐわけです。高級レストランでは単価を下げなくてはいけないので絶対真似はできません。強者が入って行けないのがニッチ市場なのです。
■手間がかかる面倒くさい市場
 利益を上げるため効率を求めるのではなく、逆にこだわりを徹底的にやると顧客満足が高まってそれが付加価値になります。付加価値には値段が付きます。高額商品を扱っていても成功しているところはあります。
■技術力を要するなど敷居が高い市場
 大企業がやっても採算に合わない市場。10億円や20億円なんて市場は、大手は相手にしません。そういう市場こそ中小企業の土俵、ニッチ市場といえます。

 

『ここ勝つシート』活用法[図❷(次頁)]

 ニッチ市場を見出し、どうやって戦略を打ち立てていくのか私が考案したシートで見て行きましょう。
■対象事業を書く
 誰に何を提供する会社なのか。それを明確にしなくては話になりません。「うちは建材業です」ではだめです。もっと絞り込みましょう。市場に提供すべき満足や差別化の領域を決めるのが事業の定義。さらにドラッカーは規模に関するものが事業定義の最終結論だとも言っています。つまり、大規模になろうと努めるのか、小規模に留まるのか、です。
■事業目的を決める良い例
 良い例として「顧客の事務管理部門に対し、近代的オフィスに必要な機器や消耗品を供給する」という事業目的。これだと誰に何を提供するのかよくわかります。電卓からパソコンに変わっても対応できますし、パソコンからクラウドになっても対応できます。少々経営環境が変わっても、事業の目標定義を変える必要はありません。
 もう一つの好例は「当社の事業は、商品のなかに食品店と主婦の労力と技術を組み込むことである」。これだと惣菜でもレトルトでもカット野菜でも対応できますよね。外食か自宅で作る以外は対応できるということです。
■事業目的を決める悪い例
 悪い例としては「当社の事業はテレビ受像機である」。これだとテレビがなくなってしまえば終わりです。事業目的が狭すぎます。
 逆に「当社の事業は娯楽である」では広すぎます。事業展開の意志決定ができません。娯楽ならなんでもいいわけで、やる・やらないの判断が難しくなります。それでは事業目的としてふさわしくありません。
■自社の本当の強みを確認する
 「自社の強み」はじっくり考えなければなりません。私のところの塾生でクリーニング店を多数出店されている方に「強みは?」と聞くと、「地元のスーパーに入っていることです」と答えました。でもそれは結果であって、よくよく聞くと、「丁寧で確実でクレームも少ない対応」ということがわかってきました。これこそ強み。しっかり考えてください。
■対象市場を決める・事例①
 私はよく「中間サイズの金属加工」を例に出しますが、これも塾生の話です。
 小さな町工場では時間あたりの加工単価は4千円ほどだといいます。何トン、十何トンの加工をする大手では時間単価は7〜8千円です。それで、小さい工場では造れない物件を、塾生の工場では対応できるのですが決して規模は大きくなく、中間の工場といったところ。なのに大手と同じ7千円ぐらいは取るのだそうです。時間単価3千円〜7千円の仕事をこなし、旋盤もフライス盤もできる。こんな工場は少ないそうです。これがニッチなんです。今も相当忙しいと言っていました。
■対象市場を決める・事例②
 すごく腕のいい整骨院さんとコラボして機能回復型デイサービスを展開する「きたえるーむ」。機能回復プログラムだけでなくマッサージもしています。さらにお茶などでおしゃべりの時間も取り入れているとか。年配の方に不足しているのは会話です。気持ち良くなれて、おしゃべりも楽しめるから元気になって帰ってきます。すごく人気だそうです。
 全国にFC展開をして今80店舗位ですが、1店舗あたりの営業利益が1650万円、営業利益率は29.5%。500店舗を目指しているとか。こんなリハビリにマッサージを取り入れているところなんてありません。まさにニッチです。
■戦略目標を決める
 「○○分野で東北No.1になる!」「3年後に△△で□□を達成!」という具体的な目標は足並みを揃える意味でも大切です。いつまで、どのレベルにまでという目標の方向が明確であれば、従業員も一生懸命に頑張るものです。
■キャッチコピーを決める
 これは絶対に必要です。「あったらいいな! を形にする」「お、値段以上 ニトリ」「お口の恋人ロッテ」等々。
 そして今回のテーマをキャッチコピーにするのなら「中小企業は、ニッチで差別化! ニッチに多角化!」ではないでしょうか。多角化は、一つの事業を広げるという意味ではなく、ニッチで得た差別化のノウハウで、別のニッチに取り組むということです。
■ペルソナを設定する
 ペルソナとは「象徴的な顧客像」のこと。自社商品のセールスポイントの価値を認め、買ってくれるだろうと思われる会社像・個人像です。例えばカルビーのジャガビーのペルソナは「27歳、独身女性、文京区在住、ヨガや水泳に凝っている」としました。CMにはそんな顧客像が読むであろう雑誌のモデルを使い、好むであろうデザインでパッケージを作成して大ヒット。
 会社なら、社名、設立年月日、沿革、理念・価値観、住所、従業員数、業種・業態、主な取扱商品、主な取引先、売上高、営業エリア、流通ルート、取引銀行などから企業像を設定しましょう。
■セールスポイントを決める
 ペルソナで企業像・顧客像が絞り込まれれば次はセールスポイントです。
◉うまい、はやい、やすい(吉野家)
◉うまい、やすい、ごゆっくり(吉野家)
◉ハイセンス、ハイクオリティ、ロープライス(クー レンズ)
 既存のセールスポイントは、いいお手本がたくさんあります。
■日常業務に落とし込み、スケジュール化する
 セールスポイントを実現するために、業務を体系化することです。例えば、[図❸]を見てください。「うまい」を実現するにはどうしたらいいのか。「見た目が美味しそう」「香りが良い」「味付けが良い」という日常業務に落とし込んでスケジュール化[図❹]します。ここまでやってはじめてこのニッチ戦略は機能するのです。
 

