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【2018年3月号】部下との 信頼関係の 築き方

ニュース

部下とのコミュニケーションを図るとき、必ず直面するのが「褒める」ことと「叱る」ことだ。
そのどちらもうまくいけば部下との確かな信頼関係を築くことができるだろう。
リーダー教育で数多くの実績を持つ経営コンサルタントの吉田幸弘氏に話を伺った。

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褒め上手になるために
 
▲おだてるのではなく、事実を褒める
 「褒めて育てる」ことは今や人材育成で大切なポイントのように言われています。しかし、「がんばっているね」「いいね」と言っても相手に届かない場合もあります。というのは事実に基づいた褒め言葉ではないからです。根拠がない褒め言葉は「おだてている」と受け取れます。
 「今月は、前月と比べて新規契約が5件も増えたね。がんばったじゃない」
 「昨日の報告書、顧客ニーズの変化がグラフ化されて、とても分かりやすかった。ああいうのがほしかったんだよ」
 具体的な事実で褒められれば、部下もきっと素直に喜ぶでしょう。
▲部下の視点まで降りて、成長を褒める
 リーダーと同じ視点で部下の仕事を見ないようにしましょう。新人でもこのぐらいならできるだろうと、部下の視点まで降りて見守ることが大切です。それで、過去と比べて少しでもよくなっている点、改善されているところがあれば、「成長したね」と褒めるのです。
 「朝の会議での発言だけど、具体的な提案が盛り込まれていて前回よりも良くなっていたよ」
 「電話でのお客様への商品説明が上手くできるようになったね」
 上手くできるようになったことに本人は気付いていない場合もありますので、そこを気付かせてあげるのはまさにリーダーの務めです。
▲褒め言葉になる「相づち」
 「相づち」は、褒めるのに大切なツールだと思います。「さすがだね」「すごいね」「その考え方は面白い」などの肯定的な相づちはうれしいものです。これにさらに具体的なひと言を付け加えれば相づちはより効果的な褒め言葉となります。
 「さすがだね! 頼んだ報告書、もう作ってくれたんだね」
 「すごいね! 今週もチームトップだよ」
 「その考え方は面白い! もう少し詳しく聞かせてよ」 
▲自分自身を褒めるようアドバイスしてみる
 ネガティブな部下の場合、褒められても「いえ、自分なんてまだまだです」と肯定的にとらえることができない場合があります。そんなリアクションがあったら、「自分自身を褒めることも大切だよ」とアドバイスしてみましょう。「できないところではなく、できたところを見て、“できて良かった” “自分は結構がんばったんだ”と自分を褒めてみるんだよ」と。
 そういう指導も「褒める」「褒められる」という意識を持つ上で効果的だと思います。
 
 
 
リフレーミングで褒める
 
 褒めるよう心掛けてはいるものの、なかなか褒める長所が見つからないという部下もいるでしょう。実は短所と長所は表裏一体。短所だと思っていたことが、視点や言い回しを変えると長所に見えるのです。これを心理学では「リフレーミング」と言います。例えば、
・細かくて神経質→よく気がつく
・消極的な性格→慎重派
・飽きっぽい→好奇心旺盛
 私はかつて消極的なタイプの部下には「君は慎重派だから、昔からの大切な顧客も任せられるよ」とプラスに変換して伝えるように心掛けていました。これは長所を褒めるよりも、はるかにインパクトがあったようです。部下の欠点や短所をいつでも褒め言葉に言い換えできるように考えておきましょう。
 
 
 
経験の浅い部下には当たり前のことを褒める
 
 周囲も認める優れたスキルを持つ部下や成果を上げている部下は褒めやすいのですが、経験の浅い部下はなかなか褒めにくいもの。それでリフレーミングのテクニックを紹介しましたが、「できて当たり前のことを褒める」ことも効果的です。
 指示されたことはできて当たり前で褒めるに値しないと思う方もいるかもしれません。しかし、経験が浅いわけですから、指示通りとはいえ、きちんとやり遂げる能力があり、真面目に取り組んだことによるもの、と褒めるに値することと言えます。
 「細かいところまできちんとできていたね。会議で説明しやすかったよ」
 「頼んだ期日までに仕上げてくれたね。スムーズに次の工程に移れたので助かったよ」
 仕事以外で、遅刻しないことや、呼ばれたらきちんと返事をすることでもいいのです。
 「いつも気持ちのいい返事をするよね。チームのみんなにも見習ってもらいたいよ」と褒めます。
 
 
 
 
叱るときの大事なポイント
 
▲叱ると怒るは違う
 部下を叱る目的は、「行動改善」が大前提といえます。強く言えば部下に伝わるわけではなく、それは自分視点の感情的な「怒る」場合が多いのです。そうなるとリーダーは自分の感情をきちんとコントロールしなければなりません。
 お客様からのクレームが多いのなら、どんな言葉遣いや対応をしているのかを探り、改善を図るために叱ります。怒っていてはなんの解決にもつながりません。
▲「なぜ」ではなく、「何」と聞く
 「なぜ、期日に間に合わなかったんだ?」
 このように「なぜ」と言われると責められている感じがして、言葉に詰まり、思考がストップしてしまいます。これを「何」で聞いてみるのです。
 「期日に間に合わなかった要因は、何だと思うかな?」
 これなら、反省と共に部下も自分の行動のどこに問題があったのかと、振り返ることができます。自分自身をそれほど責めずに客観視でき、話しやすくなるのはもちろん、「次からはこうします」と部下自身が対策を考えることにもなります。
▲1つに絞って「叱る」
 私も経験があるのですが、営業のロールプレイング研修で上司からたくさんのダメ出しをもらったときです。何から直したらいいのか分からず、すべてスルーしてしまいました。
 そこで教訓ですが、1回につき叱る内容は1つに絞りましょう。複数を指摘されても部下には優先順位がつけられません。しかも、叱る内容に関連して思い出し、「そういえば、この前も同じことをやったよな」と今の目の前のことではなく過去の話を持ち
▼リーダー行動学▲
出すのは避けましょう。部下は混乱するだけです。
▲叱るときは改善提案も示すことも
 行動改善のために叱るわけで、部下が自分でその改善案を考えるのがベストです。しかし、できなかったわけですから、「どのようにすれば良くなるのか」の改善案をリーダーが示したり、一緒に考えたりすることも大切です。自転車の補助輪のように寄り添う気持ちが「叱る」中には含まれています。
 
