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【2018年4月号】仕事でいっぱいいっぱいな 状況から抜け出す方法

ニュース

やろうと決めた改善や改革が、経営者をはじめ、社内の皆が仕事でいっぱいいっぱいなために、遅々として進まないー。このことは、どこの企業、職場でも切実な問題としてあるはずだ。どうすればそんな状況から抜け出せるのか。社会保険労務士でもある経営コンサルタントの大庭真一郎氏に、その「仕事でいっぱいいっぱいな状況」を作り出している原因を伺った。

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仕事でいっぱいいっぱいがジリ貧経営を招く
 
 私は経営コンサルタントの仕事に就いて25年になりますが、「仕事でいっぱいいっぱいで、改善、改革が進まない」という状況をたくさん見てきました。
私 「この間の打ち合わせで決まった○○に関する計画の取り組みは、進んでいますか?」
社長 「すみません。実は、まったく進んでいないのですよ」
私 「どうしてですか?」
社長 「忙しくて、時間が取れなかったもので……」
 この会話を、私を社長に、社長を管理職者に置き換えてもいいでしょう。このように皆でやろうと決めたことが遅々として進まない現象が当たり前のように起きています。これが、企業の業績が振るわないことの根本的な要因の一つといえます。
 
 
 
一番重要なことは環境変化に対応すること
 
 企業を取り巻く環境は常に変化をしています。日々の「経営活動」を、海を航海する船に例えると、次のようになるでしょう。
「世の中という大海原で、常に押し寄せてくる環境変化という波を上手にかわしながら、会社という船を前に進め、船の強度(=経営の安定性)を増しつつ、船の大きさ(=事業規模)を大きくしていく」
 重要なのは「環境変化への対応」です。押し寄せてきた波(=環境変化)を上手にかわすことで、船(=会社)は順調に前に進んでいき、その先に新たに成長する仕組みが生まれてくるのです。
 
 
 
実行を伴わなければ業績は改善しない
 
 環境変化への対応を図りながら業績を改善していくためには、実行し続けることが大切です。
 つまり、「実行を重ねる」ことで、さまざまな結果が生まれ、それをヒントにして何がベストな選択なのかということを見極めることができるからです。
 計画を立てる段階では見えない要素がたくさんあります。実行することが見えないものを“見える化”させることにつながり、それによって得た結果を検証していくのです。
 そこで役立つのが皆さんもご存じの「PDCA」によるマネジメントです。
 さまざまな経営活動の場面で活用できる「PDCA」。このプロセスを繰り返すことで、経営の安定性を
確保しつつ企業業績を高めていくという、経営の本質からブレない形での舵取りが行えるようになります。
 
 
 
 
ジリ貧経営の本質
 
 ジリ貧経営にあえいでいる企業は、「PDCA」によるマネジメントのPlan〔計画〕とDo〔実行〕の間が分断されていることが多くあるようです。
 業績を改善するためのPlan〔計画〕を考えたのにもかかわらず、Do〔実行〕を伴わないのは、考えただけの状況に甘んじてしまっていて、Planを考えることが目的になってしまっているのです。
 実行を伴わないから当然結果は生まれてきません。ベストな選択を見極めるための材料が手に入らないのです。そのような状態で環境の変化が押し寄せてきて、経営は後退してしまう状況となるのです。
 PlanとDoの間が分断されてしまう本質的な原因は、実行に係るべき人たちがスムーズに行動に移すことのできる環境にない。すなわち、溢れかえる仕事でいっぱいいっぱいになっていることにあるのです。
 
 

 
 