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【2015年11月号】 準備はできていますか?ストレスチェック制度が スタート!

今年12月1日より、「ストレスチェック制度」が義務づけられます。
50人以上の労働者がいる事業場が対象で、
年1回のストレスチェックを実施しなければなりません。
どのような制度で、そして、企業等はどう対応しなくてはいけないのか――。
その概略を紹介しましよう。

 

労働者のメンタルヘルスは今や重要課題の一つ

 改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度は、厚生労働省によると「定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげる取組」とあります。また、同省導入マニュアルには「〈うつ〉などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組み」とも書かれています。
 この制度を導入する背景は、近年、うつなどの精神疾患で悩む労働者の急増があり、精神的な不調は休職や自殺の引き金になるばかりでなく、生産性を低下させ、企業等にとっても無視はできません。
 同省の統計データによると、うつ病と診断された人は2008年に100万人を突破。うつ病や統合失調症、不安障害等を含めた精神疾患の患者数は2011年で320万人を超えているのです。職場に1人のうつ病の人がいるとその職場には7人の予備軍がいるといわれています。メンタルヘルスへの対応は労働環境の大きな課題といえるでしょう。

 

ストレスチェック制度とは

 この制度の概要を整理しておきましょう。
◉「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票
(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる検査のこと。
◉2015年12月から、毎年1回、労働者が50人以
上いる事業場での検査実施が義務づけられる。(2015年12月1日から2016年11月30日までの間で1回目を実施すること)
◉対象となる労働者は一般定期健康診断の対象者と
同様。ただし、労働者にはストレスチェックの検査を受ける義務はない。※契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は努力義務。
◉ストレスチェックの結果は実施者(医師等)から直
接本人に通知される。
◉高ストレスとの結果が出た労働者が面接指導を
希望した場合、医師による面接指導を実施すること。
 さて、どのように実施していけばいいのかは、厚生労働省がホームページで掲載している「ストレスチェック制度 簡単! 導入マニュアル〈実施手順〉」(図①)をもとに、主な留意点を見ていきましょう。

 

ますますやる気が出る「レッテル褒め」

 部下に自信をつけさせ、部下の実績や能力に気付いていることを伝えるのが「レッテル褒め」です。
 以前、私が勤めていた旅行会社で「リゾートのことなら吉田に聞け」と言われたことがありました。たまたまリゾートホテルで過ごす企画が受注になっただけで、リゾートに詳しい人は他にもっといるはずと思いました。でも、これからさらに頑張らないといけないとプレッシャーを感じましたが、認めてもらえた喜びもありました。
 「この企画ならA君だ」
 「この業務ならBさんだ」
 と、オーソライズ(権威づけ)すると、部下もその分野のスキルをより磨こうとします。
 それからミーティングなどで、レッテルを貼った分野についての「講師」をさせてみましょう。これは社歴の浅い、若年層の部下に自信をつけさせるにはもってこいの方法。もちろん自信をつけるという意味では、ベテランでも、昇進が遅れている人や自信を失くしている人などにも「レッテル褒め」と「講師」は効果的です。
 といっても赴任したばかりでしたら、まだわからないので、部下をよく観察することです。それも、「彼のストロングポイントはなんだろう?」と強みをまず見つけることで、その次に弱みを見つければいいのです。弱みはすぐに見つかるものですが、強みはなかなか見つけにくいもの。それが、この「レッテル褒め」をしていると、部下の強みを見つけるのがうまくなるものなのです。

