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【2015年10月号】 その「常識」が、 成長を阻む壁になっている part2【マネージャー編】

ニュース

ビジネスの世界にも「マネジメントはこうあるべきだ」という「常識」があります。
実はその「常識」の多くが単なる思い込みや錯覚にしか過ぎず、
事業運営に悪影響を与えていると経営コンサルタントの大庭真一郎氏は指摘します。
今回は弊害を生み出しているマネジャーが思い込んでいる「常識」を取り上げ、
事業運営上の壁となるものを探ってみましょう。

 

マネジメントに関する常識の壁

マネジャーの役割

 マネジャーとは、チームを率いる管理職者です。社長の下した方針に則ってチームを牽引しながら社長に現場の正確な情報を報告したり、チームのスタッフを、希望を持って働こうという気にさせて、持てる能力を存分に発揮できるようにしたりすることが役割といえます。 
 そんなマネジャーに対して社長は、スタッフを成長させチームの成績が上がるようなマネジメントをしてもらいたいという期待と、社長の考えや社長が思い描く会社の方向性をスタッフに正しく伝えてもらいたいという期待を持っています。
 ですから、単に長く勤めた結果、地位が上がってマネジャーになったのだという意識であれば、会社に危機をもたらしかねません。それほどマネジャーというのは重要な役割を担っているのです。

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「マネジメント=管理」という思い込み

 マネジメント=管理という感覚が、多くのマネジャーの意識にはびこっているようです。
 管理とは、業務管理や勤怠管理など決められたルールに則って一定の物事を取り仕切ることですが、それは、マネジメントのほんの一部にしかすぎません。
 マネジャーが行うマネジメントは、本質的には社長が行うマネジメントと変わらないのです。チームの目標を立てて、スタッフや取引先、情報といったチーム内に存在する資源を上手に活用しながら、求められた結果を実現します。チームの目標を立てるときには、社長の承認を得た上で、スタッフにも理解させます。
 そのような役割を担う中で、日々の業務管理やスタッフの勤怠管理などが発生するのです。
 マネジメントと管理が異質なものだということを理解しないままマネジャーとしての立場に就くということは、マネジャーとしての仕事を放棄しており、その資質はないに等しいと私は思っています。

 

「社長の作った数字が絶対」という思い込み

 マネジャーは、チームの目標を立てますが、このときにも大きな常識の壁があります。「社長が作った数字が絶対だ」という思い込みから、社長から示された数字を丸呑みしてチームの目標にしてしまうことです。
 社長は、会社全体でこのような数字を実現したい、ならば各チームにこれくらいの数字は達成してもらいたいという試算をしているだけなのです。
 社長がすべての現場をマネジメントできないので、マネジャーという役割があるのです。正しくは現場を良く知るマネジャーが実現できそうだと思える数字を作り、その内容を社長と共に検証し、互いに納得した上で、会社全体とチームの目標数値が確定されることが本筋といえます。
 実態にそぐわない数字がチームの目標として立てられ、ふたを開けてみると実態に即した数字しか達成できず、それが会社全体の目標とのギャップとして表れ、会社が苦境に陥る場面は実によく見られます。今年、某大手総合電機メーカーで、現場を無視した目標を押し付けられたマネジャーが、社長には逆らえないからと粉飾めいた対応を行ったことは、記憶に新しいところです。

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「プレイした上でマネジメントを行えばよい」という思い込み

 多くのマネジャーは、自分自身の日常業務をこなしながらマネジメントを行うことになります。その過程で、大きな錯覚が生じます。それは自分の日常業務をやり終えた上で、余力の範疇でマネジメントを行えばよいという思い込みです。
 マネジメントは、片手間でやれるレベルのものではありません。成果を実現するために、現場で使える資源を上手に活用し、進捗管理も行う。つまり、マネジメント自体、常に行わなければならないものなのです。人一倍働いているのにチームの成績が振るわないからと社長に叱責されるその原因は、マネジャーが自分の業務のことばかりに目がいってしまい、チームのマネジメントが疎かになっているからでしょう。
 自分の日常業務とマネジメントとの間に優先順位はありません。日常業務をやりながら、同時並行でマネジメントを行うしか方法はないのです。
 その方法とは、マネジャー自身が自分の日常業務のやり方を改善し、担当業務の一部を他のスタッフに移管して身軽になるなど、マネジメントを行える環境を整えるための工夫を凝らすことです。

 

「部下にはっぱをかける=マネジャーとしての仕事をしている」という思い込み

 マネジャーには、スタッフを鼓舞しフォローしながらチームとしての成果を追い求めていく役割があります。ところが、そこにも常識の壁が存在するのです。それはスタッフにはっぱをかけることでマネジャーとしての責任を果たしたのだと錯覚してしまうことです。
 はっぱをかけなければならないのは、スタッフの仕事の結果が思わしくない状態にあるからです。しかしそれは、スタッフの頑張りが足りないからなのではありません。スタッフはすでに頑張っているのですが、結果を出すためのやり方がわからないのです。
 そんなスタッフのことを精神的に追い詰めると、壊してしまうことにつながりかねません。結果を出せないスタッフに対して、「頑張れ!」の一言で終わらせてしまっているとしたならば、マネジャー失格です。
 マネジャーには、スタッフが結果を出すためになにが必要なのか、どのようなプロセスが必要なのかを判断し、指導することが求められます。そのために、常にスタッフの行動に目を光らせ、スタッフの話にじっくり耳を傾ける姿勢が必要なのです。

