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【2019年12月号】強い企業になれる「藤屋式ニッチ戦略」マルチプル・ニッチャーで 高収益企業を目指そう!

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単一事業で伸び悩む企業のトップやリーダーは、「あと1つか2つ、柱になる事業があれば」と思うことだろう。そこで、ドラッカーの「生態的ニッチ」をさらに進化させた「藤屋式ニッチ戦略」で、小さな企業でも多角化を目指せる〔マルチプル・ニッチャー〕の考え方を藤屋伸二氏にうかがってきた。


 
 
■ミスマッチを防ぎ、合否を見極めるチェックシート
 
まずは、ドラッカーの言葉から紹介しましょう。
 
「生態学的地位を確保しようとする戦略は、小さい領域において、実質的な独占を実現することを狙いとする=中略=競争的戦略に成功したものは、大企業として目立つ存在になる。生態的ニッチ戦略に成功したものは、名より実をとることになる。それらの企業は、名もないなかで贅沢に暮らす。事実、生態的ニッチ戦略に成功した企業は、決定的に重要な製品を手がけておきながら、ほとんど目立たない。そのため誰もこれに挑戦しようとさえしない。(イノベーションと企業家精神)」
 
大企業と競争するのではなく、目立たなくてもいいのでしっかり稼ごう、非競争の市場を獲得しようということです。
 
「専門化と多角化に関連がなければ、生産的とはなりえない。専門化だけでは、個人営業の自由業に毛が生えただけのことである。通常、そのような事業は成長できず、一人の人間が死ねば消滅する。しかし逆に、専門化せず、いかなる卓越性もなく、単に多角化しているだけでは、マネジメントはできなくなり、ついにはまったくマネジメントできなくなる。(創造する経営者)」
 
「専門化」とはノウハウを高めることで、「多角化」は強みを応用して事業を展開していくことです。単に知っているからといろんな業態に手を出すのはよくありません。
専門化と多角化の関係は、“or”ではなく、 “and”と考えましょう。図①で、「川上」へ向かうのは専門化で、「川下」の方向が多角化。例えば、出版社が川下の多角化で電子書籍を手がけるなら、川上の専門化ではwebについてのノウハウを深めていかなければならないという関係性です。
 

 
 
■多角化の方向には2通りある
 
さらに図②です。例えばアメリカの某ディーゼルエンジンメーカーは、大型トラック用ディーゼルエンジンの専門化に「知識を集中」させ、販路をアメリカだけでなくアジア、ヨーロッパへと拡大し「市場を多角化」して成功しました。
しかし、顧客の激減に伴い、他社を買収し、中型、小型トラックをはじめ、ブルドーザー等の土木機械や農機具にも着手して「知識を多角化」。そして販路を絞り込んで「市場を集中」して順調に業績を上げたのです。
つまり、多角化の方向は図②のように2通りあり、どちらが望ましいかはそのときの状況によります。状況をきちんと把握して、自社の強みを見極め、その強みを活かせる分野を考えねばなりません。
 
 
■「生態的ニッチ」を理解しておく
 
さらに多角化を考えるにあたって、ドラッカーの「ニッチ」という概念をきちんと掴んでおきましょう。ドラッカーが言うニッチとは〔すき間〕ではなく、ラテン語の「nidus」に由来します。動物の「巣」、人なら「家」という意味で、安心・安全で睡眠ができ、子育てもでき、占有できる場所や空間。それが、「生態的ニッチ」であり、わかりやすくは「適所」と捉えてください。
この生態的ニッチを経営に取り入れた「生態的ニッチ戦略」は、「適所戦略」と言い換えられます。生態的ニッチ戦略=適所戦略は、企業規模に関係なく、自社の実力を活かせる適所で事業展開するものです。
例えばトヨタは1000万台を売りたいので適所といえば世界市場となります。ところが富山県にある光岡自動車は、1日1台の手作りなので国内市場で手一杯。4カ月待ちだといいます。こんな面倒くさい市場には大手も入ってこようとは思いません。これが適所戦略なのです。
 
 
■進化した「藤屋式ニッチ戦略」とは
 
私のところには日々、さまざまな規模、業種の企業から、多角化についても相談が寄せられます。それに応えるために、ドラッカーの生態的ニッチ戦略をベースにしながらも、ブルーオーシャン戦略(非競争の市場)、カテゴライズ戦略(新市場の創造)、ブランド戦略、競争しない競争戦略などの考え方を取り入れたため、今ではドラッカー理論の枠を飛び出してしまっています。
そこで、新たなネーミングが必要となったので、「藤屋式ニッチ戦略」と銘打ってコンサルティングしています。
この「藤屋式ニッチ戦略」とは、自社の強みを活かせる生態的ニッチ(適所:非競争の独占市場)となるように、他社との「棲み分け」と「食い分け」で高収益の独自市場を創り出し、維持・発展させる中長期的な事業への取り組み︱適所繁栄(適所を創り出して繁栄する)を目指すものです。いわば、生態的ニッチをさらに進化させた戦略であり、生態的ニッチな事業を複数展開する多角化企業を「マルチプル・ニッチャー」と言います。
 