 

実施前の準備段階

□ストレスチェック制度を実施する旨を発表して おく
労働者自身によるセルフケアや職場環境改善を通じてメンタルヘルスの不調を未然に防ぐのが目的です。不調者の発見だけが目的ではないと法令で明示されていると伝えましょう。
□事業所の衛生委員会で、ストレスチェック制度の 実施方法などを話し合う
誰に・いつ実施するのか、どんな質問票を使うのか、どんな方法でストレスの高い人を選ぶのか、面接指導はどの医師に依頼するのか、結果は誰が、どこに保存するのか等を話し合っておきます。
□決まったことは社内規程として明文化しておく
□実施者は職場の上司などではない
ストレスチェックを実施する者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から事業者が選ぶこと。外部委託は可能。※産業医でも、自身の人事権が及ぶ部下にはストレスチェックはできません。つまり、対象となる労働者の人事権を持っている人は実施者になれません。
□実施者をサポートする実施事務従事者を置く
実施者の補助をする実施事務従事者を社内に置くといいでしょう。質問票の回収、データ入力、結果送付など、個人情報を取り扱う業務を担当。実施者同様、人事権を持つ人はなれません。外部委託は可能。
□面接指導を担当する医師を決めておく

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ストレスチェックの実施

□質問票に記入してもらう
質問票の指定はありませんが、厚生労働省の「国が推奨する57項目の質問票」(次ページ・図②)があるのでそれを使えばいいでしょう。ITシステムを使ってオンラインで行っても構いません。
□記入後の質問票は医師などの実施者が回収する
第三者や人事権を持つ職員が、記入・入力の終わった質問票の内容を閲覧できません。
□回収した質問票をもとに実施者が、高ストレス で医師の面接指導が必要な者を選ぶ
高ストレスとは、自覚症状が高い者や自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い人のこと。
□結果は、実施者から直接本人に通知する
結果は事業者(企業等)には返ってきません。結果を入手するには、本人の同意が必要です。
□結果は、医師などの実施者や実施事務従事者が 保存する
結果を事業場内の鍵のかかるキャビネットやサーバー内に保管するのも可能ですが、第三者に閲覧されないよう、実施者や実施事務従事者は鍵やパスワードの管理をすること。保存期間は5年間。

 

面接指導の実施

□「医師による面接指導が必要」と通知された労
働者から申出があった場合は、医師に依頼して面接指導を実施すること
高ストレスと評価された労働者本人が面接指導を希望した場合、通知されてから1カ月以内に事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。
□就業上の措置について
面接指導を受けた労働者の就業上の措置は、面接指導を実施した医師から1カ月以内に意見を聴き、それを踏まえて労働時間の短縮などの必要な措置を実施しましょう。
□面接指導の結果は事業場で5年間保存する

 

職場分析と職場環境の改善

□ストレスチェック結果を、実施者に一定規模の集団
(部、課、グループ等)ごとに集計・分析してもらう
集団ごとに、質問票の項目ごとの平均値などを求めて、比較する等の方法で、どの集団が、どういったストレスの状況なのかを調べます。
※この場合、集団規模が10人未満の場合は、個人特定されるかもしれないので、全員の同意がないと、結果の提供は受けられません。原則10人以上の集団が集計の対象。
□集計・分析結果を踏まえて、職場環境の改善を行う

 

行政への報告

□労働基準監督署に報告する必要あり
労働安全衛生法第100条に基づく報告の違反の場合には罰則があります。

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【2015年10月号】 その「常識」が、 成長を阻む壁になっている part2【マネージャー編】

ビジネスの世界にも「マネジメントはこうあるべきだ」という「常識」があります。
実はその「常識」の多くが単なる思い込みや錯覚にしか過ぎず、
事業運営に悪影響を与えていると経営コンサルタントの大庭真一郎氏は指摘します。
今回は弊害を生み出しているマネジャーが思い込んでいる「常識」を取り上げ、
事業運営上の壁となるものを探ってみましょう。

 

マネジメントに関する常識の壁

マネジャーの役割

 マネジャーとは、チームを率いる管理職者です。社長の下した方針に則ってチームを牽引しながら社長に現場の正確な情報を報告したり、チームのスタッフを、希望を持って働こうという気にさせて、持てる能力を存分に発揮できるようにしたりすることが役割といえます。 
 そんなマネジャーに対して社長は、スタッフを成長させチームの成績が上がるようなマネジメントをしてもらいたいという期待と、社長の考えや社長が思い描く会社の方向性をスタッフに正しく伝えてもらいたいという期待を持っています。
 ですから、単に長く勤めた結果、地位が上がってマネジャーになったのだという意識であれば、会社に危機をもたらしかねません。それほどマネジャーというのは重要な役割を担っているのです。

