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【2019年11月号】部下を育てて強い組織をつくる 令和的、新しいリーダー像を探る

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元号が「令和」となり、働き方改革の施行やAIの進展等々、時代が大きく変わるなかで、現在、チーム組織にはどのようなリーダーが求められているのか。シニア・ミドル世代のキャリア開発で数々の実績をあげてきた株式会社日本マンパワーの片山繁載氏にうかがった。


 
 
■人を育てる力が弱くなった今のリーダーたち
 
「これからのリーダー像を探る」というテーマを前にしたとき、今のリーダーに感じるのは「人を育てる力が弱くなってきた」ということです。部下との関係性を築こうという意思が希薄というか、相手の中に一歩踏み込んでいく力が弱くなっているように思えます。一体どうしてこうなってしまったのでしょうか。
私が社会人となった40年前の日本は、高度経済成長を遂げ、「Japanas NumberOne」と呼ばれていました。そんな日本的経営の強さはどこにあったのか。それは仕事熱心なリーダーたちが経営を支えていたからです。「明日はもっと組織を成長させてやる」というビジョンや目標、信念がワンセットとなって息づいており、それに向けて部下をきちんと育てていました。
そしてバブルが崩壊した後、低迷が続いていた1997年頃から、さらなる追い打ちをかけるように金融不安や失業率の急上昇、財政改革の挫折など、自信喪失の時代に入っていきました。
 
 
■昭和、平成とリーダーに何が起きたのか
 
すると、先の仕事熱心なリーダーたち(シニア・ミドル世代:40〜50歳以上)が行っていたやり方や頑張りが否定され始めたのです。戦後、管理者研修のお手本だったMTP研修*なども受けなくなっていきました。財務だとか、人間関係だとか、モチベーションの上げ方とか、今すぐ必要と思われるスキルだけをワンチャンスで身につければいいと、目先のスキル習得が主流となったのです。
すると何が起きたのか。リーダーとして身につけなければならないマネジメントの基礎がおろそかになってしまいました。確かに一つひとつのテクニックは身についているのですが、リーダーとしての器を持たないまま、リーダーとしての深い自覚が生まれてこないまま、現場に出てしまうのです。
リーダー哲学のようなもの、例えば「好調であっても次の事業を調査・探索しておくことを忘れるな」「新商品の販売比率を必ず何%か目標設定に入れること」「利益は今日の消費のためではなく未来への投資のためにある」といったことを、染み入るように繰り返し叩き込む管理者教育が手薄になったことは否めません。
*MTP(ManagementTrainingProgram)は、1950年代にアメリカより日本に紹介、導入された管理者研修プログラム。戦後の日本経済の復興、発展に貢献してきたことで知られている。現在、一般社団法人日本産業訓練協会が提供。
 
 
■「成長支援型リーダー」に期待
 
そして今、求められるリーダー像といってもさまざまですが、私が注目しているのは「成長支援型リーダー」です。
営業の部下が、例えば昨年の予算が3000万円で、今年は5000万円になった。お客様がついた。お客様と交渉できるようになった。できなかったことがどんどんできるようになり、壁を乗り越えることができた│。そうした部下の身についた力をどのように自覚するかを本人のキャリアの成長と結びつけて語ることができるリーダーは有能です。人の多様性を大切にし、長く働いて貢献をしてもらうため、一人ひとりを丁寧に育てる「成長支援型リーダー」こそ、これからの時代に求められるリーダーだと思います。
 
 
■青山学院大学陸上競技部監督
 
部下を育てることは、組織を育てることとイコールです。その好事例は、なんといっても青山学院大学陸上競技部の原晋監督です。どうやって、いまどきの学生をやる気にさせ、陸上競技部を強い組織に育てたのでしょうか。
原監督は、挑発と実践を繰り返して、選手たちの才能を開花させるのに成功しました。その方法は、ひと月の目標と練習方法をA4の用紙に毎月書かせます。当然、先月よりも少しでもレベルアップできる目標と練習方法です。こうすることで、挑戦する→気づく→挑戦する→気づくというサイクルを選手たちの中に根付かせました。自分を甘やかさず、可能性を追求していくわけです。やがて練習を選手たちが自分で管理する自主管理型に変わっていきました。
そうして次はチーム作りです。原監督は、駅伝シーズンに入ると、本番を想定したメンバーを毎日のように発表します。選手たち一人ひとりに自分の現実的な立ち位置を理解させるためです。すると選手は「明日はメンバーに絶対に入ってやるぞ」「今日もメンバーから外れないように頑張るぞ」と気を緩めずに努力を続ける。こうやって、箱根駅伝・総合4連覇を達成したのです。
 
 
■個人と組織の関係性を考えよう
 
青山学院大学陸上競技部の選手のパフォーマンスとチーム作りを参考に、個人と組織の関係性は次の3つがポイントになるでしょう。
 
1.管理(支配)のしやすさと、個人の自由度を考える
管理のしやすさだけを追求したら、「俺の言うことを聞け」「はい、わかりました」となり、絶対に新規の発想は生まれてきません。ですから、個人の自由度、組織の自由度に着目して、チームの可能性をメンバー自らが引き出すようなマネジメント姿勢が必要です。
 
