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【2016年11月号】実力を100%出せる認知科学的なイメージトレーニング法

ニュース

 いざ、本番となると、どうしても緊張してしまう。
人前であがらない方法はないのだろうか? と思ったことが誰しもあるはず。本番でも実力が出せるという認知科学を活かした今、注目のトレーニング法で指導する山本教夫氏にうかがった。

 
 
人工知能の開発分野でもある認知科学を活かしたメソッド
 
 
 絶対に失敗したくないときに、緊張することなくいつも通り、練習通りの力が出せたらどんなに良い結果が得られるだろうと、誰しも考えたことがあるでしょう。
 その解決法のひとつが、認知科学を基にした目標達成メソッドであり、大脳生理学による脳の中で起きている現象と、認知科学の観点からアウェーでもホームのように振る舞えるイメージトレーニング法なのです。
 認知科学とは、「心はどのように働くのか」といったように、人間の知覚・記憶・思考・推理などの高度な情報処理機構の解明やコンピューターでこれらの機能を実現する総合科学。例えば、人の心を機械が理解できるようにして人工知能を作ったりする分野です。
 以前の心理学などでは心の仕組みの中身はわかりようのないブラック・ボックス(以下B・B)としていました。そのB・Bに、こういう入力(刺激)をすれば、こういう出力(反応)がでる。入口と出口ばかりのデータをとっていたのです。
 そのB・Bをしっかり研究していこう、数式化していこうというのが認知科学といえます。今回ご提案するプレゼンテーション(以下プレゼン)であがらないイメージトレーニングは、そうした認知科学の考え方を基にした、どなたでも簡単に取り組めるものです。
 
 
アウェーで緊張するのは誰もが本能として持っていること
 
 
 さて、そもそもなぜ人は、人前に出るとあがるのでしょうか。そこからお話していきましょう。
 サッカーの試合でよく使う「ホーム&アウェー」という言葉があります。ホームでは落ち着いて実力を発揮できますが、アウェーでは緊張して思うように働けないということがよくあります。そのことは大昔、狩猟時代にまで遡って、人間の本能に組み込まれてきたことなのです。
 狩りに出掛けるときは身体能力を上げなければうまく狩りはできません。いわゆる興奮物質のアドレナリンなどをたくさん出して、視覚を集中させて獲物を見つけ、薮の中から動く音を聞き分ける聴力を研ぎすませる。五感の感度を上げなければ、普段より身体能力を上げて走ったり、打ったり、投げたりできません。
 つまり、ホームから、狩りのためにアウェーのフィールドに出れば、五感を鋭くさせるために緊張することは、人の本能に備わっていること。普段と違うところに行けば緊張する。これはごく当たり前のことなのです。

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イメージトレーニング①
プレゼンする相手は予定より多く想定する
 
 
 こうして見てくると緊張というのは、元々生命維持のためのものであって、何も悪いことではありません。それをうまく活かすのが、これからお話するイメージトレーニングなのです。
 得意先でプレゼンをするという場合を想定して見ていきましょう。人前で話す時、緊張するかしないかの境目は、「人数」である場合が多いようです。昔は「人と思うな、カボチャだと思え」と言われたりしましたがそんなのは無理な話です。
 もし相手が10人ぐらいだというのが分かっていれば、イメージトレーニングとしては30人、40人もいると想定してみましょう。イメージトレーニングはハードルを高くしておくのがポイント。すると、本番では「なんだ、10人しかいないのか。思っていたより少ないから気楽に話せるな」と思えるようにするわけです。
      
      
イメージトレーニング②
プレゼン場所を実際に見ておく
 
 
 先ほど話しました、緊張させる心のB・Bが何でできているかといえば、それはこれまで見聞きして経験した事が溶け合っているというか、絡まり合ったものでできているのです。それが今のあなたの心のB・Bといえます。
 そこへ、今まで会ったこともない人の前で、経験した事のないたくさんの人数の前で、プレゼンをやるというのは、そのことに対応できる経験値を持ってないわけですから、あがって当たり前。完全にアウェーです。
 ならば、そのB・B内を書き換えればいいのです。B・Bは経験でできていますから、例えば、プレゼンの場所がわかっていれば、可能なら実際にその場所に出向き、見ておくのです。それが一つの経験となってあなたのB・Bに組み込まれます。
 