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「マネジメント=管理」という思い込み

 マネジメント=管理という感覚が、多くのマネジャーの意識にはびこっているようです。
 管理とは、業務管理や勤怠管理など決められたルールに則って一定の物事を取り仕切ることですが、それは、マネジメントのほんの一部にしかすぎません。
 マネジャーが行うマネジメントは、本質的には社長が行うマネジメントと変わらないのです。チームの目標を立てて、スタッフや取引先、情報といったチーム内に存在する資源を上手に活用しながら、求められた結果を実現します。チームの目標を立てるときには、社長の承認を得た上で、スタッフにも理解させます。
 そのような役割を担う中で、日々の業務管理やスタッフの勤怠管理などが発生するのです。
 マネジメントと管理が異質なものだということを理解しないままマネジャーとしての立場に就くということは、マネジャーとしての仕事を放棄しており、その資質はないに等しいと私は思っています。

 

「社長の作った数字が絶対」という思い込み

 マネジャーは、チームの目標を立てますが、このときにも大きな常識の壁があります。「社長が作った数字が絶対だ」という思い込みから、社長から示された数字を丸呑みしてチームの目標にしてしまうことです。
 社長は、会社全体でこのような数字を実現したい、ならば各チームにこれくらいの数字は達成してもらいたいという試算をしているだけなのです。
 社長がすべての現場をマネジメントできないので、マネジャーという役割があるのです。正しくは現場を良く知るマネジャーが実現できそうだと思える数字を作り、その内容を社長と共に検証し、互いに納得した上で、会社全体とチームの目標数値が確定されることが本筋といえます。
 実態にそぐわない数字がチームの目標として立てられ、ふたを開けてみると実態に即した数字しか達成できず、それが会社全体の目標とのギャップとして表れ、会社が苦境に陥る場面は実によく見られます。今年、某大手総合電機メーカーで、現場を無視した目標を押し付けられたマネジャーが、社長には逆らえないからと粉飾めいた対応を行ったことは、記憶に新しいところです。

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「プレイした上でマネジメントを行えばよい」という思い込み

 多くのマネジャーは、自分自身の日常業務をこなしながらマネジメントを行うことになります。その過程で、大きな錯覚が生じます。それは自分の日常業務をやり終えた上で、余力の範疇でマネジメントを行えばよいという思い込みです。
 マネジメントは、片手間でやれるレベルのものではありません。成果を実現するために、現場で使える資源を上手に活用し、進捗管理も行う。つまり、マネジメント自体、常に行わなければならないものなのです。人一倍働いているのにチームの成績が振るわないからと社長に叱責されるその原因は、マネジャーが自分の業務のことばかりに目がいってしまい、チームのマネジメントが疎かになっているからでしょう。
 自分の日常業務とマネジメントとの間に優先順位はありません。日常業務をやりながら、同時並行でマネジメントを行うしか方法はないのです。
 その方法とは、マネジャー自身が自分の日常業務のやり方を改善し、担当業務の一部を他のスタッフに移管して身軽になるなど、マネジメントを行える環境を整えるための工夫を凝らすことです。

 

「部下にはっぱをかける=マネジャーとしての仕事をしている」という思い込み

 マネジャーには、スタッフを鼓舞しフォローしながらチームとしての成果を追い求めていく役割があります。ところが、そこにも常識の壁が存在するのです。それはスタッフにはっぱをかけることでマネジャーとしての責任を果たしたのだと錯覚してしまうことです。
 はっぱをかけなければならないのは、スタッフの仕事の結果が思わしくない状態にあるからです。しかしそれは、スタッフの頑張りが足りないからなのではありません。スタッフはすでに頑張っているのですが、結果を出すためのやり方がわからないのです。
 そんなスタッフのことを精神的に追い詰めると、壊してしまうことにつながりかねません。結果を出せないスタッフに対して、「頑張れ!」の一言で終わらせてしまっているとしたならば、マネジャー失格です。
 マネジャーには、スタッフが結果を出すためになにが必要なのか、どのようなプロセスが必要なのかを判断し、指導することが求められます。そのために、常にスタッフの行動に目を光らせ、スタッフの話にじっくり耳を傾ける姿勢が必要なのです。

 