いっぱいいっぱいになってしまう原因
 
 では、なぜ仕事でいっぱいいっぱいになってしまうのでしょうか。その原因には、組織的な問題と個人的な問題が考えられます。
組織的な問題
①ヒトに仕事をつけてしまっている
 中小企業では、特定の人物だけが特定の業務全般を担当するという構図があります。つまり、その人にしかできない業務というものがたくさん存在してしまう状況です。そうなると、仕事の進行が他人の仕事の進み具合によって左右されてしまうことも起きます。
 例えば、ある商品開発の仕事がA、B、Cの3つから成るとして、Aを大庭さんだけ、Bは奥村さんだけ、Cを小林さんだけが担当しているとしましょう。大庭さんも奥村さんもすでにAとBを終えているのに、Cの小林さんが遅れることで、その商品開発の仕事が終わらないわけです。
 そのような結果が積み重なることで、皆が仕事でいっぱいいっぱいな状況を生み出してしまうというわけです。
 ヒトに仕事をつけることは、従業員の働き方にも影響を及ぼします。自分以外に業務をこなせる人
がいないので、休みたくても休めなくなります。そのことが、従業員の士気低下やメンタル不全といった弊害を生み出していくことになるのです。
②一人一人が仕事を抱え込んでいる
 中小企業には、一人一人が仕事を抱え込んでしまっている状況も多くみられます。臨機応変に仕事の見直しを行い、他人に仕事を振るといったことを行わない、または行えない人が多いのです。そのような中で新たな業務が生じることにより、仕事でいっぱいいっぱいになる状況が生まれてしまいます。
 抱えている仕事量が個人のキャパシティを超えてしまうことが、長時間労働や残業コストの膨張、生産性の低下といった企業にとっての弊害を生み出すことをトップは認識しなければなりません。
③無駄な会議が多い
 仕事でいっぱいいっぱいな状況に陥っている会社に共通する特徴として、無駄な会議が多いようです。
 場当たり的な会議を行うことで、毎回のように予定時間を大幅に超えてしまうのです。加えて、「結局、何が決まったのかがわからない」、「会議をしたことによる変化が何も生まれてこない」、「だから再び会議をすることになる」、「それにより、会議に拘束される時間が増え続けてしまう」という悪循環が生じてしまい、仕事でいっぱいいっぱいになる状況づくりに拍車をかけているのです。
 
 
個人的な問題
①仕事の進め方に計画性がない
 毎朝、仕事を始める前に今日一日の仕事のスケジュールを立てている人は、意外と少ないようです。出勤後、席について、思いついた仕事から手を付けたり、
朝一番に上司から指示された仕事から取り組んだりする人がほとんどではないでしょうか。そのような状況で新たな仕事が発生することにより、未処理の仕事が積み重なり、いつも仕事でいっぱいいっぱいに……。
 計画なく仕事を進めると、中途半端な状態のままの仕事が増えていきます。中途半端な状態のまま放置した仕事を再開する場合、放置するまでの過程を頭の中で整理する時間が必要となるため、計画通りに始めから終わりまでを一気に仕上げたときと比べて、格段に時間がかかります。
 また、誰もが計画性のないまま仕事を進めてしまうと、お互いに振り回されることになります。上司が思いついたように仕事を指示してくる。先輩がこちらの状況を考えずに仕事を振ってくる。すると効率も悪くなり、時間の無駄がたくさん生じてしまいます。
②ダラダラと仕事をしてしまっている
 従業員の残業が減らない大きな理由の一つとして、ダラダラと仕事をしていることが挙げられるでしょう。
 言い方を変えれば、残業することありきで仕事をしているのです。残業代は割増賃金なため、理屈の上では、従業員が残業をすればするほど会社は儲からなくなります。ダラダラ仕事は、従業員自身の首を絞めることにもつながります。
 仕事のスピードが落ちることで、処理できない仕事が増えて、仕事でいっぱいいっぱいになる状況に追い込まれてしまうからです。
 ダラダラ仕事に対して厳しい指摘を行っている会社は少ないようです。従業員や部下に対してクリエイティブな発想を求めている経営者や管理職者の姿をよく目にしますが、ダラダラ仕事をなくさない限
りは、クリエイティブな発想など生まれるわけがありません。
③完璧を求めすぎている
 仕事でいっぱいいっぱいになっている人に共通する特徴として、一つ一つの仕事に対して完璧さを求めすぎていることも挙げられます。
 例えば、資料を作るときにレイアウトにこだわって無駄な時間を費やしていたり、また、自分が納得できる状態でなければ後工程の人に仕事を回さなかったりとか。
 会社にとって従業員が働く時間(=人件費)は最大のコストであり、個人の自己満足に影響されることは、あってはならないことです。それなのに、多くの会社が、できたかできなかったかの結果のみを評価し、出来上がるまでのプロセスや時間管理に関しての評価がおざなりになっています。
 仕事の成果を従業員や部下がアピールしてきたときに、経営者や管理職者は、成果が生み出されたプロセスが適正であったのかどうかの判断も行う必要があります。
 次回は、仕事でいっぱいいっぱいにならない対策を考えていきましょう。