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【2019年9月号】部下のやる気を高める!モチベーション・エンパワー Part2

ニュース

前号では、自身や他者を動機づける「モチベーション・エンパワメント」の5つの要素を、JTBコミュニケーションデザインの野本明日香氏にうかがった。今回は、その5つの要素の生かした方を、さまざまなケースを通して実践的に解説してもらった。
※本稿では「エンパワメント」を従業員の本来の力を引き出し、成果と従業員の充実感を生み出すという意味とする

ビジネス現場で生かす10のケース

モチベーションを高める5大要素
前回お話した「モチベーションを高める5大要素」について少しおさらいをしておきましょう。

①身体の状態
モチベーションは体の中で生まれますので、まずは「身体の状態」を整えることが大切です。食事・睡眠を充実させるとともに、筋肉を動かすなど運動をすることで脳内のモチベーションを高める物質がたくさん出やすくなります。失敗などで気分が塞ぎ込んだら、筋トレや運動は手早く元気になれる方法です。

②アウトカム
「アウトカム」とはゴールや目標、欲しいモノのこと。「私の理想の状態はこれだ」「これを手に入れたい」というイメージを明確に持つことが大切です。「今日一日しっかり働いて、美味しいビールが飲みたい」「自身が成長してこんな姿になりたい」というのもアウトカムといえます。

③ミッション
私たちの働くモチベーションの最も核にあるのが「ミッション」です。自分は仕事を通じてどのような使命を果たすのか、すなわち自身の命を使って果たすべき役割は何なのか、がミッションとなります。企業なら、自分たちの組織の存在意義、そして従業員は、何のために、誰の幸せのためにこの仕事をするのかがミッションになるのです。

④柔軟性
目の前の出来事にどういう意味づけをするのか、その事実をいかに生かすか、それが「柔軟性」です。例えばクレームに対して「もううんざり。この仕事は辞めよう」と思うか、「このクレームには何か意味がある。ここから何を学ぼう?」と思うか。どのように受け止めるかは自分の選択です。周囲の環境にしなやかに適応し、起こる出来事を全てチャンスに捉えるのが「柔軟性」です。

⑤刺激
「刺激」はモチベーションを高めるのに重要な要素といえます。もし仕事がマンネリ化しているのなら一緒に仕事をする人を変えたり、席替えや模様替えをしたり、通勤の経路を変えたりするのもいいでしょう。さらに、テンションが上がる音楽や映画、食べ物やアート、元気になるモノ、演劇やコンサートなど、全力でエネルギーを放出されているモノに触れるのも大きな刺激となるはずです。
これら5つの要素を、ビジネス現場でどのように生かしていけばいいのか。さまざまな職場での問題を通してアドバイスしたいと思います。(以下の質問内容は、野本氏のもとに寄せられた実際の質問や相談をベースに、エスカイヤニュース編集部が作成)

【身体の状態】

1. 自分の身体をよく観察し、クセを知ること

Q. 1日のうちでも、モチベーションが上がるときと下がるときがあるように思えます。下がるときは集中力が欠けているからなのでしょうか。

A. 1日の中でも生産性が上がる時間帯があります(左図参照)。食後しばらくしてから、午前なら11時ごろ、午後なら15時あたりにピークがきますので、脳が一番よく働くこの時間帯に大事な仕事をもってくるといいでしょう。また、集中力が続くのはおよそ45分、最大でも120分といわれています。集中力が下がる時間帯には、あまり集中力を必要としない仕事をするなど、人の身体の調子にはバイオリズムがあるので、その波をうまく利用するのです。ふだんから自分の身体をよく観察し、自身の癖をよく知ることが大切です。

2. 職場の環境を変えてみる

Q. あるカタログ冊子の制作を15年間担当し、仕事はルーチン的な作業となっています。だからか「新しい企画を」と言われてもアイデアが浮かんできません。どうしたらいいのでしょうか。

A. できるかぎり環境を変えてみましょう。手始めに、いつもディスカッションする相手、席、インテリア等、目に入ってくるモノを変えてみましょう。15年もやっているのなら日本のカタログ事情の大概のことはご存じでしょうから、海外のサイトを見るなど、インプットの幅を広げるのも一つです。海外だとカタログの作り方や使われ方も日本とは違うはず。そこからインスピレーションを得ることもできるのでは。

【アウトカム】

3. リーダーは明るく元気でいること!