部下の育成に関する常識の壁

「今の若いヤツは○○だから」という思い込み

「今の若いヤツは○○だから」というのはいつの時代もよく聞かされるセリフです。
 世代が異なれば時代背景や生活環境も異なり、ものの考え方や価値観、嗜好などが異なることが多いため、このようなセリフが生まれるのは当たり前。その当たり前がマネジャーの常識の壁となって、部下の育成がスムーズに進まない原因を作っていることが多いのです。
 組織に属する人間として、組織の方向性に基づいて個人としての能力を高めていくことが育成であり、そこに世代による考え方の違いに左右される余地はありません。
 部下の育成の場面で「今の若いヤツは○○だから」というセリフが出てくるのは、マネジャー自身が最初からコミュニケーション・ギャップがあるものと思い込み、壁を作っているからです。加えて、部下が育たないことへの理由にもしています。
 呑ミュニケーションとか、打たれながら伸びるといった昔のやり方が通用しないという声もありますが、それらは接するときの手段の問題です。マネジャーとして教えられることや部下自身が成長することを受け入れようとする姿勢は、今も昔も変わりません。
 「今の若いヤツは○○だから」という言葉を口にした時点で、自分のほうから壁を作っていることをマネジャーは気付く必要があるでしょう。

 

「伸びるヤツは放っておいても伸びる」という思い込み

 人には、のみ込みの早いタイプとそうでないタイプがいます。のみ込みが早いタイプの人は、一見して、手取り足取りのような教育をしなくても自然に育つ、という錯覚に陥ることが多いようです。
 多忙なマネジャーにとって、部下の育成は、手を抜きやすい分野でもあります。そのため、のみ込みの早い部下には、「彼は、手取り足取り教えなくても成長するだろう」という感覚で手を抜いてしまうのです。
 これは大きな間違い。のみ込みが早い人間であっても、頭の中で理解したことを生かす場を与えなければ育ちません。知識を習得した部下に、それを生かせる仕事を与えることで、部下は成長するのです。
 反面、生かす場を与えずに放置した場合、部下はこの会社にいたのでは自分は成長できないと思ってしまい、士気は低下し、成長の芽を摘んでしまうことになってしまいます。
 部下の育成に関して、部下の資質の程度に関係なく、一定の知識を習得させた上で生かす場を与えるというのもマネジャーの仕事です。

 

「育成とは業務スキルを高めること」という思い込み

 「部下を育成する目的は?」という問い掛けに多くのマネジャーが、「業務スキルを高めること」と答えます。間違いではありませんが、マネジャーの視点としては物足りません。
 チーム全体のキャパシティーが拡大することで生産性が高まり、会社の収益も上がるのです。よって、マネジャーであるならば部下のキャパシティーが拡大することで自分自身のキャパシティーも拡大し、それによりマネジメントできる範囲が広がり、チームも強くなれるという発想を持って、部下の育成を行ってほしいものです。
 それであれば、部下も成長した自分が会社やチームに貢献する姿にリアリティのあるイメージを持つことができ、がぜんヤル気が出てくるでしょう。
 反面、マネジャーにそのような発想がなければ、単なる習熟度の向上というイメージしか持てず、部下の視野も広がりません。
 マネジャーとしての役割を果たすためにも、先程も述べた、日常業務をやりながら同時並行でマネジメントを行うための方法としてマネジャー自身の業務をスタッフに移管することと、部下の育成とをリンクさせて行動するのが効果的だと思います。

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「教えるよりも自分でやった方が早い」という思い込み

 部下の育成に関しては、業務を行う中で教えることが多いと思います。習熟度が低いと、何度も失敗します。その場合、失敗したことを糧にして、同じ失敗を繰り返さないために何が必要なのかを教えるのが教育ですが、この場面でマネジャーの錯覚が生じることが多いのです。
 それは、業務を通じて部下を成長させることを目的としてやっていることが、いつしか業務自体をつつがなく終わらせることが目的となってしまうのです。そのことで、教えるよりも自分でやったほうが早いという気持ちが生まれ、部下の育成の部分がおざなりになってしまいます。
 そうなると部下が育たないのはもちろんのこと、チームの生産性も上がらず、そして部下が育たないことにマネジャーがストレスを感じるという悪循環に陥ってしまいます。
 そのためにも業務をつつがなく終わらせなければならないという課題と、部下を育成するという課題は切り離す必要があります。つまり、業務を通じて行う育成の場合は、その業務に関しては、日々の業務計画の中とは別にしておきましょう。
 そして部下を育てたいのなら失敗させることです。失敗の中に、成長するためのヒントが隠されています。それなのにマネジャーが代わりにやってしまえば、部下の成長機会を奪ってしまうことになるのです。
 いかがですか。チームの成果がかんばしくない、部下がうまく育たない、といった場合、こうした「常識にとらわれていないか」と考えてみるのも、対策を講じるうえでのいいヒントになるのではないでしょうか。

 