 
■マルチプル・ニッチャーを目指した「棲み分け」
 
藤屋式ニッチ戦略による多角化を目指す〔マルチプル・ニッチャー〕のポイントとして前述の“他社との「棲み分け」”を考えてみましょう。それには「誰に・何を・どのように」の3つの要素を明らかにする必要があります。
まず、1つ目の要素は「誰に」です。これは、対象市場・対象顧客を絞ることです。市場をセグメンテーション(細分化)して特定の市場に絞り込みます。その特定の市場でポジショニング(位置づけ、特徴づけ)を行い、 ペルソナ(理想の顧客像)を設定します。
こうして、しっかりと他社と「棲み分け」し、適所といえる市場(ポジショニング)を確保できるかを考えるのです。
2つ目の要素「何を」は、提供する価値は何なのかということ。そして3つ目の要素「どのように」は、商品の仕様を変えたり、提供方法を新たにつけ加えたり、増やしたり、減らしたり、取り除いたりして、業界の通例といわれるものとは違う仕組みに変えていきます。
 
 
■「棲み分け」の事例シチズンMホテル
 
前述の2つ目と3つ目の要素を、今、注目のホテル「シチズンMホテル」を事例(図③)にして説明しましょう。
まず、2つ目の要素「提供する価値」を、“旅慣れた人のための「手が届く高級ホテル」”としています。旅慣れた人にとってフロントやコンシェルジュは必要ありません。荷物も少ないのでベルボーイも要りません。そして、部屋のタイプは幾つもいりませんし、寝るだけなので広くなくてもいい。だから、料金設定を下げることもできるでしょう。
そのために創り出したのがセルフチェックインの端末、仕事終わりにちょっと飲める24時間使えるバー、そして親切なアンバサダー(世話係)。
増やしたことは、睡眠環境として特大サイズのベッドに高級リネン、部屋の遮音性、水圧のあるシャワー、さらに無料のオンデマンド映画配信、格安の電話、高速インターネット等々。
こうした絞り込みで、人件費は半分になったといいます。すると宿泊費を下げても人気を集めて業績をアップさせることができたのです。これが高級志向の人ならそうはいきませんが、絞り込めば込むほど、特定の顧客だけの満足に集中でき、余分なものはいらない。それが藤屋式ニッチ戦略の「棲み分け」といえます。
 

 
 
■マルチプル・ニッチャーを目指した「食い分け」
 
それでは「食い分け」とは何でしょうか。動物の世界では、同じ草でも、先端を食べる種がいれば、根元に近いほうを食べる種がいます。これだと、同じ草を食べても、他の種と競合することはありません。つまり、競合する商品やサービスがない状態を「食い分け」と言うのです。
図④をご覧ください。5つ星ホテルなら、高価格とフルサービスとなり、低価格でセルフサービスを望むならネットカフェになります。すると高価格でセルフサービスというのはあまり無く、そこをシチズンMホテルは狙ったわけです。
つまり、他社にとって魅力がない、あるいは、魅力と思われないような市場にもニーズが潜んでいるといえます。具体的にそういう市場を見つけるには、次の4点を基準にするといいでしょう。
・業界の異常識・非常識
・めんどうくさい
・儲かりそうにない
・相対的に市場規模が小さい
これらを基準に、満たされていないニーズや他社がやりたがらないニーズに応えることが、他社と市場ニーズを「食い分ける」ことになります。それが多角化に必要な「食い分け」なのです。
 

 
 
■マルチプル・ニッチャーのメリットとは?
 
藤屋式ニッチ戦略による多角化〔マルチプル・ニッチャー〕のメリットについても述べておきましょう。
 
◆強みを有効活用できる⇨強みは努力、努力はコスト、より多く、より速くコストを回収するためには、多角化が効果的です。
◆事業のライフサイクルに対応できる⇨事業には必ず「導入期→成長期→成熟期→衰退期」のライフサイクルがあるので、多角化しておけば図⑤のように、ある事業の衰退期が訪れても慌てることはありません。ドラッカーが「目標を達成した時はお祝いするのではなく、次の事業を準備する時だ」と言っており、調子のいい時にこそ次の事業の仕掛けをしておかなければなりません。
◆人材育成のチャンスが増える⇨組織のNo.2がトップに立ってもうまくいかない例はたくさんありますから、そういう人に新規事業を任せれば経営マネジメントを学ばせるいい機会になります。
 

 
 
■まとめ
 
ここまで述べてきたことをまとめると
 
◆自社の強みを再認識する
◆新事業の事業領域は、共通市場か共通技術だけにする
◆既存市場を細分化する
◆満たされていないニーズを探す
◆「棲み分け」と「食い分け」の視点から対応するニーズを選択する
◆多角化の方向は、川上・川下・横への展開
◆専門化と多角化を同時に行う
 
大手が入り込めないような小さな独自市場を創り出し、戦わずして勝てる「藤屋式ニッチ戦略によるマルチプル・ニッチャー」。この多角化戦略で、生命力の強い、高収益企業を目指してみてはいかがでしょうか。