 
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怒らないための感情コントロール術
 
 私はかつて「万年湯沸かし器」などと呼ばれ、部下がミスしたり、言ったとおりにしないと烈火のごとく怒っていました。すると部下には「怒られた」という悪い印象だけが残り、行動改善にまで頭がまわらなくなって、また同じミスを起こしてしまいます。こうなると部下が悪いのではなく、指導するリーダーに要因があるといえます。感情を抑制する簡単な方法を紹介しましょう。
▲怒った内容を紙に書く
 紙に書くという行為は、鎮静作用があります。書いているうちにイライラが収まってくるのです。そして、怒った内容を紙に書きながら、今回の件は何が問題点で、どのように指導しようかと、整理できるメリットもあります。
▲一度席から離れる
 部下から報告を聞き、カチンときてこれはやばいと自覚できれば「10分待ってくれるかな」と言い、いったん席を離れます。トイレに行ったり、自販機のコーヒーを飲みに行くのもいいでしょう。カッカした頭を、席を離れることでクールダウンするわけです。

▲怒りを点数化してみる
 人生で一番腹が立ったことを10点にして、今回の件での怒り度の点数を付けてみるのです。「あのときに比べれば2点か、3点ぐらいか。大したことないな」と思えるはずです。
▲心を落ち着かせるグッズを用意する
 お子さんの写真とか、美しい風景写真などをPCやスマホの待ち受け画面に設定しておくとか、心を癒すグッズを用意しておきます。カッカしてきたらそれらを見て心を落ち着かせるわけです。名言集をそばに置いて読むのもいいかもしれません。
 
 
 
遠慮した叱り方はダメ
 
 部下を注意するのは気がひけるという人は、つい次のように言ってしまいがちです。
 「大した話じゃないんだけど」
 「忙しいときにこんな話をして悪いけど」
 「僕もこんなことを言えた柄じゃないんだけど」
 このような遠慮がちな言い方だと部下は「そうか、重要な話じゃないんだ」「まあ、形式的に聞いておけばいいか」と受け取ってしまい、真意は伝わりません。
 ではどうすればいいのか。言いにくい気持ちは正直に話し、その後に大切な話だということをしっかりと伝えるのです。
 「言いにくい話なんだけど、大事なことなのでちゃんと聞いてほしい」
 「これから言うことは君にとって気分を害することかもしれない。でも、重要な話だと思うので伝えるね」
 こういう言い回しだと、部下は「リーダーも言いづらいという気持ちを打ち明けてくれた」と好感を持ってくれることでしょう。
 
 
 
全否定はしない
 
 部下が提出してきたものに、意図するものと違っていると「指示どおりになってないじゃないか。全然違うだろ」と叱りつけながらの全否定は避けましょう。部下は大きなショックを受けてしまい、モチベーションは下がってしまいます。
 「よくやってくれたな」で始めるのです。すると全てができていないわけではなく、部分的にはできている箇所を見つけられるはずです。
 それでもできている箇所が見出せないのなら、提出してきたという行動だけでも「がんばったね」と認めるのでもいいでしょう。
 
 
 
叱った後のフォローも忘れずに
 
 部下は叱られると、当然、気持ちを引きずり、へこんでしまいます。ですから、いつまでも尾を引かないよう、リーダーはアフターフォローをするのも仕事のひとつといえます。
▲叱ったことを謝らない
 へこんでいる様子を見て、「叱ったりして悪かったね」と謝るようなことは言ってはいけません。叱った意味がなくなってしまいます。
▲別の業務の話で切り替える
 フォローとして大切なのは、スパッと切り替えることです。コツは別の業務の話を振るのです。
 「あっ、そういえば、明日の社内報の打ち合わせで総務が来るのは10時だったかな?」
 別の話といっても、「そういえばバイクに乗っているって言ってたよね?」とプライベートな話を振っても効果は少ないでしょう。仕事に対するモチベーションにはつながらないからです。
▲「一杯飲みに行こうか」はNG
 叱った後に「一杯飲みに行こうか」は、やめておきましょう。リーダーにしてみれば、飲みながらざっくばらんにいろんな話をして心をほぐしてやろうと思うかもしれません。しかし、叱られた部下は、リーダーとこれ以上一緒にいたいなんて思わないですし、早く帰りたいもの。一緒に飲みに行けばよけいに引きずってしまいかねません。
▲次のアクションの手伝いをする
 叱る目的は行動改善ですから、叱った後は「何から取り組もうか」と次のアクションを自分なりにどのように考えているのかを尋ねてみます。いい考えならそれでOKですし、だめなら「他にないだろうか」と部下が自ら方向性を導き出せるように一緒に考える。そういうフォローが必要だと思います。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)