【2015年9月号】 当たり前だと思っているその「常識」が、成長を阻む壁になっている

ビジネスの世界にも「経営とはこうあるべきだ」という「常識」があります。実はその「常識」の多くが単なる思い込みや錯覚にしか過ぎないものと経営コンサルタントの大庭真一郎氏は指摘します。そんな常識が「壁」となって会社の成長を阻むこともあるとか。今回は弊害を生み出している会社の社長が思い込んでいる「常識」を取り上げ、経営上の壁となるものを探ってみましょう。

 

経営全般に関する常識の壁

「社長の苦しみは社長にしかわからない」という思い込み

最近の経営者は真面目な方が多く、それ故に「経営とはこういうものだ」という思い込みが激しい一面があります。そうした当たり前、思い込みがいつしか「常識の壁」となって、企業の成長を邪魔していることが多々あるように見受けられます。

中でも特に社長自身を苦しめているものが「社長という仕事は孤独だ」と思い込んでいる常識の壁です。

社長には、日々重い決断を下さなければならないというプレッシャーがあります。最終決定者としての責任があり、もし間違えたら従業員の生活や取引先にも影響を与えてしまうことに…。そんな気持ちや苦しみは、同じ状況に置かれている人にしかわからないと思い込んでいませんか?

そのような思いを持ち続けていると、社長が何もかも重荷を抱えて、社長自身のパワーを減退させてしまいます。

そのこと以上に大きな問題は、社長の「しょせん、従業員に私の気持ちなどわかるはずがない」という心の持ちようが、社長自身が従業員の気持ちをわかろうとしなくなることです。従業員の気持ちがわからないことに悩む社長は多いのですが、社長自らがわからなくする壁を作っていることになります。

すべてでなくても、一部だけでもわかってもらえればいいのです。会議のときに「ここは悩んだよ。寝ずに考えた」と言えば勘のいい従業員は察してくれますし、従業員が社長目線で物事を考えてくれるかもしれません。ただし、お酒の席で言うのは避けましょう。ただの愚痴に聞こえてしまいますから。

「計画のゴールは数値目標」という思い込み

会社全体の計画を作るのは社長の仕事であり、現在の会社の状況や今後の方向性、戦略、将来のゴールイメージなどを可視化した計画を考えます。これは社長自身の考えを整理するためにも必要ですし、周囲の人間に社長自身の考えを伝えるためにも必要です。

そのことに関して計画書には、計画を見る側もゴール地点の数字に着目するはずだという意識に基づいて、数字を置くことに全力を注ごうとする「常識の壁」が生まれてしまうことがあります。ゴールの数字を書き込んで満足してしまうのです。

計画書の数字は、筋書き通りに事が運んだときに予測(期待)できる数値結果を表しただけ。筋書き通りに事を運ぶための根拠、プロセスがしっかりしていないと、単なる希望的観測で終わってしまいます。計画はプロセスありきで、「そのためにどうするのか」が一番重要なのです。極端な話、目標の数値はなくてもいい。大手企業でも計画がうまくいかない原因がこの常識の壁であることが多いようです。プロセスに整合性がないのです。

「今までの尺度で物事を考えてみる」という思い込み

社長は、常にもっと受注を増やすためにはどうすればよいのか、新しい取引先を作るためにはどうすればよいのかを考え、行動しています。しかし、ここでも「常識の壁」、思い込みが結果を阻んでいることがあります。その「常識の壁」とは、今までの取引の形イコール今後の取引の形だと思い込んでいることです。

今までのような形でモノやサービスをお客様に提供してきた、だから今後も今までの取引の形を前提に考えるべきだという思い込みが生まれます。

これまでの取引の形は今までの環境が生み出した形態であり、今後の取引の形は今後の環境にマッチしたものがベストという認識が大切です。

従来の取引の形に固執したままだと、環境の変化についていけなくなり、世の中のニーズにマッチしたモノやサービスをたとえ持っていたとしても、必要としている人のもとに届けることができなくなってしまいます。今までのことは今までのこと、今後のことは今後のこととして、頭の中を常にクリアーにして考えることが必要でしょう。

「組織や肩書は必要」という思い込み

多くの方が「組織と肩書きはいらない」と聞くと驚かれますが、これも弊害を生み出すことがあるのです。

まず組織の弊害とは、ヒトに仕事を付けることから生まれます。いわゆるAさんがいないと仕事が回らないという状況です。Aさんは自分しかいないから休みたくても休めないし、もしAさんが辞めたら全体の業務がガタガタになります。そうした状況が無理をすることにつながっていくわけです。

大切なのは仕事にヒトを付けること。すなわち誰もがその仕事をできるような状態にすることです。今必要な仕事に全員が集中して取り掛かれることにより、生産性が高まります。そうなれば休むことに気を使うこともなくなり、退職者が出たときの引き継ぎもスムーズに運ぶはずです。