 

部下の育成に関する常識の壁

「今の若いヤツは○○だから」という思い込み

「今の若いヤツは○○だから」というのはいつの時代もよく聞かされるセリフです。
 世代が異なれば時代背景や生活環境も異なり、ものの考え方や価値観、嗜好などが異なることが多いため、このようなセリフが生まれるのは当たり前。その当たり前がマネジャーの常識の壁となって、部下の育成がスムーズに進まない原因を作っていることが多いのです。
 組織に属する人間として、組織の方向性に基づいて個人としての能力を高めていくことが育成であり、そこに世代による考え方の違いに左右される余地はありません。
 部下の育成の場面で「今の若いヤツは○○だから」というセリフが出てくるのは、マネジャー自身が最初からコミュニケーション・ギャップがあるものと思い込み、壁を作っているからです。加えて、部下が育たないことへの理由にもしています。
 呑ミュニケーションとか、打たれながら伸びるといった昔のやり方が通用しないという声もありますが、それらは接するときの手段の問題です。マネジャーとして教えられることや部下自身が成長することを受け入れようとする姿勢は、今も昔も変わりません。
 「今の若いヤツは○○だから」という言葉を口にした時点で、自分のほうから壁を作っていることをマネジャーは気付く必要があるでしょう。

 

「伸びるヤツは放っておいても伸びる」という思い込み

 人には、のみ込みの早いタイプとそうでないタイプがいます。のみ込みが早いタイプの人は、一見して、手取り足取りのような教育をしなくても自然に育つ、という錯覚に陥ることが多いようです。
 多忙なマネジャーにとって、部下の育成は、手を抜きやすい分野でもあります。そのため、のみ込みの早い部下には、「彼は、手取り足取り教えなくても成長するだろう」という感覚で手を抜いてしまうのです。
 これは大きな間違い。のみ込みが早い人間であっても、頭の中で理解したことを生かす場を与えなければ育ちません。知識を習得した部下に、それを生かせる仕事を与えることで、部下は成長するのです。
 反面、生かす場を与えずに放置した場合、部下はこの会社にいたのでは自分は成長できないと思ってしまい、士気は低下し、成長の芽を摘んでしまうことになってしまいます。
 部下の育成に関して、部下の資質の程度に関係なく、一定の知識を習得させた上で生かす場を与えるというのもマネジャーの仕事です。

 

「育成とは業務スキルを高めること」という思い込み

 「部下を育成する目的は?」という問い掛けに多くのマネジャーが、「業務スキルを高めること」と答えます。間違いではありませんが、マネジャーの視点としては物足りません。
 チーム全体のキャパシティーが拡大することで生産性が高まり、会社の収益も上がるのです。よって、マネジャーであるならば部下のキャパシティーが拡大することで自分自身のキャパシティーも拡大し、それによりマネジメントできる範囲が広がり、チームも強くなれるという発想を持って、部下の育成を行ってほしいものです。
 それであれば、部下も成長した自分が会社やチームに貢献する姿にリアリティのあるイメージを持つことができ、がぜんヤル気が出てくるでしょう。
 反面、マネジャーにそのような発想がなければ、単なる習熟度の向上というイメージしか持てず、部下の視野も広がりません。
 マネジャーとしての役割を果たすためにも、先程も述べた、日常業務をやりながら同時並行でマネジメントを行うための方法としてマネジャー自身の業務をスタッフに移管することと、部下の育成とをリンクさせて行動するのが効果的だと思います。

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「教えるよりも自分でやった方が早い」という思い込み

 部下の育成に関しては、業務を行う中で教えることが多いと思います。習熟度が低いと、何度も失敗します。その場合、失敗したことを糧にして、同じ失敗を繰り返さないために何が必要なのかを教えるのが教育ですが、この場面でマネジャーの錯覚が生じることが多いのです。
 それは、業務を通じて部下を成長させることを目的としてやっていることが、いつしか業務自体をつつがなく終わらせることが目的となってしまうのです。そのことで、教えるよりも自分でやったほうが早いという気持ちが生まれ、部下の育成の部分がおざなりになってしまいます。
 そうなると部下が育たないのはもちろんのこと、チームの生産性も上がらず、そして部下が育たないことにマネジャーがストレスを感じるという悪循環に陥ってしまいます。
 そのためにも業務をつつがなく終わらせなければならないという課題と、部下を育成するという課題は切り離す必要があります。つまり、業務を通じて行う育成の場合は、その業務に関しては、日々の業務計画の中とは別にしておきましょう。
 そして部下を育てたいのなら失敗させることです。失敗の中に、成長するためのヒントが隠されています。それなのにマネジャーが代わりにやってしまえば、部下の成長機会を奪ってしまうことになるのです。
 いかがですか。チームの成果がかんばしくない、部下がうまく育たない、といった場合、こうした「常識にとらわれていないか」と考えてみるのも、対策を講じるうえでのいいヒントになるのではないでしょうか。