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【2018年11月号】社員のコミュニケーションを良くすれば 品質も改善される

ニュース

「経営コンサルタントに、指導してもらう」。つまり、コンサルティングを受けるとは実際どのようなものなのだろうか。今回は「組織の活性化」に取り組んだ事例を、人間力を支援する組織開発コンサルタントの鳥澤謙一郎氏と当該のチームリーダーだったK氏に話をうかがった。


 
ワークショップはファシリテーターの人柄で決まる
 
― 鳥澤氏
私とKさんの会社との最初のお付き合いは、10年ほど前でした。「社員を元気にしよう」というプロジェクトに参加していた知人の紹介で、一人のファシリテーター※1としてお手伝いをさせていただきました。私が行ったワークショップでは5人1組で真ん中にリーダーを置き、他の4人は目を閉じて手をつないで囲みます。8mほど離れたゴールまでリーダーの指示だけでたどり着くのです。
これはチームとして動くことの難しさ、コミュニケーションの難しさを知るもので、「目隠しUFO」と呼んでいます。これがメンバーの素の行動特性が出て、分かり、とても楽しかったようで、その中にKさんの上司がおられて、私のことをずっと覚えていてくださいました。
 
― K氏
一方で私は2013年ごろ、たまたま知人に誘われて鳥澤さんのDC(Diversity Communication〔ダイバーシティー・コミュニケーション〕)塾というセミナーに参加したことがありました。鳥澤さんが弊社でワークショップを行ったことは知りませんでした。先の目隠しUFOのようなコミュニケーション支援を図る内容で、これを会社でやったら面白いだろうなと思っていました。
でも何よりも鳥澤さんの人柄が良かった。いろいろなワークショップがありますが、組織課題にマッチしたキャラクターを持つファシリテーターを選ばないと、そのワークショップが生きてきません。私自身もワークショップを開催しますので、一緒にワークショップのコンテンツを考えたことは、とても勉強になったのを覚えています。
 
※1 ファシリテーター/グループ活動が円滑に行われるようにする支援者のこと。
 
 
品質改善には社員間のコミュニケーションも必要
 
― 鳥澤氏
DC塾の後、再びお会いしたのは2年ほどしてから。2016年4月に連絡をいただきました。
 
― K氏
上司から「組織をなんとかしたい」と相談を受けました。私も同感でした。というのは当時、品質の問題で顧客クレームが頻繁にありました。その要因を探っていくとスキルの問題などいろいろある中で、考え方の行き違いなど「社員間のコミュニケーション不足」が要因の1つとして浮き彫りになりました。
私が主導して取り組んでも良かったのですが、外部の人のほうがいいのではということで、上司が挙げたコンサルティング候補の中に鳥澤さんの名前が入っていたのです。驚くとともに鳥澤さんのキャラクターが必要だと感じて、即、鳥澤さんにお願いしようと進言しました。
 
― 鳥澤氏
Kさんとの打ち合わせでは、あくまでも最終目標は「品質改善」であり、その対策の1つとして縦割り組織の中でいかに横のつながりをスムーズにしていくかでした。
 
― K氏
私たちの仕事は、役割を分担してしまうと、あとは社内の人とコミュニケーションをとる必要がそんなにありません。パソコンを相手にすることが多く、隣の人と会話することも少ない。確かになんとかしないといけない課題といえました。
 
 
▶セッション第1回目
問題の要因を明らかにし、ゲームを通して「気付き」を促す
 
― K氏
第1回目のセッションは2016年6月。まずはコミュニケーション不足の現状を知ってもらうために例の「目隠しUFO」を行いました。このときは新聞を広げて真ん中をくり抜き、そこにリーダーが入り、メンバーは新聞の4隅を持ちます。リーダーがゴールに向かって右、左と言って指示するのは同じです。
リーダーが「右」と言っても、新聞を持つ人はそれぞれ違う方向なので、自分のことだけでなく他のメンバーの位置も考えなくてはいけません。単純なゲームですが、相手の立場になって考える必要がありますから、なかなか難しいのです。
 
― 鳥澤氏
制限は5分以内で。破れたらやり直しです。限られた時間内で破らずにゴールという結果を出さなければならない。まさに仕事と同じです。納期というゴールに向かって、チーム一体となってコミュニケーションをとらないと達成できません。
 
― K氏
ゲームを行う前に、「品質改善」のための課題や、何がクレームの要因になっているのかということを付箋に書いて白板に貼り、改善点を明らかにしておきました。その改善点の1つにコミュニケーション不足がある。だからこの目隠しUFOで、「相手の気持ちになって行動することが大切だ」と、それぞれが気付く。というストーリーは、事前に鳥澤さんとそうなるように考えていました。
 
 
▶セッション第2回目
自己開示で、本来の自分の気持ちに気付く
 
― K氏
セッションの終わりに全員に行動目標を書いてもらいます。次回に向けての自分への宿題です。1回目はまだ最終テーマの「品質改善」にフォーカスしたセッションだったので、“お客様の期待に応えるための行動目標は?”という仕事寄りの設問でした。「お客様の期待を上回る提案をすること」「お客様の話をよく聞くこと」といった内容を書いている参加者がいました。
 
― 鳥澤氏
1回目の目隠しUFOを通じてコミュニケーションの大切さに気付いた人もいました。それで、2回目はコミュニケーションに大切な「自己開示」を行いました。
言いたいことが言える関係性を育むことを目標に、良いときもあれば、悪いときもあったという自分史を語ります。いわゆる「人生曲線」です。
 