Q. このところ顧客からのクレームやミスが続き、メンバーは自信を無くし、チームの雰囲気も陰鬱です。なんとかチームを盛り上げたいのですが、いい方法はないでしょうか。

A. まずはリーダー自身がご機嫌で仕事をすることです。「ミラーリング」と言って、私たちは無意識に目の前にいる人の言動や仕草など、鏡を見るかのように真似をします。これはモチベーションも同じこと。周囲に伝播していきますから、目の前の人は自身の鏡だと思うことです。自身がメンバーを元気付ければ、元気になったメンバーを見て自分も元気をもらえます。

4. 「これならできそう」と思わせる

Q. 当社も女性が活躍できる会社を目指そうと、複数の幹部候補を選びました。するとその一人が「なぜ私ですか?」と辞退したいと。優秀な人材なのでなんとか管理職に育てたいのですが。

A. 「女性管理職を増やしたい」という相談はよく受けますが、現場の女性たちはなりたくないというのが大半です。理由は2つに集約できます。1つは管理職に魅力を感じていないから。2つ目は自分にはできそうにないと思っているからです。一般的に男性は自己評価を高く見積もり、女性は自己評価を低く見積もりがちで、自分にはとても無理と思っていることも多いのです。
そこで「あなたのやってくれたこれが助かった」「あなたのここが強み」と、一つ一つ承認の言葉をかけて、「これならできそうだ」「こんな管理職ならなってみたい」と思えるよう承認するとともに、彼女にとって魅力的と思える管理職像を創っていけるようサポートをしていきましょう。

【ミッション】

5. 文句ばかり言う人には役割と責任を伝える

Q. どんな仕事にも文句を言う男性部下がいます。特に変更を嫌がり、きちんと理由を説明しても「最悪」と嘆き、チームの士気を下げてしまうのです。どのように指導すればいいのでしょうか。

A. まずは、変更も彼のすべき仕事であることをきちんと伝えるべきでしょう。文句や悪態をつくのが癖になっている可能性もあります。自分が周囲へ悪い影響を及ぼしていることに気づいていないのかもしれません。率直にチームの士気を下げていることを伝えるのもよいでしょう。文句には同調せず、彼の役割と責任をしっかりと認識させましょう。

6. 繰り返し問い掛けていく

Q. 20代後半の部下で、いわれた事、指示した事は完璧に仕上げるのですが、それ以上の事はしません。自らやってみる楽しさを感じてほしいのですが……。

A. 指示した以上のことを部下がやってくれることをあなたが期待しているのなら、それをまずはきちんと伝え、認識してもらうことです。例えば「ここまでの指示は出すけれど、そこから先は自分で何らかの方法を考えてほしい」と指示以上の事をやってほしいと最初にきちんと伝えます。それを言わないで、やってくれたらいいなと期待しても部下には伝わっていません。
そして、「これについてはどう思う?」「何の役に立っていると思う?」とさまざまな問い掛けを繰り返ししていけば、あなたがいなくてもその問いが頭をよぎり自ら考えるようになるでしょう。

【柔軟性】

7. 陰気臭い職場には「おしゃべり作戦」

Q. 異動で新しい職場に来て間もないのですが、とにかく陰気臭く、挨拶もなく、報告も目の前にいるのにメールで済ませようとします。皆のモチベーションを上げる方法はありませんか?

A. とにかくリーダー自らがよく喋り、明るい雰囲気を作ることです。何でもメールで済ませようという職場は動きが停滞しているもの。「話す」ことでそこにエネルギーが発生するので、いろんな人と対話してエネルギーの橋を架け合っていけば、澱んでいた空気も動き出すはず。一日中パソコンに向かってずっと黙っていると、極端ですが顔の筋肉が喋り方を忘れてしまいます。気軽に話しやすい環境を作ること。雑談のしやすい職場というのを目指してもいいかと思います。

8. 顧客の要求の理由を深く理解する

Q. 決済システムのプロジェクトリーダーを務めています。短期納品なのに2度も仕様変更があり、顧客に振り回されて皆うんざり。やる気を取り戻すにはどうすればいいでしょうか。

A. 振り回されているという捉え方を変える必要がありそうです。変更があるということは得意先もそれ以前に迷っていたのかもしれず、予測して別案を提案していれば迷わせることはなかったのかもしれません。顧客の要求の「なぜ」「何のために」といった理由や目的を深く理解できれば、顧客にとって最良の選択肢を提案できるはずです。

【刺激】

9. 自分をメンテナンスすることも大切

Q. 今のチームもようやく軌道に乗り、成果を上げているのでホッとしたのか、最近、やる気が出ません。新しいことにも億劫になってしまいます。どうしたらやる気が出てくるでしょうか。

A. 人は常に全力疾走する必要はありません。時に、エネルギーをたくさん使ったあとは、自分を充電し、メンテナンスする時間も必要です。美味しいものを食べるとか、温泉に行くとか、新しい分野の勉強などインプットに努めるのもいいでしょう。次の目標を定めるのはそれからでも良いのです。

10. ボキャブラリーを増やして褒め上手になる

Q. 幹部研修で「褒めることが大切」と教わりましたが、なかなか褒めることができません。どうしたら褒めることができるでしょうか。

A. まずは褒めるボキャブラリーを増やしましょう。上の世代のスパルタ的な環境で過ごしてきた方は褒められた経験があまりないので、褒める言葉を知りません。ですから、いざ褒めたくても言葉が出てこないのです。普段から褒める言葉を手帳に書き留めておけば、自然と口に出てくるようになるでしょう。身近な人や芸能人などで褒め上手な人を参考にするのも良いですね。

参考:野本明日香著『たった5つでモチベがあがる技術』(日経BP社)