次に肩書きについてですが、役割と権限を明らかにするという意味では必要な面もありますが、組織を硬直化する弊害があります。肩書きがあるがゆえに、情報の伝達や物事を決めるのに時間がかかってしまうことです。

例えば決済をもらうのに何人もの承認が必要となれば、それに時間がかかり、後手を踏み、タイミングを逸してしまい、ライバル社に一歩先んじられてしまうことにもなりかねません。中小企業の強みはスピーディーな意志決定にあります。

規模の小さな会社の場合は、組織や肩書ありきの発想から抜け出してみてもよいのではないでしょうか。

 

取引に関する常識の壁

「営業を強化すればモノは売れる」という思い込み

経験豊富な営業マンを採用したのに期待外れだった…。という声をよく耳にします。「営業を強化すればモノは売れるはずだ」というのもよくある常識の壁です。

自社でしかそのモノやサービスを提供していないのであれば、営業の人員を増やせば売れますが、現実は、競争相手はたくさんいます。買う側にしても、比較した上で、一番満足のいくモノを買います。

つまり、営業の頭数を増やすことが売上を増やすことに直結しないのです。大切なのは営業の頭数にこだわる前に、自社のモノやサービスの中身にこだわることです。競争相手と比較して、特徴や優れている部分がはっきりしているのか。その特徴がフィットするお客様の層をきちんと摑んでいるのか。こうしたことに注力すべきなのです。

また、営業トークの上手な営業マンを増やせば売上の増加が見込めるというのも同じ。魅力的な商品やサービスがあり、魅力を魅力だと感じてくれる相手がはっきりしている状態なら、コミュニケーション能力の高い営業マンが、お客様に求めていたモノだと気づいてもらえる営業を行えば、売上が上がるのです。

「取引してもらっている側が弱い立場なのは当たり前」という思い込み

景気は回復傾向にあるのに、取引の現場では先方からの値下げ要求が相変わらず日常茶飯事のようにあります。価格以外にも、納期を早めろとか、+αで何かサービスしろとか、取引先はいろんな要求を突き付けてきて、徐々にエスカレートしていきます。そしてその都度、先方の顔色を覗い、無理難題に頭を悩ませ、挙句の果てに「やむを得ない」の一言で要求を飲んでしまう…。この姿にも、常識の壁である「取引してもらっている側が弱い立場なのだ」という思い込みが立ちはだかっているのです。

本来、取引に強い弱いはありません。求められるモノやサービスを提供する側があり、求める側が決められた対価を支払って手に入れることが取引です。そこには相互が対等な立場で補完しあっているという図式しかありません。

しかし現実は、競争相手がたくさんいる土俵の上で頭を下げまくり、こびへつらいながら買ってもらっている。こんなスタイルをとっている限り、取引してもらっている側が弱い立場だという感覚から抜け出すことはできません。

この悪循環から抜け出すためには、競争相手が少ない土俵はどこなのかを見つけることと、求める側が真に満足するモノは何なのかということを常に探究することです。

 

ヒトに関する常識の壁

「人事はカネを生まない」という思い込み

一般の中小企業には、単独の部署としての人事部はめったに存在しません。人事という仕事は、カネを生まないからヒトを配置するなんてもったいない。そんなところに配置できるヒトがいるのであれば営業や現場に回すべきだという考え方が常識の壁といえます。

人事は、手続き仕事だけを行う分にはカネは生みませんが、それは人事の仕事の一部にしか過ぎません。本来の人事の仕事は、人材の確保、底上げ、定着を図ることにあります。

これを軽く見ていると、費用をかけて確保した人材が、能力を発揮しきれないまま居続けることで固定的な人件費が増え続け、希望を失った人材は退職し、再び費用をかけて人材を確保するものの、生かし切れず、人材が入れ替わるという悪循環が生じてしまいます。

この悪循環がなくなれば、カネを生まない人材に払う人件費や繰り返し生じる募集・採用の費用が発生しなくなるという意味でカネを生み出します。そして生産性が高まることにより売上や利益が増えるという意味でもカネを生み出すことにつながるといえるでしょう。

専従者を置くのかどうかは別にして、限られた人数で事業を行う中小企業こそ、人材の確保、底上げ、定着を徹底することに時間を割くべきなのです。

「残業があるのは当たり前」という思い込み

残業についてですが、従業員が残業するのは当たり前だという常識があります。このような常識のもとで残業をしている従業員は仕事ができる、ヤル気があると錯覚しているのです。