― K氏
いきなり“語れ”と言われても無理です。これもゲーム性があったほうが取り組みやすいので数字や風景が描かれたカードをめくって、出た絵柄に合わせて自分史を話していくのです。
 
― 鳥澤氏
とはいえ、自分のことを語るのは苦手な人もいて、このワークショップに参加するのが辛いと話される方も。もちろん無理強いはしません。辛いことがわかる。それもまた自分を知ることになりますから。
 
― K氏
2回目の行動目標の設問は「自分が仕事で大切にしたい行動は?」で、1回目より、より内面にフォーカスした問いにしました。参加者は「お客様の期待に応えるために“早さ”を大切にしたい」「お客様に感謝を持って接すること」などと書いています。なぜ「感謝」という言葉が出てきたのかという理由も書いてあって、「これまで“感謝”という気持ちを持っていなかったから」とのことでした。
 
― 鳥澤氏
2回目ともなると日本人らしいというか、「感謝」という言葉が出てきましたね。本当はそういう思いを持っていたのに、自分でも気付かなかったのかもしれません。
 
 
▶セッション第3回目
自己開示をさらに深め、感情で思いの背景を知る
 
― K氏
セッションは3カ月ごとに行われたので3回目は12月でした。1年間の喜怒哀楽を「振り返りシート」に書いてもらいました。2回目の自己開示をさらに深めた形で、その年、一番心に響いた出来事についての自己開示です。
 
― 鳥澤氏
単に出来事を思い起こすだけでなく、そのときにどう思ったのか、どのように感じたのか。感情面をフォーカスして自己開示していきます。これを4〜5人のグループで行い、「あのときはこのように感じた」と話すだけでなく、それを聞いた人たちもどう思ったのか。そういう対話も行いました。
 
― K氏
話しづらい人もいますので、話しやすい状態を作るためにもアイスブレイク※2なんかが必要ですね。ただ、ワークショップそのものは明るく陽気に行いますので3回目ともなると、自分を出すことに慣れてきます。1回につき3時間ほどですが、あっという間に過ぎます。
 
― 鳥澤氏
このセッションは「感情を表す」ことですが、エンジニアたちは普段、感情を表すようなことはあまりないことでしょう。でもコミュニケーションを図る上で、感情は相手の思いの背景を知ることができます。何故怒っているのか、喜んでいるのか、感情を通してわかってきます。
 
― K氏
振り返りシートには、仕事のことばかり書く人もいれば、プライベートを大切にしたいという思いを書く人もいます。どちらが良い悪いではなく、その思いが素直に出せるかどうかなんでしょうね。このときの行動目標は「自分の仕事で大切にしたい喜怒哀楽とは?」でした。書いてきたことは「楽しく仕事をしたい」「日々笑う」が印象的でした。
 
※2 アイスブレイク/ワークショップなどで、初対面同士の緊張をときほぐすための手法(簡単なゲームや自己紹介などを行う)。
 
 
▶セッション第4回目
組織の目標と自分の目標
 
― K氏
4回目は2017年の5月。毎年、部長が新年度の組織運営や事業目標といった部の方針を説明します。それをきちんと理解しているのかどうか、本来の目標であった「品質改善」に向けてストレートに投げかけてみました。
 
― 鳥澤氏
アイスブレイクとして方針内容の虫食いテストを行いましたが、残念ながら皆さん、聞いていないことがわかりましたね(笑)。聞いていなかった自分に気付く。それでいいかと思います。部長に報告すると「ちゃんと言いましたよ。伝わってなかったのかな?」と(笑)。
 
― K氏
4回目の本題は、部長の方針説明で印象に残っていること、組織でチャレンジしていくこと、その中で自分が大切にしていきたい価値観は何? ということでした。つまり、組織の目標はこうだけれど、それに対する自分の目標は何? ということを書いてもらいました。
 
― 鳥澤氏
組織の目標を達成するには、自分の目標と価値観がわかっていることが大切です。
 
― K氏
毎年各自の年度目標は立ててきましたが、自己開示を経て内面を掘り下げてきたので、2017年度は少し変化がありました。人ごとではなく、自分と会社の関係性で見る視点が芽生えていました。

 
 
関係性が進むと助け合いが始まって、品質改善にもつながる
 
― 鳥澤氏
他の変化として、クレーム件数も減ったんですよね。
 
― K氏
そうです。そして大きな変化として「助け合い」が始まりました。「大丈夫? 何か手伝おうか?」と声を掛け合うようになりました。その逆で「ちょっと大変なんだけど」と言うのも自己開示の影響かもしれません。
 
― 鳥澤氏
自己開示がないと他者理解も難しいものです。何よりもヘルプが言えるのはいいですよね。問題を抱え込まない。そして助け合ってみんなで品質を上げていく。それがゴールでもありました。
 
― K氏
コミュニケーションも進むと、気付きが広がっていきます。「ここ、危ないんじゃないの?」と気付いてすぐに言い合えるようになりました。
 
― 鳥澤氏
コミュニケーションがいいとミスがあってもすぐに報告し、素早く対応できるので品質は上がります。ミスがあったときにそれぞれが当事者意識で捉え、協力し合えるチームは理想的です。
 
― K氏
ミスがあっても「それは俺じゃないし」「じゃお先に」なんて、そんな職場って、辛いですよ(笑)。
 
― 鳥澤氏
関係性が低いと感情、本心を隠すのでゴールを目指しても組織として機能しません。
 
― K氏
ワークショップでそんなに変わるかなという懐疑的な声もありましたが、回が進むにつれ、クレーム件数は減っていきました。あれから人員も入れ替わりましたが、あのワークショップを受けた社員たちはそれぞれ自己開示をしながら、今も関係性を築いています。