2.メンバーの目標に対するコミットメント(必ずやり切るという決意)の引き出し方を考える
仕事や組織目標を自己目標化し、ヤル気やコミットメントを、個人・組織が持続的にやろうとするように仕向けていくことです。
 
3.持続的に成果を生む行動の源泉となるモチベーションの持たせ方を考える
目標達成は、単なる評価プラス個人・組織の成長としての意味を理解させ、仕事をノルマと報酬だけでなく、もっと、自分たちにとって望ましい成長過程になることだと捉えさせます。
 
 
■組織形態とリーダーシップ
 
次にメンバーにも組織にも、リーダーに求められる大切な能力、「リーダーシップ」を発揮するにはどうすればいいでしょうか。
リーダーシップの発揮は、まず組織の環境とその使命のあり方に応じて決まります。目標達成志向や率先垂範型の、いわゆる「オレが走るからついてこい!」では組織は持続的に成長させることはできません。持続成長できる組織としては「ネットワーク型組織」です。これを経営トップも考えていかねばならないでしょう。
図①をご覧ください。組織Aは、従来よくある階層重視で、上が決めたことを下は忠実に実行していく組織です。所属組織のために働くことが最優先され、隣の部署の手を借りたり、貸したりすることもありません。指示命令系統を重視するので上からの指示以外は動かない。今後こういう組織はまず長続きしないでしょう。
一方、組織Bは、自律・分散ネットワーク重視で、必要な目的を自分たちが作り出す組織*です。グローバルな環境変化に即応するため、迅速に市場や顧客対応していくため、目的に応じた自在な組織化が優先されます。
つまり、Bのように組織や肩書きを越えて知恵を出し合わないと、Aの縦割り組織の「オレの部下に手を出すな」では強い組織はできなくなっているのです。Bで隣の組織との結節点にいるL1やL2の人がリーダーシップをとっていくことになるので、リーダーは自分の立ち位置を自覚する必要があります。
*自律・分散ネットワーク組織は、野中郁次郎氏が提唱している組織

 
 
■課題を通してリーダーシップ能力を習得する
 
では、ネットワーク型組織で必要なリーダーシップは、どうすれば習得できるのでしょうか。
発揮されるリーダーシップは“課題の性質”によって異なってきます。リーダーシップ能力が発揮される機会となる「課題へのアプローチ」は、大きく次の2つ(図②)。
 
1.組織的正解が見えている課題(発生型課題)へのアプローチ
組織目標の達成管理に必要な職務遂行能力とその効果・効率的な行動実践で所期の成果が出せる課題です。
例えば、今期の予算達成まであと5%をどうするか。これは課題が明白であり、課題意識を共有することで、個人の役割に従って、一生懸命に力を合わせればいいのです。リーダーは、行動と成果が比例する因果関係を把握するように努めればクリアできるでしょう。
 
2.何が正解かがよくわからない課題(設定型課題)へのアプローチ
働く人や価値観の多様性を理解し、メンバーが望む、もっと良い組織、もっと快適な働き方、助け合える人間関係、組織や仕事との強い一体感、高い仕事意欲の保持など、組織のあり方や機能を良くするための創造的な課題です。
例えば、「採用した新人の育ち具合がよくなく、これからというときに辞めてしまう」「若手や中堅層にやらされ感が強く、会議などで前向きな意見や発案がでてこない」。
これらの課題には決まった答えはなく、当事者の社員が何を気遣い、何が嫌になっているのか、何があれば良いのかなど、リーダーとメンバーがハラを割った話し合い、つまり、対話が必要になってきます。

 
 
■個人と組織の関係性を強化できるリーダーに
 
対話することで、さらにリーダーに求められるのが前述にもあった個人と組織の関係性、これを良くする能力・スキルです。つまり、関係性理解と関係性を強化するためのマインドと行動化スキルの習得。これが重要だと、私は今、強く思います。
リーダーと部下の関係、社長とリーダーの関係、お互いの信頼感、目標への共感、協働感があるかないかです。関係性の質が悪いのにいい成果は生まれません。
こうした関係性を粗雑に扱っていると「オレの言いたいことはわかっているはずだ」「今期の経営方針や目標は書類に書かれているだろ」となります。でも、部下がその目標に本気で取り組んでいるのか、本音はどう思っているかなんて、本人ときちんと話してみないとわかりません。だからこそ「ハラを割った話し合い」が大切なのです。
話し合いのとき、「オレもこういう人間だから、時たまヘマをするんだよ」とリーダーは自分の弱みをさらけ出すのも大切です。「オレは強いんだ」「私がチームを引っ張っていくんだ」と言うのは前時代的な価値観によるものといえます。
 
◉チームみんなに活躍してもらうには、私は何をしたらいいのだろうと気づくリーダー
◉上から目線ではなく、メンバーと自然な向き合い方ができるリーダー
◉強気のスタンスを外し、メンバーの考えや気持ちの奥底にある感情を、優しくしなやかに聴く努力ができるリーダー
◉人の感情・心を大切にすることができるリーダー
 
このようなスタンスと能力を持ち、キャリアの自律したリーダーが、これからの令和にふさわしいリーダーといえるのではないでしょうか。
 
 
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