残業はすればするほど収益性が低下します。人件費が割高になるからです。しかも長時間労働になるほど能率が下がり、慢性的な長時間労働は疲弊を生み、生産性や士気の低下という結果をもたらします。ビジネスマンがアフターファイブを楽しめない状況は、会社の成長を阻んでいるともいえるわけです。

全員が仕事の無駄を省き、効率よく仕事を進め、それでも定時を過ぎてもその日のうちに必ずやらなければならない仕事が存在するのであれば、会社は儲かっていることになります。ならば社長は従業員の負担を減らすためにヒトの補充を考えるべきです。

習慣的に残業をしているのであれば、仕事に関する無駄の排除や効率性、優先順位などを徹底する必要があるでしょう。

「頑張っているヤツを評価すべし」という思い込み

やってもやらなくても一緒では従業員の士気が下がるので、人事評価は必要です。そんな中、頑張っている人を無意識のうちに高く評価してしまうという常識の壁を作ってしまいがちになります。

給料を貰いながら働いているのであれば、頑張るのは当たり前。大切なのはそこから先で、評価するのはいかに結果を生み出せたのか、いかに能力を高められたのか、創意工夫した跡がどの程度見られるのか、という部分です。

そこをおざなりにしてしまうと、結果に関係なく毎晩遅くまで勤務している人が頑張っているように見えて高く評価されてしまいます。そうなると、評価に対する公平性が失われ、頑張り続ける従業員が結果を出せないまま疲弊し離脱することにもつながります。頑張っている従業員が結果を出せるようにアシストしてあげることも重要なのです。

「教育機会を与えればヒトは成長する」という思い込み

一般の中小企業における社長の従業員への教育に対する意識は高いです。反面、費用をかけて教育したのに、特に何かが変わったわけではないという声が多く聞かれます。これは、教育機会を与えればヒトは成長するはずだという思い込みが原因です。

時間を割いて教え込んだら、あるいは著名な講師の話を聞く機会を与えれば、たちまちのうちに従業員の行動が変わってくるのではないかという期待と錯覚があるのです。

教育を受けたことにより頭の中の発想は広がったかもしれませんが、そのことと仕事をする上で行動を変えられることとは次元が異なります。新しく得た知識やノウハウをどのように行動に生かせばよいのかがわからずにいる従業員が大半なのです。

教育を受けさせた後に、日常の仕事で教育の成果をどのように生かしていくか、ということをきちんと考えた上で教育機会を与えることが必要です。

 

金銭に関する常識の壁

「借入金があるのが当たり前」という思い込み

借入金というと暗いイメージが付きまといますが、個人的な借金とは意味合いの異なる部分もあります。

新しい取引を始めるときや投資をするときなど、手持ちの資金では全額賄えないけれども、近い将来、投入する資金を上回るお金が回収できると判断した場合に、手持ち資金の不足する部分を借りるのは、前向きな対応といえます。

ところが現実は、銀行からの資金調達と返済が日常的になることで、常に借入金の残高が存在している状態に置かれてしまい、借入金があるのが当たり前という感覚に陥ってしまうケースが多いのです。「お金が足りなくなるから」という理由だけで安易に借り入れしてしまうことも多いようです。

事業で生み出した利益を今後に向けて投資し、それにより次の利益を生み出すという本来の経営の姿に近づくためにも、借入金があるのが当たり前という感覚から脱することが必要。それには借り入れる前に将来に向けた資金計画というものをしっかりと考えておくことが必要です。

「決算書は従業員に見せるものではない」という思い込み

一般的に、社長は、従業員に決算書を見せることを嫌い、隠そうとします。それは、役員報酬の金額を知られることで従業員の間に不満が生じるのではないか、損失金額や借入金残高が大きいことを知られることで従業員の間に不安が生じるのではないかが理由として考えられるでしょう。

しかし、隠すことで、かえって従業員はマイナスの方向に推測してしまいます。会社が儲かっているときであれば、社長を中心とした一部の人たちだけが美味しい思いをしているのではないか。また、会社が苦しいときであれば、うちの会社はもうじき潰れてしまうのではないか、そのことが原因で会社に対する不信感や士気の低下を招いてしまうこともあるのです。

情報は極力オープンにして従業員との間で共有したほうが上手くいくもの。儲けが出たのであれば、儲けの使い道を説明し、社長が多く取るのは私利私欲ではなく、銀行からの信用を高めるためなのだと説明すればいいのです。会社が苦しいときも、やれるのだと自信を持って口にし、改善していくための考え方を説明しましょう。

透明性を高めることで、従業員の発想もポジティブなものへと変わっていきます。従業員との間で会社の状況を認識しあった上で、今後の方向性について理解しあうための手段として「決算書を見せる」と考えてもよいのではないでしょうか。