      
イメージトレーニング③
セミナーやミーティングで雰囲気をつかむ
 
 
 会議室のような場所で行われる数十人程度のセミナーやイベントがあれば、参加してみましょう。どういう雰囲気があるのかを五感で感じ取るのです。部屋の大きさ、明るさ、マイクの響き具合、窓の配置、人の雰囲気といった経験の材料を仕入れるのです。
 また、自社の朝礼や会議などでたくさんの人が集まる機会でも構いません。ほんの数秒でいいので、前に出てその場にいるみんなの顔を見ておきます。
 先のセミナーならわざと少し遅れて、壇上近くのドアから入ってみてください。一斉にあなたを見るかもしれません。でもそれが、数秒のことでも「人前に出る」という経験の材料になります。
 つまり、五感でリアルに感じたことをイメージで再現できる材料をなるべくたくさん仕入れましょう。材料があればそれだけイメージしやすくなります。

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イメージトレーニング④
朝起きたところからイメージをスタート
 
 
 イメージトレーニングを行うには、集中できて、なおかつリラックスできるような場所が望ましいです。ソファやイスなど、ゆったりと腰をかけて、身体がリラックスできる姿勢を作ります。
 軽く目を閉じます。そして、朝起きたところからイメージしてみましょう。顔を洗い、美味しい朝食を食べ、勝負服を着て、元気よく出勤します。そして取引先へうかがい、会議室に通されます。そこにはたくさんの人が座っていて、あなたは颯爽と壇上に立ち、考えてきた企画の素晴らしさを淀みなく説明するのです。聴衆の誰もがあなたに関心の目を向けています。想定する質問にも的確に答え、あなたは大きな手応えを得て、壇上を降りていくのです。
 こうしたイメージトレーニングを繰り返すことで、B・Bが変わってきます。B・Bを構成する大きな要素の一つが「無意識」と呼ぶ領域なのですが、実は騙されやすいという面もあります。リアルなイメージトレーニングを何度も何度も繰り返すと、実際にそうしてきたんだと勘違いしてしまうのです。イメージトレーニングというのはその勘違いを利用するという側面もあります。
 
 
イメージトレーニング⑤
イメージする絵に自分の姿があってはダメ
 
 
 男女の違いは、これは私の主観ですが、男性のほうがあがりやすいでしょうね。
 最初に言いましたように、男性はホームから外へ出て狩りをしに行きましたが、女性はずっとホームにいます。女性は狩りのためにアドレナリンを出す必要がないので、緊張することがあまりなかったでしょうね。
 ここで一つ注意点があります。イメージする絵の中にあなた自身がいてはだめです。あなたが壇上でプレゼンしている姿を思い浮かべてはいけません。実際のあなたは鏡でも見ないかぎり、自分の姿は見えませんよね。壇上で話すあなたに見えているのは、あなたのことを見ているたくさんのクライアントたちの顔のはずです。
 フィギアスケートで3回転ジャンプのイメージトレーニングでも、自分が回転している姿をイメージするのではなく、自分を中心に周りの景色が回転している絵となるはずです。
 ですから、会議室で後ろから見ている光景をイメージするのではなく、壇上から人の顔を見ているという絵にしなければイメージトレーニングになりません。
 
      
実際のプレゼンで…①
楽しそうに聞いてくれる人を探す
 
 
 とはいえ、実際のプレゼンとなると、あんなにイメージトレーニングしてきたのに、現場で予想外のことがあって一気に緊張のスイッチが入ってしまう。当然、そういうこともあるでしょう。
 そういうときはよくやってしまうのが、つい面白くなさそうにしている人を見てしまうことです。そうなると意識はその人のことばかりが気になって、「私のプレゼンはつまらないんだ」とネガティブな感情が起こり、あがってしまって、実力が出せないことになってしまいます。
 そういう場合は、楽しそうにしている人、聞いてくれそうな人、よく頷いてくれている人を探すのです。そして、意識してその人に向けてプレゼンするといいでしょう。肯定的な雰囲気の中に自分を置くと気分は安らぎ、元気も出てきます。
 
      
実際のプレゼンで…②
目的を明確にし、熱意で臨む
 
 
 そもそもですが、大切なのは、なんのためのプレゼンか、ということです。プレゼンの目的をしっかりととらえておくことが大切です。やらされている感があってはうまくいきません。
 何を伝えたいのか。私はこの商品やサービスのこういうところに惚れ込み、これを最大限に活かす素晴らしいアイデアを考えてきた。このアイデアは御社にとって必ず利益をもたらす、という熱意を伝えること。それがプレゼンではなによりも必要となってきます。
 目的に向かう熱意がないと、いくら材料を仕入れてきてもうまくいきません。あくまでもプレゼンは目的に近づくための手段の一つ。熱意があれば、プレゼンそのものも変わってきます。イメージトレーニングも熱意があればよりうまくいくでしょう。